実力以外の要素に大きく左右される打点の欠陥。“打撃三冠”で評価する時代は終わった?【野球の“常識”を疑え!第2回】<SLUGGER>

実力以外の要素に大きく左右される打点の欠陥。“打撃三冠”で評価する時代は終わった?【野球の“常識”を疑え!第2回】<SLUGGER>

三冠王に向けてばく進中の村上。“令和の怪童”が凄いのは果たして「打点が多い」からなのだろうか。写真:徳原隆元

今季はセ・リーグで村上宗隆(ヤクルト)、パ・リーグでは山川穂高(西武)が三冠王も視野に入る素晴らしい打棒を発揮している。「三冠」とはもちろん、打率・本塁打・打点のこと。テレビ中継などで選手の成績が紹介される時にも必ず目にする定番の指標だ。

 だが、この中でも特に打点は大きな欠陥があり、選手の実力を正当に評価するものとは言えない。今回は、打点で選手を評価することの問題点を改めて考えてみたい。

 野球にはさまざまなデータがあるが、それらは大きく2つのタイプに分けることができる。一つは「環境中立的」、もうひとつは「環境依存的」なデータだ。
  前者は周りの環境に左右されないことを指す。例えば本塁打を打った場合、チームが負けていようが、満塁弾だろうが、サヨナラアーチだろうが、等しく1本の本塁打として記録される。劇的な場面で打ったからといって2本、3本となったりはしない。このように本塁打は環境に左右されず記録される、打者個人の結果のみに焦点を当てたデータだ。他には、打率も「環境中立的データ」の代表例と言っていいだろう。

 一方、「環境依存的なデータ」の代表格が打点だ。同じ二塁打1本でも、塁上にいた走者が生還できなければ打点が記録されることはない。当然、走者がいない場面では本塁打を除いて記録されないし、走者の数によっても変わってくる。打席結果とは別に、環境によって大きく左右されるのだ。

 アウォード表彰をはじめとした選手の評価を行う際、より適切なのは「環境中立的なデータ」だ。「環境依存的なデータ」は、その選手の働きとは無縁の環境そのものを評価してしまうからである。選手個人の評価で考慮されるべきは本人の働きのみ。他人や環境の評価も含めるべきではないというのは、多くの人が同意するところではないだろうか。

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  環境によってタイトル獲得が分かれた例を紹介しよう。柳田悠岐(ソフトバンク)はこの10年間におけるプロ野球界最高の打者と言っていいだろう。2021年までの通算打率/出塁率/長打率は.319/.421/.554。しかし、これほどの打者であるにもかかわらず、100打点をクリアしたのは一度だけで、打点王を獲得したこともない。

 一方、中田翔(巨人)は日本ハム時代、打点ランキングの常連だった。100打点クリアは5度、打点王も3度獲得している。だが、21年までの通算打率/出塁率/長打率は.248/.319/.440。打者としての総合力では柳田に劣るにもかかわらず、打点に関しては突き放している。

 まず、2人の得点圏でのパフォーマンスを見ておこう。14年から21年まで8シーズンの得点圏打率を見ると、柳田は.350、中田は.258。柳田の方が1割近くも高い打率を記録している。つまり、柳田はチャンスで打てなかったから打点が少ないというわけではないことが分かる
  次に2人が置かれた環境を見ていこう。この期間、柳田は4122打席、中田は4254打席に立っている。機会としてそれほど大差はない。しかし、これを走者ありの打席に絞ると、柳田は1886打席、中田が2337打席。中田の方が451も多かった。割合で比較すると、柳田の打席に走者がいた割合は45.8%、中田は54.9%と大きな差が開いている。

 走者の数も把握してみよう。この期間、柳田の打席で塁にいた走者の数は計2486人、一方の中田は3240人にも及んでいる。中田は柳田に比べ、754人も多くの走者に恵まれていたのだ。先に説明したように、打点が生まれるかどうかは走者の数に大きく左右される。そしてこの環境は、本人の能力によって決まるものではない。よって、打点を打者の能力と結びつけるべきではないのだ。

 ちなみに、ソフトバンクはここ数年、上位打線が慢性的な出塁率不足に陥っていた。一方の日本ハムは中田の前に西川遥輝(現楽天)や近藤健介といったリーグ最高レベルの出塁型打者を配置することが多かった。2人の打点、タイトルの差を生んだのはこうした環境の差だ。打点が高い打者が、能力としても最も優れている場合ももちろんある。しかし、そうでない場合も多いことは踏まえておきたい。

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  今回は打点について焦点を当てたが、打点だけでなく打撃三部門の指標は、いずれも打者の真の実力を評価する上では適切とは言えない。打率は、単打と本塁打を同価値として扱ってしまう欠点があるし、本塁打は本塁打以外の貢献を無視した指標だ。そのため、現在のMLBでは打撃三部門の権威は失墜し、打者の評価として扱われることがほとんどなくなっている。

 では、そのかわりにどんな指標を使うべきなのだろうか。打者の貢献度を簡単に測るには、OPS(出塁率+長打率)が適切だろう。試合における攻撃の目標は得点を奪うことで、OPSはその得点の大小と非常に高い相関を示している。OPSよりもさらに精緻に打者を評価する指標を存在しており、1打席あたりの得点貢献を示すwOBA(weighted On-Base Average)や、リーグ平均に比べて得点増減に寄与したかを示すwRAA(weighted Runs Above Average)が代表格だ。

 近年は野球のデータ分析が進み、どういった打席結果がどれほどチームの得点を増加させるか、平均的な値が分かってきた。ここでの得点とは本塁への生還ではなく、得点の期待値をどれだけ増加させるかを意味する。例えば、2019〜21年のプロ野球において、単打は平均0.44点、本塁打は1.40点、チームの得点期待値を増加させていた。逆に、三振は0.10点チームの得点を減らすことが分かっている。

【動画】怪物・村上宗隆が確信の一発! 完璧アーチを燕ファンに届ける こうして求められた各打席結果の得点を使い、貢献度を測るのがwOBAやwRAAといった指標だ。ここでは例として2022年プロ野球のwRAAランキングを見てみよう(x月x日時点)。wRAAはリーグ平均レベルの打者と比べ、その打者がどれだけ多くの得点を生み出したかを表す。

2022年wRAAランキング
村上宗隆(S)    43.2
山川穂高(L)    31.6
塩見泰隆(S)    23.7
丸佳浩(G)    19.5
牧秀悟(DB)    19.4

 ランキングを見ると、やはり村上や山川といった強打者が上位を占めている。wRAAは打撃三部門のように複数の項目を確認する必要がなく、これ1つで打者の評価が完結する。また、統計的により適切な重み付けが行われており、攻撃の目標である得点の単位で打者の評価を行えるという点でも有用だ。

 日本のプロ野球でもwRAAのような先進的な指標がスタンダードになる時代が来るのかもしれない。

文●DELTA(@Deltagraphs/https://deltagraphs.co.jp/)

【著者プロフィール】
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』の運営、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート5』(水曜社刊)が4月6日に発売。

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