「最も価値がある」とは何か。大谷翔平のMVPノミネートから見る日米の“価値観”の相違

「最も価値がある」とは何か。大谷翔平のMVPノミネートから見る日米の“価値観”の相違

MVP投票トップ3に入った大谷。もはや驚きもないが、彼のノミネートもまた日米の違いの一つと言えるかもしれない。(C)Getty Images

あまりに“当然”すぎるアナウンスがなされた。全米野球記者協会(BBWAA)は現地時間11月8日、最優秀選手(MVP)とサイ・ヤング賞の投票上位3人を発表し、大谷翔平(ロサンゼルス・エンジェルス)がア・リーグMVP候補に選出された。受賞となれば、日本人では2001年のイチロー以来となる快挙であるが、ここまでの流れを鑑みれば、争点となるのは「満票か否か」に絞られている。 

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 今年のMVP上位3人の顔ぶれは以下の通りだ。 
<ア・リーグ> 
●大谷翔平(エンジェルス):投手&DH 
●ブラディミール・ゲレーロJr.(ブルージェイズ):一塁手 
●マーカス・セミエン(ブルージェイズ):二塁手 

<ナ・リーグ> 
●フェルナンド・タティースJr.(パドレス):遊撃手/外野手 
●ブライス・ハーパー(フィリーズ):外野手 
●ホアン・ソト(ナショナルズ):外野手 

 実は、この6人の中で打率・本塁打・打点のいわゆる打撃三冠を獲得したのは、ゲレーロJr.とタティースJr.の2人しかいない。しかも、ポストシーズンに出場した選手も一人もいない、というのは“日本的”に言えば驚きではないだろうか。 
  1980年以降、日本プロ野球の最優秀選手はのべ82人選出されているが、優勝チーム以外からのMVPは計11人しかいない。その中には三冠王を獲得した落合博満(1982・85年)、松中信彦(2004年)らがいて、日本プロ野球歴代最多本塁打を放ったバレンティンが唯一の最下位チームからの選出(2015年)ということもあったが、いずれも球史に残る活躍をしてはじめて、MVP選考の土台に乗った感もある。それだけ、日本においては「優勝」というファクターが根強い。 

 一方で、先に述べた通り、大谷を含めてMVP投票トップ3の選手たちは、いずれも優勝とは無縁だった。特に、ソトが所属しているナショナルズは今季ナ・リーグ東地区最下位、メジャー全体でも勝率ワースト5位に沈んでいる。しかもタイトルホルダーでもない。それでも、これだけ好意的な評価を受けているのは、メジャーのMVP投票において、チームの勝利はそれほど重要視されていないからだ。 

 数十年前までは、優勝チームや、勝利に貢献している指標として打点が重視されていた時期もあった。しかし、「Most Valuable Player」における「価値のある」部分の定義が検証されていき、今では“突出した”パフォーマンスを残した個人を評価する風潮となっている。それはタイトル云々ではなく、「いかに高いWARを残したかどうか」という形だ。 
 

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 WARとは、打撃・走塁・守備・投球を得点価値というスケールに落とし込み、すべての選手を一つの指標で比較していくもの。Wins Above Replacementの頭文字を取っていて、「勝利」にどれだけ貢献できたのかを示している。

 メジャーでは大手2大データサイト『Baseball-Reference(BR)』と『FanGraphs』が算出しているものが有名で、今回の投票上位を『BR』版で見ていくと、ア・リーグでは大谷が1位(9.0)、セミエンが3位(7.2)、ゲレーロJr.が4位(6.8)、ナ・リーグはソトが2位(7.0)、タティースJr.が4位(6.5)、ハーパーは11位(5.9)だった。 

 WAR上位3人がそのまま選ばれているわけではないものの、例えばア・リーグ二冠王、しかも捕手歴代最多本塁打数を記録したサルバドール・ペレス(カンザスシティ・ロイヤルズ)が“圏外”というのは、所属チームが下位だとしても、日本的に言えば「あり得ない」だろう。しかし、ペレスは 『BR』メジャー29位(5.3)、『FG』では92位(3.4)と意外なほど低評価だった。 

 タイトルホルダーは今でも称賛される。しかし、真の意味で優れた選手かどうかとなると話は別、というのが今のメジャーの考え方だ。記者はもちろん、ファンもさまざまな考察記事やデータに触れる環境が整い、野球観を磨き続けている。
  先のペレスで言えば、出塁率が低いことによる打力の貢献がさほど高くないこと、守備でもフレーミングなどに課題を抱えていることがWARの伸び悩みにつながった。「タイトルすごい! よしMVP!」のような安直な発想だった時代は、もう終わりを告げたと言っていい。 

 なぜなら、“愚か”な選択をした記者は相当にバッシングされるからだ。メジャーのアウォード投票は、どの記者が、誰を、どの順位で投票した/しないが一目で分かる。それだけに、投票者には説明責任が求められ、その義務を果たしてはじめて“本物”なのである。 

 今年のMVP投票では、史上初めて両リーグともポストシーズン出場を逃した選手がトップ3に入った。その中では少なくない部分でWARに基づいて投票した記者もいただろう。ハーパーはリーグ11位にとどまったけれども、OPS(出塁率+長打率)は両リーグ1位という攻撃力を高く評価した者もいたに違いない。「優勝チームじゃないとダメ」「タイトルホルダーじゃないとダメ」とフィルターをかけていくと、“Valuable”な選手を考えるにあたり、狭い範囲から選ばないといけなくなる。 

「価値のある選手とは何か」。これを突き詰めた先がMVP投票の本来の姿だ。大谷は優勝チームでもタイトルホルダーでもないけれど、誰が見ても「価値ある選手」だったはず。日本でもMVP投票が大いに注目された今だからこそ、改めて「Most Valuable」とは何なのかを考えるいい機会になったように思う。 

構成●新井裕貴(THE DIGEST編集部)

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