「自分のために、家族のためにやろう」――阪神が泥沼から立ち直った主因は“発想の転換”を施したブルペン改革にあり

「自分のために、家族のためにやろう」――阪神が泥沼から立ち直った主因は“発想の転換”を施したブルペン改革にあり

クローザーを任された岩崎を筆頭に盤石の中継ぎ陣を誇る阪神。しかし、彼らも開幕時は絶対的な安定感があるわけではなかった。写真:産経新聞社

約4か月前、悪夢の幕開けから長く暗いトンネルを彷徨い続けた猛虎が、美しいまでの上昇曲線を描いてその「強さ」を取り戻した。

 前半戦のラストゲームとなった7月24日の横浜DeNAベイスターズ戦。最終回を迎えて1-0とリードはわずか1点。それでも甲子園球場に同点、逆転を憂う空気は微塵も感じられなかった。クローザーの岩崎優が2死一塁で代打・嶺井博希を力ない左飛に仕留めてゲームセット。ナインが笑顔で分かち合った1勝はチームにとって大きな意味を持っていた。同一カード3連勝でこの試合を終えて阪神は46勝46敗2分け。今季初めて黒星の数が白星に並び、最大16もあった借金の完済に成功したのである。

 開幕9連敗を喫するなど、開幕17試合で1勝15敗1分と歴史的な低迷。無論、キャンプイン前日に今季限りでの退任を電撃表明した矢野燿大監督への批判が高まった。“矢野ガッツ”はいずこへ――。当時の指揮官は感情を無くし、厳しい眼差しでグラウンドを見つめるしかなかった。

 だがベイスターズ戦後、苦闘を振り返るその目には自然と力がみなぎっていた。

「3、4月から考えたらここまで来られるというのは簡単に想像できるわけではなかった。絶対に5割にしたい試合で、こうやって勝ちきってくれたのはうれしい」
  矢野監督が前半戦のMVPに近本光司、中野拓夢、青柳晃洋、岩崎の投打2人ずつを挙げたように逆襲の立役者は1人ではない。他にも2年目の壁を見事に打ち破るパフォーマンスを見せている佐藤輝明、伊藤将司の躍動。大山悠輔の手が付けられない6月の猛打もあった。そんななかでも、最悪の滑り出しから立ち上がったチームと重なるのが、ブルペン陣の奮闘だ。

 何より開幕戦は印象深い。3月25日のヤクルト・スワローズ戦は序盤から打線が効果的に加点して一時は7点もリードした。しかし、開幕投手を務め、7回を投げ切った藤浪晋太郎からバトンをつないだリリーフ陣が踏ん張れない。3点差に詰め寄られた8回のピンチで救援した岩崎が流れを食い止めきれず、最後はカイル・ケラーが9回に2被弾を食らって逆転負け。22年版「勝利の方程式」はいきなり崩壊した。

 そこから約120日。シーズンの折り返しとなったベイスターズ戦は7回から浜地真澄、湯浅京己、岩崎の新方程式がつけ入る隙を与えない快投リレーで1点リードを危なげなく守った。

 そんな阪神の救援陣の防御率は、いまや断トツのリーグトップ。ラウル・アルカンタラ、岩貞祐太、加治屋蓮、渡辺雄大、石井大智、そして本来の力を取り戻したケラーと脇を固めるメンバーも軒並み良質なスタッツを残し、球界屈指のブルペンを形成している。 救援陣の立て直しのきっかけに関して、ブルペンを預かる金村暁1軍投手コーチは、こう明かす。

「中継ぎ陣には俺が最初(開幕直後)に言った。最初はボロボロのスタートだったから『とりあえず、(防御率を)0.00に近づけていこう』と。個々でね。自分のために、家族のためにやろう。それがチームのためになるから」

 金村コーチはパフォーマンスよりも、まずは発想の転換を促したのである。

 もちろん、運用面にも注力した。中継ぎ陣は実際の登板だけでなく、ブルペンでの待機という表には見えない“登板”が存在する。1日に何度も肩を作り、球数はその都度、増えていく。長いシーズンを考えれば決して無視できない蓄積だ。実際、昨年に初めて本格的に中継ぎに転向して46試合に登板した岩貞は待機の影響もあってシーズン後半にパフォーマンスが低下。金村コーチも「待機が多すぎた」と苦い表情で振り返る。

 その反省も踏まえて、今季は待機を減らす方策を施している。「『同点になったら』『勝ち越されたら行く』っていうのは無しにして。このバッターでピンチだったら行くというのを徹底してやった方がピッチャーも準備できるし、気持ちも作りやすいし、待機も減る。あと1人いこう≠ニかは無くして」(金村コーチ)。臨機応変ではなくある意味で“決め打ち”の起用が各々の負担を減らしてプラスの相乗効果を生んでいる。
  4月上旬から守護神を託された岩崎は言う。

「(ブルペンの)それぞれが役割を分かってきたし、準備もしやすくなってきてる。若い選手には自分たち上の世代が助言や意見交換もしていっているので」

 勝ちパターンを担う浜地、湯浅は昨年まで1軍での登板は数えるほどで実質1年目。それでも、彼らの経験不足を周囲にいる先輩たちがしっかりとカバーしている。浜地は7月20日の広島戦で2点リードの7回に登板して救援に失敗。それでも、2日後の横浜戦で3点リードの7回に起用されると3人斬りでリベンジした。

「2回も同じ失敗を続けてブルペンにいられるほど甘くない。自分にプレッシャーをかけて投げた」と浜地は言う。いつ取って代わられるか分からない。そんなチーム内での生存競争の激しさも、個々のパフォーマンス向上につながっているのは間違いない。

 近年の阪神ブルペンはメンバーが入れ替わっても絶対的な安定感を誇示してきた。そんなストロングポイントがようやく勝利に直結し始めているシーズン後半戦。首位を独走するスワローズの背中はまだ遠いが、牙をむき出して獲物を狙う虎の疾走に失速の気配はない。

取材・文●チャリコ遠藤

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