史上3度目の春夏連覇を目指す大阪桐蔭。藤浪、根尾世代のような“スター不在”のチームの強みは何か?【高校野球】

史上3度目の春夏連覇を目指す大阪桐蔭。藤浪、根尾世代のような“スター不在”のチームの強みは何か?【高校野球】

強肩強打の正捕手である松尾(右)に、エースナンバーを背負う川原(左)。この二人を筆頭に、この夏の大阪桐蔭には成長著しい選手が揃っている。写真:滝川敏之

8月6日に夏の全国高校野球選手権が開幕する。大会の大きな注目ポイントと言えば、やはり3度目の春夏連覇を目指す大阪桐蔭の戦いぶりだ。2012年には藤浪晋太郎(阪神)、森友哉(西武)、2018年には藤原恭大(ロッテ)、根尾昂(中日)らを擁して春夏連覇を達成しているが、当時のチームと比べて今夏のチームはどうなのか。これまでの戦いぶりから探ってみたいと思う。

 まず、過去に春夏連覇を達成した2チームと大きく異なっているのが、下級生の頃から騒がれるようなスター選手はいないという点だ。2012年のチームでは藤浪が2年春には既にエースとして大成。さらに1学年下の森も1年秋から正捕手として活躍していた。そして、2018年の主力であった根尾は中学時代から全国的に知名度が図抜けており、同学年の藤原、柿木蓮(日本ハム)、中川卓也(早稲田大)、山田健太(立教大)なども下級生の頃からチームの中心に据えられていた。

 一方、今年のチームを見てみると中学時代から評判だった選手は当然いるものの、旧チームでレギュラーだったのはキャッチャーの松尾汐恩だけ。むしろ期待値が高かったのは、松浦慶斗(日本ハム)、関戸康介(日本体育大)、池田陵真(オリックス)などが揃っていた1学年上の世代だったのは間違いない。西谷浩一監督や主将の星子天真が口を揃えて今年のチームについて跳び抜けた選手がいないと言うのは、単なる謙遜だけではなく、過去のチームと比べれば、実際その通りだという見方もできる。

 では、そんなチームに春夏連覇を狙える要素はあるのだろうか。
  何よりも大きいのが、秋以降の成長である。昨秋は明治神宮大会で初優勝を果たしているのだが、チームをけん引したのは、松尾と当時1年生だった前田悠伍であり、特に上級生の投手陣は不安な部分が大きいというのがもっぱらの評判だった。しかし、冬の間には川原嗣貴が大きく成長。春の選抜では先発した2試合でしっかりと試合を作り、決勝戦でもリリーフで試合を締めるなどエース格と言える活躍を見せた。

 さらに、この夏は選抜まで背番号1をつけていた別所孝亮も2回戦で自己最速を更新する150キロをマーク。大阪大会ではチームトップの20イニングを投げて被安打3、無失点、21奪三振と圧巻のピッチングを見せた。川原、別所ともに下級生の頃からポテンシャルの高さは見せていたものの、どちらかというと伸び悩んでいる印象が強かった。それだけに、最終学年になってからの成長は見事という他ない。

 藤浪ほどの超目玉という投手はいなくても、左右のバランスやそれぞれの特徴を考えるとバリエーションにも富んでおり、歴代のチームでもトップと言える投手陣が出来上がったことは大きな強みである。実際、大阪府予選の7試合でも失点はわずかに「1」。全国の舞台でもライバル校がこの投手陣から大量点を奪うのは、至難の業と言える。
  一方の野手陣はやはり松尾が中心となるが、今年のチームの特徴は中軸に頼らなくても得点を叩き出せるという点にある。大阪大会7試合の投手以外のレギュラー8人の打撃に関する数字を並べてみると以下のようになっている。

1番 伊藤櫂人:10安打7打点 打率.370
2番 谷口勇人:6安打5打点 打率.231
3番 松尾汐恩:9安打4打点 打率.333
4番 丸山一喜:10安打10打点 打率.435
5番 海老根優大:8安打1打点 打率.381
6番 田井志門:8安打7打点 打率.320
7番 星子天真:10安打6打点 打率.455
8番 鈴木塁:8安打6打点 打率.500

 今秋のドラフト候補と言われているのは、松尾と5番の海老根だが、この上記の数字で2人以外がいかに多く打点を叩き出しているかというのがよくわかるだろう。下位を打つ星子、鈴木の2人も春に比べて打撃は明らかに力強くなっており、ともに4割を超える打率をマークした。2番の谷口だけ打率は低かったが、5打点をマークし、盗塁も2つ決めるなど、持ち味はしっかり発揮している。
  また、7試合で18盗塁、15犠打を記録しているように足を使った攻撃や小技も駆使。さらに言うと、大阪大会でベンチ入りしていた控え野手6人のうち4人がヒットを放っており、選手層の厚さもさすがという他ない。このあたりにも飛びぬけた選手がいないからこそ、全員でカバーするという意識の強さが感じられる。相手チームにとっては、特定の数人をマークすれば良いというわけではなく、どこからでもチャンスを作って、得点できるだけに、抑え込むのも容易ではない。

 無論、そんな大阪桐蔭と言っても完璧なわけではない。歴代のチームに比べると守備面では不安が残り、大阪大会でもキャッチャーの松尾が2つ、エースの川原と主将の星子が1つずつエラーを記録。選抜でも数字には残らないミスが目立ったことも確かである。

 もうひとつ気になるのは組合せ抽選の結果だ。有力な対抗馬と見られるチームが同じゾーンには不在で、ベスト8までは比較的楽に勝ち進めるのではないかという声が多い。ただ、序盤で苦労せずに準々決勝以降でいきなり力のあるチームと対戦すると、脆さが出るというのはよく見られることである。

 それでもそんな不安要素が小さなものに感じるほど、今年のチームが充実していることは間違いない。3度目の春夏連覇、そして1998年の横浜以来となる4冠(明治神宮大会、選抜高校野球、全国高校野球選手権、国民体育大会)に向けてどんな戦いぶりを見せるのか。ぜひ、注目してもらいたい。

文●西尾典文

【著者プロフィール】
にしお・のりふみ。1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。アマチュア野球を中心に年間400試合以上を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

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