「ど真ん中でも気持ちが入ってないからボール」「判定に不服の投手と20秒も睨み合い」日米名物審判の仰天エピソード集<SLUGGER>

「ど真ん中でも気持ちが入ってないからボール」「判定に不服の投手と20秒も睨み合い」日米名物審判の仰天エピソード集<SLUGGER>

MLB史上でも屈指の名物審判ウェスト。確かに表情からして個性的でアクの強い雰囲気がにじみ出ている? (C)Getty Images

4月24日のロッテvsオリックス戦で、ストライク/ボールの判定に不満げな態度を表したロッテ先発の佐々木朗希に対し、白井一行球審が詰め寄ったことが物議を醸した。佐々木が時の人だったこともあり、この件は球界外にも広がる大騒動となっている。だが、実のところ古くから審判と選手の間の“トラブル”には枚挙に暇がない。ここでは、そんな審判にまつわる事件を紹介しよう。

▼ド真ん中なのに「ボール!」判定の理由とは……?

 1956年の南海(現ソフトバンク)のある試合でのことだ。マウンドにいたのは、高卒3年目の皆川睦雄。相手は8番打者で、カウントは3−0。皆川は「どうせ打ってこないだろうと」、それほど力を込めずにド真ん中へ直球を投げ込んだ。棒球だったが打者は見送り。だが、あろうことか球審の二出川延明のコールは「ボール!」だった。

 当然ながら皆川は「なぜボールなのか」と二出川に猛抗議する。すると二出川が答えていわく、

「今のは気持ちが入っていないからボールだ」

 この珍妙な返答に、何と皆川は納得してしまったという。それどころか、「この一件によって1球の大切さを学んだことが、その後大きなプラスになった」と後年になって語るほど感銘を受けていた。実際、皆川は通算221勝を挙げる大投手に成長し、確かに結果オーライと言えばそれまでだが、明らかにルールから逸脱した行為であることは間違いない。
  なお二出川はこの“ド真ん中ボール”を「教育」と称して有望な新人投手によくやっており、同時期に西鉄(現西武)のエースとして活躍した通算276勝の大投手・稲尾和久が新人だった頃も同じことをしたという。昭和ならではの逸話と言えるが、現代ならSNSで即大炎上間違いなしだろう。

 二出川はこの他にも豊富な逸話を持つ名物審判だ。もっとも有名なのが「俺がルールブックだ!」という“名言”。59年のある試合で、当時西鉄(現西武)の監督だった三原脩と「クロスプレーで走者の足と送球が同時の場合はアウトかセーフか」で論争となった際、アウトを主張する三原が「ルールブックを見せてくれ」と要求したことに対して出た言葉だ。

 一見暴言のようだが、この場合は二出川の判断が正しい上に、野球規則には「審判員の判断に基づく裁定は最終のものであるからプレーヤー、監督、コーチまたは控えのプレーヤーがその裁定に対して異議を唱えることは許されない」と明記されている。試合において「審判がルールブック」なのはある意味で正しい。60年以上も前の発言が今も語り継がれているのは、そんな「審判の絶対性」を端的に表現しているからだろう。
 ▼“事件”の話題も豊富だったMLB史上最高の名物審判

 MLBの史上最大の名物審判はジョー・ウェストだろう。ウェストは76年からメジャーで審判を務め、50年近いキャリアで史上最多の5376試合を裁き、2021年を最後に引退した。自らのジャッジには絶対の自信を持ち、「オレの判定に何か文句があるのか?」とばかりの強気な態度を崩さなかったことでもよく知られる。

 一方で誤審も少なくなく、昨季は大谷翔平(エンジェルス)がその被害に遭ったことで日本でも話題となった。特に晩年は高齢ということもあってか、ボストン大学の調査で1試合あたり2.3回もの誤審を下していたとの結果が出たこともあった。

 当然、選手や監督と騒動になることもあった。15年9月には度重なる四球の判定が気に入らなかったマディソン・バムガーナー(当時ジャイアンツ)が、マウンドからウェストを鋭くにらみつけた。するとウェストはその視線を真っ向から受け止め、約20秒にわたって両者一歩も譲らぬにらみ合いが発生。

 一触即発の事態に球場は異様な雰囲気に包まれ、捕手のバスター・ポージーも不安げな表情で2人の顔を交互に見つめていたが、最終的にバムガーナーが視線を外してウェストが“視殺戦”に勝利。ゲームは何事もなかったように再開された。
  黒子としての役割が求められる審判としてはかなり自己顕示欲が強いことでも知られ、シンガーソングライターとしてこれまで2枚のアルバムをリリースしている。また、引退した後はさっそくポッドキャスト配信も開始するなど今も元気に活動している。

 そんな審判にあるまじき(?)目立ちたがり屋ぶりが災いしたのか、試合とは関係ないところでやらかしたこともある。17年6月に『USA TODAY』紙のインタビューに応じた際、「一番口うるさい選手は誰ですか?」と質問され、「エイドリアン・ベルトレー(当時レンジャーズ)だね。(中略)彼はMLB最大のクレーマーだよ」などと答えたため、3試合の出場停止処分を受けている。

 ただ、選手たちからはリスペクトも受けていた。同年のオールスターで球審を務めた際は、代打として登場したネルソン・クルーズ(当時マリナーズ)が、打席に入る前に「あなたはレジェンドだ」とウェストに歩み寄り、一緒に写真を撮りたいと依頼。ウェストも快く応じ、捕手のヤディアー・モリーナの撮影で仲良く2ショット。この年のオールスターの象徴的な場面の一つとなった。クルーズの言う通り、ウェストがレジェンドであるのは間違いない。とにかく毀誉褒貶の激しい審判だったのだ。

構成●SLUGGER編集部
 

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