元ヤクルト・風張蓮も米国へ“輩出”。「アジアンブリーズ」が提供する、アメリカ球界への新たな『移籍』の形

元ヤクルト・風張蓮も米国へ“輩出”。「アジアンブリーズ」が提供する、アメリカ球界への新たな『移籍』の形

ヤクルトで中継ぎ右腕として活躍した風張は、アジアンブリーズでの好投を評価されて米独立最高レベルのチームへ移籍を果たした。写真提供:アジアンブリーズ

MLBのロックアウトが明け、広島からポスティングシステムで移籍を目指す鈴木誠也の動向が注目される一方、いち早く渡米し、アメリカ球界から這い上がろうとしている日本人選手たちがいる。

 とりわけ興味深い選択をしたのが、昨季限りでDeNAを契約満了となった右腕投手・風張蓮だ。社会人野球やメキシコのプロ球団から受けたオファーを断り、自費で渡米してトライアウトを受ける道を選んだ。

「NPBではヤクルトをクビになり、DeNAに入ったけれども1年で戦力外になったわけじゃないですか。もう1回NPBでやりたいと考えたら、心身ともにダイナミックな変化が必要です。そこで『選択肢を増やす』というアジアンブリーズの理念を伝えたら、共感して参加することになりました」

 そう事情を明かしたのは、アジアンブリーズというトラベリングチームを2019年に設立した色川冬馬CEOだ。同氏はアメリカや中南米でプレー、イラン代表やパキスタン代表などを率い、昨季からBCリーグの茨城アストロプラネッツでGMを務めている。独自で築いた人脈と上達法を伝えながら右腕投手の松田康甫をドジャース、ともに外野手の山中尭之をオリックス、大橋武尊をDeNAに送り出した。
  色川氏は球団の枠を超えて多くの選手にチャンスを増やすべく、今年2月、アリゾナスカウティングリーグをスタートさせた。それぞれ約20人の日本人、外国人選手を2チームに分け、13日間で毎日試合を実施。MLBやNPBのスカウト、日米の独立リーグの監督やコーチを招待してトライアウトを実施した。参加選手のレベルはピンキリで、昨季韓国のロッテ・ジャイアンツで9勝を挙げたベネズエラ人右腕のエンダーソン・フランコから、日本人大学生で野球部に所属していない選手までいる。

 トラベリングチームはその名の通り、各地を転戦しながら試合を行っていく。日本では珍しい形態だが、アメリカの少年野球ではよくあり、独立リーグでも同様の方式で参戦するところもある。そうした座組みで日本人がアメリカで試合をする意義について、色川氏はこう話した。

「アジアンブリーズはアメリカ式の野球を現地で行ない、レベルの高いところから低いところまで、日本では見られないものが見えます。参加する選手たちは、向こうからやってくる選択肢をただ待っているのではなく、自分から取りにいかなければいけない立場だよね、と。

 アジアンブリーズに参加すれば、アメリカの三大独立リーグであるフロンティアリーグ、アメリカン・アソシエーション、アトランティック・リーグのスカウトが見にくる。加えてメジャーリーグの球団とも試合をしているので、そこで突き抜けたパフォーマンスを出せればマイナー契約のチャンスもあります」
  現在29歳の風張は東京農業大北海道オホーツク時代から高いポテンシャルを注目され、2014年ドラフト2位でヤクルトに入団。1年目から一軍で投げ、18年には53試合登板と中継ぎとして活躍したが、その後は思うような成績を残せず、20年限りで契約満了。昨季は合同トライアウトを受けてDeNAに加入したが、オフに自由契約となった。再び合同トライアウトに参加したものの手を挙げるNPB球団はなく、新たな選択肢を示したのが色川氏だった。

 一念発起した風張はアリゾナスカウティングリーグでアピールし、アトランティック・リーグに今季から加盟するケンタッキー・ワイルドヘルス・ゲノムスと契約合意に至った。アトランティック・リーグはMLBの「3A相当」とされ、アメリカの独立リーグでは最もレベルが高いと言われる。新天地でアピールできれば、さらなる道が開けるかもしれない。
  一方、高校時代から「ドラフト候補」と言われながら、花開かずに今後を模索中の選手もいる。昨季限りで社会人野球のホンダ鈴鹿を退団した内山竣だ。左打ちの外野手は静岡高時代から注目され、明治大では日本一も経験。ホンダ鈴鹿では2年続けてレギュラーを張ったが、プロには届かないまま退団した。まだ20代中盤で、色川氏は「上でやれる選手」と才能を見込んでいる。

 そうしてアジアンブリーズへの参加を決めた内山は、アリゾナでスプリング・トレーニングを行うMLB傘下のマイナーチームと3月中旬まで連日のように練習試合を行った。

 ドジャースは右腕投手のライアン・ペピオット、打撃センスが評価されるライアン・ブッシュなど、球団内のトップ有望株が出場。アスレティックスでは100マイル(約161キロ)の豪腕や、昨季途中まで巨人に在籍したエリック・セームズらと対戦した。相手マウンドにはドミニカ人や台湾人投手も登り、ベンチには女性コーチもいる。当たり前のようにダイバーシティが存在する環境は、日本ではなかなか味わえないものだった。

 こうした世界こそ、色川氏が見せたかったものだ。
 「ロックアウトの影響もあり、MLB球団は先行きが見通しにくかった分、うちとしては彼らとの対外試合を例年より組みやすかったです。本来、メジャーにいてもおかしくないような選手もマイナーにいました。アジアンブリーズの選手たちは『楽しい』と口を揃えていましたね。

 それは草野球的な『楽しい』ではなく、プロフェッショナルで超レベルの高い『楽しい』。その裏には、結果を残さなければすぐに切られるという『厳しさ』もあります。そういう中でも日本人選手は周りを見ながら試合に入って“ベター”にこなそうとするけど、アメリカ人は一発目から常に“ベスト”で臨んでくる。そうしたマインドや技術、能力を含めて実力差を感じられたと思います」
  同じプロ野球といえども、日本とアメリカでは大きく異なる。そう実感したことで、昨季飛躍を果たしたのが筒香嘉智だった。

 渡米2年目の昨季後半、筒香はパイレーツに移籍してから持ち前の打棒を発揮した。その上で大きかったのが、ドジャース時代にマイナーを経験したことだという。結果を残さなければすぐに契約を切られるのは当たり前で、自身の可能性を示し続けなければ明日はない。そうした厳しさがメジャーリーグのハイレベルの争いに結びついていることを、身をもって知り活躍に結びついた。

 筒香やメジャーリーガーが身を置く勝負の世界の厳しさを、アリゾナスカウティングリーグやアジアンブリーズに参加した日本人選手たちは垣間見たはずだ。異国で得た貴重な経験を今後、どのように自身の糧にしていけるか。

 海の向こうで新たに踏み出した第一歩が、ステップアップにつながっていくよう願いたい。

取材・文●中島大輔
【著者プロフィール】
なかじまだいすけ。スポーツライター。1979年埼玉県生まれ。2005年から当時セルティックの中村俊輔を4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材している。『中南米野球はなぜ強いのか』(亜紀書房)で第28回ミズノスポーツライター賞の優秀賞を受賞した。その他著書に『プロ野球 FA宣言の闇』(亜紀書房)、『野球消滅』(新潮新書)など。

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