ストレート22球で空振りなしも土壇場の精神的な強さは本物。「投手・根尾昂」の課題と長所<SLUGGER>

ストレート22球で空振りなしも土壇場の精神的な強さは本物。「投手・根尾昂」の課題と長所<SLUGGER>

投手転向が決まった根尾。“スーパー中学生”、甲子園優勝投手の天才の現在地は果たしてどこなのだろうか。写真:産経ビジュアル

交流戦も終わり、レギュラーシーズン再開となったプロ野球。束の間のブレイク期間で最大のニュースと言えば、根尾昂(中日)の投手転向だろう。

 今シーズンはここまで26試合に出場して8安打、打率.211と目立った結果を残せていないとはいえ、開幕前は内野手から外野手へ登録変更、4月下旬にショートに再挑戦し、ここへ来ての投手転向。あまりの短期間の方針転換に対して賛否両論上がっているが、投手としての潜在能力の高さに期待する声も確実に存在している。今回はそんな「投手・根尾」の持つ可能性について、高校時代のピッチングと、今シーズンの登板から探ってみたいと思う。

 まず、根尾が最初に注目を浴びたのは中学時代のピッチングだった。3年時には早くも最速146キロをマークする“スーパー中学生”として全国的にも話題となっている。当時の投球は映像でしか見たことはないものの、スピードのある体重移動や鋭い腕の振りはとても中学生とは思えないものがあった。
  筆者が「投手・根尾」を初めて見たのは、2年春に出場したセンバツ高校野球の対静岡高戦だった。この時もストレートはコンスタントに140キロを超え、やはり年齢離れしたボールを投げていたのをよく覚えている。その後、3回にわたってピッチングを目にしているが、いずれも145キロ以上をマーク。高校生としては十分な速さを見せていた。

 とりわけ印象深いのが、唯一の負け試合となった2年秋の明治神宮大会の創成館高戦だ。この試合で根尾は「4番・遊撃」としてスタメン出場していたが、3回に自らのエラーもあって一挙4点を奪われ、3点をリードされた6回からマウンドに上がった。

 少し想定外の展開での登板だったせいかコントロールは少し不安定だったものの、最速146キロをマークしたストレートと縦のスライダーのコンビネーションは抜群。4イニングを1失点にまとめ、すべて空振りで7個の三振を奪ってみせた。

【動画】「投手・根尾」のピッチングをチェック! この日の試合を記録したノートには、野手についてではなく、投手としてのプレーについてのメモが残っていた。それだけピッチングが際立っていたことがよく分かる。何よりも自分のミスも絡んでのビハインドを取り返すために、自らのピッチングによってチームに流れを持ってくるという気持ちがよく感じられるものだった。

 この時のピッチングをそうだが、「投手・根尾」の大きな持ち味は、技術面よりもその落ち着いたマウンドさばきにあるのではないだろうか。
  2年春のセンバツ決勝では9回からマウンドに上がって試合を締め、3年春の決勝でも先発を任されて完投勝利を収め、史上初となる2年連続センバツ優勝投手となっている。この時のチームには他にも柿木蓮(日本ハム)、横川凱(巨人)と力のある投手がいたが、大事な場面で最も力を発揮できる投手は根尾との判断だったのだろう。

 プロでもある程度準備していたとはいえ、一軍のマウンドに上がっていきなり150キロをマークし、2度の登板でいずれも四死球を与えずに1回を無失点に抑えるというのは並の選手にできるものではない。「投手としての高い可能性を感じた」という立浪和義監督の言葉も、このパフォーマンスを見ればある程度納得できるファンも多いのではないだろうか。 ただ、このまますぐに一軍の戦力になれるかと言えば、そんなに簡単なものではないだろう。ほぼ練習せずに150キロを記録したとはいえ、これはいわゆる「休み肩」だったと思われる。投手の練習から遠ざかっていると、かえってスピードが出やすいもので、まさに今回の根尾がそうだった。そして、それ以上に気になるのがやはりボールの質の問題だ。

 2度の一軍登板でストレートは22球投げ、そのうち20球が145キロ以上をマークしたものの、空振りは一度も奪えなかった。きれいに上から腕が振れるため球筋はそれなりに安定しているが、ステップしてからリリースするまでが早いため、打者からするとタイミングが取りやすいように見える。
【動画】「投手・根尾」のピッチングをチェック!

 また、リリースポイントもホームから遠いため、数字ほどベース上での勢いがないというのも空振りを奪えない原因だろう。変化球も全体的に変化の始まりが早く、絶対的な勝負球はないというのが現状だ。多くのOBも指摘している通り、一軍の戦力となるまでにはまだまだ時間がかかると見るのが妥当だろう。
  しかし、大量リードを許した展開とはいえ、しっかりと無失点に抑えたというのは見事という他ない。フィールディングや走者を背負ってからのクイックなど、投げる以外のプレーに関しても高いレベルにあるというのも今後大きなプラスになるはず。そして何よりも、高校時代から大舞台を多く経験し、そこで投手として結果を残してきた精神的な強さは何物にも代えがたい長所であることは間違いない。

 今後、本格的に投手としての練習を重ねて、ボールの質が変わってくれば、重要な場面を任せられるレベルになることも十分に期待できる。これまでも野手から投手に転向した例はあるものの、一流と呼べるレベルに達した選手はいない。根尾がその初めての例となる可能性もあるはずだ。プロ入り当初に思い描いていた姿とは違うかもしれないが、高校時代に甲子園で見せていたように「投手・根尾」が大観衆を沸かせることを期待したい。

文●西尾典文
【著者プロフィール】
にしお・のりふみ。1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。アマチュア野球を中心に年間300試合以上を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

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