プロ野球の1シーンを見るかのよう。鳴門の左腕エースが2者連続三振で見せたポテンシャル<SLUGGER>

プロ野球の1シーンを見るかのよう。鳴門の左腕エースが2者連続三振で見せたポテンシャル<SLUGGER>

1回戦敗退という結果に終わった鳴門のエース富田。だが、それでも爪痕は残したと言える。写真:滝川敏之

まるで、プロ野球の1シーンを見るかのようだった。

 4回裏のことだ。1死満塁のピンチを背負った鳴門高の左腕エース冨田遼弥は、近江高の8番・大橋大翔をインコースのスライダーで三振。続く9番・小竹雅斗も、同じくヒザ下に落ちるスライダーで連続三振に切って取った。

「満塁にはなったんですけど、しっかり打ち取っていこうと思っていました。ピンチのときにインコース低めにしっかり投げ切ることは、春のセンバツの時から自分のピッチングの生命線というか、大事な部分になっていた。そこは自信を持って投げることができました。2者連続三振っていう最高の結果になったので良かったと思います」

 満塁という逃げ場のない窮地の中での圧巻のピッチング。冨田の持つポテンシャルの高さに惚れ込んだのもいうまでもない。

 もっとも、この試合で言えば、これが冨田の見せた最後のベストピッチだった。センバツ準優勝校の近江は、実力・経験値とも鳴門の1枚も2枚も上を行くチームだったのだ。
  試合は1回に鳴門が幸先良く先制する。

 鳴門の1番・井川欧莉が遊撃内野安打で出塁すると、2死から4番の前田一輝が右中間を破るタイムリー三塁打で1点を先制した。

 ところが、すぐさま近江の反撃を浴びる。その裏、1死から2番の清谷大輔がセンター前ヒット。犠打で二進の後、4番の山田陽翔にセンターオーバーの同点タイムリー二塁打を放ったのだ。

 2回に鳴門は相手のミスから1点を勝ち越すも、そこからは近江の山田を中心としたチーム力の高さに圧倒されていく。エースの山田が8回で13個の奪三振ショーを展開。時に味方のミスから走者を許すが、それでも顔色を一つ変えずに打者を打ち取ってく山田の存在感はとても大きかった。

 一方の鳴門は冒頭の4回のピンチを冨田が抑えて難を逃れたものの、その後は好機をつかめない。5回表は2死からエラーで出塁したものの、山田の圧巻のピッチングの前に沈むと、直後にまたピンチを迎えたのだった。

 5回裏、2死二塁で冨田は4番の山田を申告敬遠し、5番・横田悟との勝負に出る。しかし、横田にはフルカウントからファールで粘られ、最後は甘く入ったところを右中間にタイムリーを打たれた。 この時、富田の球数はすでに100球に達していた。

 自チームの攻撃時間は短い一方で、投げている時は多くの球数を投じなければならない。冨田は一人奮闘していたが、これがチーム力の差というものだった。6回に1点を失うと、さらに7回には致命的な3点を失って、試合の趨勢は決まった。冨田は8回から、2番手の前田一輝にマウンドを譲ることとなった。試合が進むごとに強豪校の圧力に押し切られた形だった。

 冨田は試合をこう振り返っている。

「相手バッターにしっかり粘られて、甘く入った球を長打にされて点を取られてしまった。逆転された後も粘れなかったのは反省点だと思います。序盤は、本調子とは言わないんですけど、自分のボールを投げれたと思います。でも、終盤にしっかり相手チームに粘られて、球数を投げさせられて甘くなったところを捉えられた。山田くんはピッチャーとしての技術はもちろんなんですけど、気持ちの強さというかメンタル面がとても強いと感じました」

 鳴門はセンバツでは1回戦で大阪桐蔭高と対戦し、1−3で惜敗。大阪桐蔭打線はその後手がつけられなくなったから、冨田のピッチングがいかに凄かったかが後にクローズアップされることとなった。この試合も、ドラフト候補の相手エース・山田との投げ合いが、大会屈指の好カードとして注目を浴びた。
 「春夏連続で甲子園に出場して、その初戦で両方負けてしまったんですけど、対戦相手が、選抜の優勝校と準優勝校ということで良い経験ができて、反省点も良い点も見つかった試合になりました」

 そう振り返った後、大阪桐蔭と近江との対戦で得られた自信と課題を尋ねると、こう答えた。

「自分の中ではしっかり投げ切れたボールは通用していたと思うんで、投げ切ることが大事だと思いました。レベルが違うと感じたのはやはりピンチになっても、山田くんはしっかり自分に自信を持って投げきっていました。そこに違いを感じましたね」

 4回の連続三振劇は唸りたくなるような圧巻の投球だった。ポテンシャルを見せる場面もあった。それでも試合は負けたが、春と夏、プロに行くであろう選手たちと肌を合わせたサウスポーが今後どうなっていくかは気になるばかりだ。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。

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