好打者ほど騙される?調子が悪くてもロッテ打線をシャットアウトした山本由伸の“速いカーブ”<SLUGGER>

好打者ほど騙される?調子が悪くてもロッテ打線をシャットアウトした山本由伸の“速いカーブ”<SLUGGER>

プロ5年目にしてCS初登板。しかし、山本はさすがは投手五冠とも言うべき貫録をピッチングを見せつけた。写真:塚本凛平(THE DIGEST写真部)

捕手の若月健矢によれば、サインは一つしかないという。

 「110キロくらいのものと130キロを超えてくるのと、それをこちらの意図を理解してしっかり投げ分けるんですから、凄いピッチャーだなと思います」

 11月10日、両リーグのクライマックス・シリーズ、ファイナルステージが開幕した。パ・リーグは首位のオリックスとロッテが対戦。オリックスはエースの山本由伸が初戦のマウンドに立ち、ロッテ打線を4安打シャットアウトに仕留めた。1回裏に味方打線が挙げた虎の子の1点を守り切っての快投劇だった。

「立ち上がりは球を操りきれずに、先頭を出したり、2死からヒットをたくさん打たれたりしたんですけど、途中から修正して低めに投げれた」
  本人がそう振り返っているように、今日の山本は決して本調子ではなかった。登板間隔が離れていたこともあっただろうし、初のCSに期するところもあっただろう。立ち上がりはいつもほどの支配的なピッチングではなかった。

 そのなかで山本を助けたのが、130キロ近いカーブだった。

 1回表、先頭の荻野貴司に出塁を許し、2死二塁のピンチで4番のレアードを迎えた場面では、カウント3ボール2ストライクからの6球目にカーブを投じて見逃し三振。4回2死三塁のピンチでも、6番の山口航輝に対してカウント2-2からのカーブで、これもまた見逃し三振に切って取っている。

 この日投げたカーブは、カウントを取るケース、ファールを取りに行くケース、勝負球に使うケースとさまざまだったが、球速をつけての投げ分けは若月の冒頭の言葉にあるように、山本のピッチングセンスの高さそのものと言っていい。
  山本の投げ込むカーブが特殊なのは、勝負球で投げる速いカーブだ。通常、カーブはドロンとして浮き上がってから変化していく。そのため、球速が遅いケースが多い。山本の場合、ストレートをはじめ、カットボール、フォークも速いため、それに比べれば遅いのだが、一般的なカーブよりやや速い。これが厄介なのだ。

 昨今の投手は、速いストレートを軸に速い変化球で勝負するケースが多い。俗に言う「動くボール」だ。打者のミートポイントが捕手寄りに設定され始めたことに対抗するためで、緩急をつけるよりも、打者の球種の判断を遅らせた方が良いとされているからである。

 しかし、球速が近い球ばかり投げていると、コントロールミスをした時に、タイミングがあってしまう危険性も孕んでいる。その危機回避には球速帯を変えることも必要なのだ。

「カットボールなど速い系の球種に偏らないことを意識しました。CSだからと言うわけではなくて、シーズン後半、僕が組むようになってからはカットボールを多用しなくなりました。優先順位としたらカーブの方が高いのかなと思います」と若月は言う。
  ただ、間違ってはいけないのは、これらの投げ分けは緩急をつけるためではないことだ。先ほども書いたように、最近は好打者ほどミートポイントを後ろに置いていて、球速があまりにも違うとすぐバレてしまう。かつてのようなドロンとしたカーブだと、球種を判別してからでも打ちに行くことは十分にできたのだ。

 ところが、山本のカーブは球速があるため、打者がカーブと分かってから手を出そうと思っても間に合わない。レアードや山口が見逃し三振を喫しているように、球速があるカーブが効果的に作用していると言うわけだ。

 山本は言う。

「今日の1勝は大きいと思います。ドキドキしながら投げていましたが、勝ち切ることができてホッとしています」

 序盤の調子が良くない中、山本はカーブを駆使してゲームを組み立てた。5回からはパーフェクトピッチングで、結局その後は9回まで一人の走者も出さなかった。

 ここ1番の試合で見せたエースの快投は、チームを勢い付けるはずだ。

【CSファイナルPHOTO】オリックス1-0ロッテ|エース山本、無四球&10奪三振で完封勝利!T-岡田が初回先制タイムリー!

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』『甲子園は通過点です』(ともに新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。
 

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