指導者に望みたい「自ら考える選手」の輩出。ドロップアウトが絶えないアマチュア球界の現実と課題

指導者に望みたい「自ら考える選手」の輩出。ドロップアウトが絶えないアマチュア球界の現実と課題

甲子園を筆頭にメジャー大会で活躍する逸材が数多く登場しているアマチュア野球界。しかし、その一方で表舞台に登場することなく消えていっている選手も少なくない。写真:塚本凜平

昨今の高校野球界と大学野球界は新入生の活躍が話題となっている。だが、その一方で残念なニュースも飛び込んできた。神奈川を代表する強豪校である横浜と東海大相模で相次いで将来が有望視されていた選手が野球部を退部していたと分かったのだ。

 この件に限らず、これまでも期待されて入学しながら高校、大学の野球部を途中で退部するケースは、実は少なくない。現在プロで活躍している伊藤大海(日本ハム)や河村説人(ロッテ)などは大学1年時に退学し、異なる大学に入りなおした経験を持っている。この2人は幸いにも再入学した先で成長を遂げてプロの道に進んだが、そのまま退学後にドロップアウトしてしまう選手も多いのが現実である。

 ではこのような事態が起こる原因はどこにあるのだろうか。ひとつの大きい理由として挙げられるのが、選手が学校について十分な理解をしないまま進学していることが考えられる。以前に比べると選手同士の縦と横のつながりも強くなり、SNSなどあらゆる“ソース”を通して得られる情報は格段に増えてはいる。だが、それらを進路に生かしているケースは決して多いとは言えない。
  筆者は高校生、大学生に取材する際にチームを選んだ理由を選手に聞くことがある。すると彼らは、そのチームからの誘いがあったからか、もしくは所属していたチームの指導者に勧められたからという理由を口にする。ある地方の高校から早稲田大学へ進学し、その後にプロ入りした選手(既に引退)が、以下のように話していたことを今でも鮮明に覚えている。

「高校の監督からある日突然『早稲田に(練習参加に)行くぞ』と言われたんですけど、『何しに行くんですか?』って思ったんですよね。早稲田は勉強ができる人が行く大学だと思っていたので、野球が強いことも全く知りませんでした」

 これはかなり極端な例ではあるが、自分が行く先のチームについてよく知らないまま進学する選手は多い。そのチームへの進学を自ら希望していたという選手も当然いるが、その理由を深く掘り下げてみても甲子園など全国大会での戦いぶりを見てなど、いわゆるチームやユニホームへの“憧れ”が理由となっているのが大半。実際にそのチームについて自ら詳しく調べて考えている選手は稀である。自分が思い描いていたチームと現実のギャップを感じて退部を選んでしまう選手も多い。 本来であれば、自分の進路は自分で決めるというのが一般的な考え方だが、『野球界(スポーツ界)の常識は一般社会の非常識』という言葉もあるように、まだまだ指導者やチームの繋がりによって進路先が決まるというのが野球界の常識となっている。もちろん指導者に悪意があるわけではなく、選手の将来を思って進路先を選んでいるとは思うが、それが全て上手くいくわけではない。

 現在、「高校球界の盟主」とも言える大阪桐蔭は卒業後の進路についてその選手が活躍しやすいチーム事情を考えて送り出していると言われているが、そんな大阪桐蔭出身の選手でも大学入学後まもなく退部してしまったケースは確かに存在している。指導者の勧めによってその選手がより成長できる環境に身を置けるのは利点も多いが、何よりも選手が自らの意志と責任で進路先を決めるというスタイルが「当然」となる方が健全であり、当人も納得感が高いのではないだろうか。

 こういった進路決定のプロセスとともに日本の学生野球においてドロップアウトの大きな要因となっているのが、転校へのハードルの高さである。高校野球、大学野球とも、転校や入学し直した場合は、連盟がやむを得ない事情と認めたケースを除き、1年間公式戦に出場することができないのだ。
  冒頭で触れた伊藤と河村も入学し直しているため、最初の1年間は公式戦に出場していない。特に高校野球の場合はプレーできる期間は長くても2年5か月程度であり、その中で1年間も公式戦に出場できない期間があるというのは大きなハンデとなるのは間違いない。

 元々は他校からのあからさまな引き抜き行為を禁止するために設けられたと言われているが、このルールがあることによって転校することを決断できず、自分が合わないチームに所属し続けている表には出ないドロップアウトというケースもあるはずだ。

 現在では、独立リーグやクラブチーム、連盟に所属していないチームなどが受け皿となっているが、それでも決して十分とは言えない。どんなに考えて進路先を決めても、ギャップが発生するのは当然であり、現在の社会情勢を考えても、もう少しだけ寛容になるべきではないだろうか。 もうひとつ気になるのが、高校も大学も部員が大量に所属しているところである。

 高校では100人、大学では200人を超えるチームも存在しているが、公式戦でベンチ入りできるのは高校なら20人程度(甲子園は18人)、大学では25人であり、一度も出場できないまま卒業する選手も少なくない。

 一方で高校では部員が9人に満たずに複数の学校による連合チームも年々増えている。野球人口が減少していると言われて久しいが、ユニホームを着ていながらも、実戦でプレーすることなくスタンドで応援し続けている控え部員が大量にいるというのも不健全な状態ではないだろうか。

 学校経営などを考えると部員数の制限を設けるのは難しいかもしれない。だが、1つの学校から複数のチームが出場できる大会を増やすなど、選手が試合でプレーできる機会を増やすこともドロップアウトする選手を減らすためには必要だろう。
  まだまだ未熟な中学生や高校生が進路について適切な判断をするのは難しい。だからこそ指導者や保護者が何とかしないといけない、というのがこれまでの考え方かもしれない。しかし、そういったことを考える力を選手につけさせることこそが、本来大人が果たす役割ではないだろうか。

 アドバイスや必要な情報を提供するのはもちろん必要ではある。しかし、本人が何も考えず、また考える力を養う訓練を受けずに、大人の言いなりで進路を決めるというのはやはりあるべき姿ではないはずだ。

 将来の野球界はもちろん、社会全体を考えても、自らの意思で考える力を持った選手が1人でも多く輩出されるようなチームが増えるのを望みたい。

取材・文●西尾典文

【著者プロフィール】
にしお・のりふみ。1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。アマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

 

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