細部へのこだわりとシャキーラにのろける人間味。メッツ快進撃を支える66歳の老将ショーウォルター<SLUGGER>

細部へのこだわりとシャキーラにのろける人間味。メッツ快進撃を支える66歳の老将ショーウォルター<SLUGGER>

最優秀監督賞を3度受賞しているショーウォルター。メッツ監督1年目で悲願のワールドシリーズ出場を果たせるだろうか。(C)Getty Images

新体制で今季に臨んだメッツが快調に勝ち続けている。5月23日、敵地でのジャイアンツ戦に13対3で大勝した時点で29勝15敗。その後に連敗を喫したものの、シリーズの負け越しはまだ2度のみという安定した強さを発揮し、ナ・リーグ東地区2位のフィリーズに7ゲーム差をつけて独走体制に入った。

 4月29日のフィリーズ戦では、5投手をつなぐ継投でチーム史上2度目のノーヒッターを達成。さらに、5日の同じくフィリーズ戦では1対7とリードされた最終回に7点を奪って驚異的な逆転勝利、19日のカーディナルス戦ではピート・アロンゾが延長10回に逆転サヨナラ2ランとドラマチックな勝利が多いのも今季の特徴だ。

「このチームの選手たちは周囲に何を言われても気にしない。決してあきらめない。常にチャンスがあると思っているし、負けは偶然の産物だと捉えている」

 今季から就任したバック・ショーウォルター監督のそんな言葉通り、実際に選手たちは常に勝利を予期しながらプレーしている印象もある。大富豪のスティーブ・コーエン・オーナーの高額投資によって作り上げられたチームなのだから、勝つのはある程度当然ではあるが、それでもここまでの戦いぶりは“運命のチーム”のように見えるのも確かだ。
  といっても、すべてが順風満帆だったわけではない。ジェイコブ・デグロム、マックス・シャーザー 、タイラー・メギル、トレバー・メイ、ジェームズ・マキャンといった主力選手が次々と故障離脱。特にサイ・ヤング賞獲得回数計5度を誇るデグロム、シャーザーの2大エースがともに不在ながら、それもどこ吹く風で勝ち続けていることは特筆に値する。その粘り強さの背景として、やはりショーウォルター監督の統率力と存在感が大きいことは間違いない。

 過去にヤンキース、ダイヤモンドバックス、レンジャーズ、オリオールズで指揮を執ってきたショーウォルター監督は、「細部へのこだわり」や「率直なコミュニケーション」で知られてきた大ベテラン。試合へ向けて綿密な準備を怠らないことで知られるが、かといってデータだけに頼るのではなく、選手たち状況に応じたプレーを呼びかけ、戦う姿勢を短期間でチームに浸透させたとして高い評価を集めている。

「僕たちは他のチームと比べてホームランが多いわけではないが、ヒットは打っているし、四球も稼いでいる。相手投手にはなるべく多くの球数を投げさせて、投球を難しくさせている」 

 新加入のマーク・カナの言葉通り、メッツの総本塁打数はリーグ15チーム中11位ながら、出塁率、打率は同2位、四球数は6位。結果として、リーグ2位の得点数を生み出している。もちろんそのすべてがショーウォルター監督に起因するわけではないとしても、野球をよく知り、コミュニケーションも得意な指揮官のフィロソフィーが好影響を及ぼしていることは容易に想像できる。 今季開幕直後のこと。本拠地シティ・フィールドのベンチからフィールドの一部が見えにくいことに気づいたショーウォルター監督は、すぐさま球団にダグアウトの改築を願い出たという。“一国一城の主”の妥協を許さない姿勢は、ベテラン選手も多いメッツのクラブハウスでは好意的に捉えられたはずだ。

「最近はフロントの指示に言いなりの監督も多い中で、ショーウォルター監督はすべて自分の目で見て、自身で判断し、選手ともしっかりと対話し、チームをコントロールしている」

 メッツのある関係者はそう証言していたが、これが監督として21シーズン目のショーウォルターは、そうやって自身で操縦できるチームでなければそもそも就任を承諾しなかっただろう。全権を持った監督の方が、メッセージを選手に届けやすいであろうことは容易に想像できる。

 細部へのこだわりゆえ、過去にはマイクロマネジメント(過干渉)が批判されたこともあるショーウォルターだが、今季は人間らしい面も随所に見せている。15日のマリナーズ戦では、ファンを公言する人気歌手のシャキーラがシティ・フィールドを訪れて大喜び。監督会見の際にも「シャキーラに会うのを楽しみにしているんだよ」と話して笑いを誘ったが、始球式には登場しなかったために、がっくり肩を落としていたという。
  66歳の誕生日だった23日へ向け、選手たちがシャキーラをもう一度招待しようと奔走したとも言われている。残念ながらこのアイデアは実現しなかったものの、チームの雰囲気が良好であることは十分伝わってくる。

 もちろん、ここまでは順風満帆でも、長いシーズンの中ではアップ&ダウンはあるはずだ。デグロム、シャーザーの復帰が遅れた場合、クリス・バシット 、カルロス・カラスコ、タイフアン・ウォーカーが軸の先発投手陣で勝ち続けられるかどうか。

 ニューヨークで2年目を迎えたフランシスコ・リンドーアがまだ爆発していないなかで、打線は得点力を保てるか。過去3度の最高監督賞受賞歴があるショーウォルター監督自身、まだワールドシリーズに出場した経験は一度もなく、証明すべきことは残っている。

 ただ、少なくともこれまでのところ、多くのタレントが集まった今のメッツとプロ意識の高い指揮官はベストフィットに見える。何かと悲観的になりがちなメッツファンも徐々に今季のチームを信じ始め、シティ・フィールドの空気も明らかに変わってきたように感じられる。

 だとすれば、“今年こそがその年(This might be the year)”か。まだ先は長いが、2022年のメッツは決して目の離せないチームであり続けそうな予感がすでにニューヨークに漂い始めている。

文●杉浦大介

【著者プロフィール】
すぎうら・だいすけ/ニューヨーク在住のスポーツライター。MLB、NBA、ボクシングを中心に取材・執筆活動を行う。著書に『イチローがいた幸せ』(悟空出版 )など。ツイッターIDは@daisukesugiura。
 

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