「スズキはメジャー全体でも上位に入る強打者だ」カブスの事前分析を遥かに超える適応力を見せた鈴木誠也の開幕1か月【現地発】<SLUGGER>

「スズキはメジャー全体でも上位に入る強打者だ」カブスの事前分析を遥かに超える適応力を見せた鈴木誠也の開幕1か月【現地発】<SLUGGER>

これ以上望めないほど最高のスタートを切った鈴木。チームにもすっかり溶け込んでいる。(C)Getty Images

今年3月、カブスのジェド・ホイヤー編成総責任者は、鈴木誠也がNPBからMLBへの適応するための期間が必要であるとの見通しを示していた。

 日本球界で首位打者に輝いたスラッガーとカブスが契約を交わしてからちょうど1か月後、鈴木はメジャーリーグで過ごした最初の1週間で、ナ・リーグの週間MVPに選ばれた。

 それを受け、ホイヤー編成総責任者はある地元記者にこう聞かれた。「あなたがこれ以上派手に間違うことはあり得るのか?」

 ホイヤー社長はこう答えた。「もしかしたら、これが適応期間なのかもしれないよ」

 それが事実なら、カブスが投じた8500万ドルは、これまでの大型補強史の中で最も価値が高いものとなるだろう。

 開幕最初の1週間で「適応」した結果、鈴木は長打率(.960)だけでMVPを獲得した直近13人のうち12人のOPSを上回り、マイク・トラウト(エンジェルス/.972)とほぼ同等の数字だった。「これだけ素早くアメリカに慣れたことに、おそらくみんなが驚いているはずだ。それでも、彼にとっては普通のことなんだろう」と打撃コーチのグレッグ・ブラウンは言う。

「彼は、我々の評価の過程でメジャーリーグでも上位に入る打者と感じていた選手だ。そう判断するだけのデータもあった」

 ブラウンは一級品の選球眼と優れたハードヒット率についても語った。「まず打者として優れていて、そこにパワーが加わっているんだ」

 ブラウンによれば、鈴木との対話は、相手投手のスカウティング・レポートの分析以外は指導というより関係構築に重点を置いているという。

「彼がどんな人間で、どんなことを考えているのかを理解しようとしているところだ」と言うブラウンは「通訳を使って話すことが多いけど、コミュニケーションがとても上手だね。自分の身体や動きのことをよく理解している。改善すべき分野について語り合うこともあるし、それはすごく役に立っているよ。スタッフ全員で彼のやりやすい環境を作り上げることができている」とも話す。 指導やデータ分析に関して、鈴木にあえて余計なことは言わないデビッド・ロス監督のアプローチは意図的なものだ。それだけに、鈴木のこれまでの適応と活躍は余計に目覚ましい。

「余計なことをしなくても成功できるなら、そのままのルーティンを保つべきだ」とロス監督は言う。「アメリカに来てこれほどリラックスして自分の能力を信頼してプレーできるなんて、私も学びたいところだね」

 ロス監督は、大雑把ではあるがマイナーからメジャーへの適応と比較した。マイナーリーガーもメジャーに上がってデータへアクセスする機会を得て、その膨大な量に圧倒される。

「データの使い方には注意が必要だ」と語るロス監督は、「彼が自分自身をしっかり持って、リラックスしながら成功を収めていることをうれしく思うね」と続けた。

 鈴木はチームに合流した瞬間からクラブハウスでもリラックスしているようで、チームメイトを魅了している。同じ外野手のイアン・ハップは鈴木について「ひょうきんな奴」と語っている。 これまでクリス・ブライアントやハビア・バイエズといったスター選手とプレーしてきた捕手のウィルソン・コントレラスは、あるシカゴの記者に鈴木は「これまで一緒にプレーした中で最高の選手だ」と語った。

 コントレラスはさらにこう付け加えた。「彼の打席での辛抱強さは異常なレベルだ。フィールド上での立ち振る舞いも素晴らしい。フィールドの外でもね」

 スプリング・トレーニング序盤でレッグキックを小さくするなど、いくつかの小さな適応はあった。2ストライクに追い込まれた時や、手強い投手と対戦する時は足の踏み出しを小さくしたりもした。

 ロス監督は、「トーイ(松下登威通訳)を通じて、外野陣の仲間とも本当にうまくコミュニケーションを取っている。可能な限り最高な形でチームに溶け込んでいるし、投手への適応もとてもうまくやっているね」と言う。 周囲とのコミュニケーションのなかには、スプリング・トレーニング序盤にジャンクフードを食べるロス監督をからかったり、入団交渉でシカゴの天気図を見せた際に、4月の気温が華氏40度(摂氏4度)以下になることについて何の説明もしなかったホイヤー編成総責任者を弄ったりすることも含まれる。

 ホイヤー編成総責任者は本当に天気図を見せた時に4月のシカゴの寒さについて説明しなかったのだろうか?

「イエス」

 鈴木は笑いながら英語で答えた。

「いつも通訳を通じてしか話ができないのは、そのうち負担になるかもしれない」と危惧するロス監督だが、「だが、その気になれば、彼とはいつでもコミュニケーションを取ることができる」と自信を見せる。

 しかも、鈴木は快活で熱心に応じてくれる、とロス監督は言う。

「ちょうどいいくらいのリスペクトと、素晴らしいユーモアのセンスでね」 ホイヤー編成総責任者いわく、鈴木はフィールド内外であらゆる期待を超えている。

「アメリカの投手への適応や外国で暮らす困難、言葉の壁、その中で毎日試合に出なければならないという困難を経験することは覚悟していた」と語るホイヤー編成総責任者は、「ここまでの働きは本当に見事だ」と称える

 だが、ホイヤー社長はこう付け加えた。「もちろん、長いシーズンだから山あり谷ありになるのは間違いない」

 大事なことはパワーや四球だけではない。流れるようなフィールディングや、世界最高の投手たちへの即座の適応だけでもない、とホイヤー編成総責任者は語る。

「社交的でひょうきんなチームメイトとしてチームに溶け込んでいることが本当に素晴らしい。英語がセカンドランゲージであることを考えれば、本当に信じられないことだよ。チームの全員が彼のことを大好きなんだ」

「今後、困難に直面することもあるだろう。でも、ここまでは本当に見ていて楽しいね」

文●ゴードン・ウィッテンマイヤー

著者プロフィール:ビートライター歴24年、BBWAA(全米野球記者協会)の会員でもあるベテラン記者。マリナーズ、エンジェルス、ツインズの番記者を務めた後、『シカゴ・サン・タイムズ』紙で14年間カブスを担当し、20年に『NBCスポーツシカゴ』へ活躍の場を移した。

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