ファン目線の改革を断行も大谷とトラウトの才能を浪費…エンジェルス身売りを表明したオーナーの“功罪”<SLUGGER>

ファン目線の改革を断行も大谷とトラウトの才能を浪費…エンジェルス身売りを表明したオーナーの“功罪”<SLUGGER>

20年にわたってオーナーとして君臨したモレノ。最近は独断専行の姿勢に批判が集まっていた。(C)Getty Images

現地時間8月23日、エンジェルスはオーナーのアート・モレノが球団売却の意向を発表した。

 モレノは球団が発表した声明で「20年間にわたってエンジェルスを所有してきたことは大変な名誉だった」としながら「最終的に今こそ(身売りの)時期だとの結論に達した」と説明している。

 1946年にアリゾナ州で生まれたモレノはベトナム戦争に従軍した後、アリゾナ大でマーケティングを専攻。卒業後は屋外広告ビジネスで大成功を収め、2003年にウォルト・ディズニー社からエンジェルスを1億8000万ドルで買収。MLB史上初のヒスパニック系オーナーとなった。

 当時のモレノは「理想のオーナー」に限りなく近い存在だった。オーナー就任後最初にしたことは、エンジェルス・スタジアムのチケットとビールの値下げ。自ら客席を練り歩いてファンの声に耳を傾け、ファンサービス向上に努めた。
  一方で、02年に創設以来初の世界一に輝いたチームの戦力を維持するべく、補強にも惜しみなく資金を投じた。ブラディミール・ゲレーロやバートコ・コロンといった大物選手をFAで獲得し、名将マイク・ソーシア監督の存在もあってチームは04年以降の6年間で5度の地区優勝と黄金時代を作り上げた。ファーム組織からも次々に有能な選手が登場していた当時のエンジェルスは、間違いなくMLBきっての「模範球団」だった。

 観客動員も、03年に球団史上初めて年間300万人を突破すると、その後もコロナ禍前年の19年まで17年連続で大台をクリア。かつては完全にドジャースの影に隠れていたチームの存在感を大きく押し上げた。

 だが、10年代に入ってから徐々に歯車が狂っていく。

 11年オフに球界最強スラッガーのアルバート・プーホルス、12年オフには同じく元MVPのジョシュ・ハミルトンと「超」がつく大物選手をFAで獲得したが、どちらも目を覆わんばかりの失敗。12年にメジャーデビューを果たしたマイク・トラウトの超人的な活躍もあって14年には5年ぶりの地区優勝を果たしたが、翌年からは7年連続で負け越しが続いている。 15年以降のチームの低迷は、モレノの「独断専行」に因る部分も大きい。大物FA野手を好んで獲得する一方で、チーム全体のバランスやマイナー組織の向上には関心を寄せず、GMが成立させたトレードに介入して破談に追い込んだこともあった。

 近年は監督もGMも短期間で入れ代わり、チームのビジョンが見えないままいたずらにトラウトと大谷の才能を浪費するシーズンが続いた。ついには、「大谷やトラウトのスターパワーがもたらす観客動員や広告料収入を勝つことよりも優先しているのではないか」との声が出るほどになった。

 そして結局、モレノは一度もワールドシリーズ優勝を達成できないままチームを売却する運びになった。

 だが、ビジネスとしては大成功だった。経済誌『Forbes』によると、エンジェルスの現在の資産価値はMLB9位の22億ドル。モレノが買収した当時と比べて、実に10倍以上に跳ね上がっている。今回の身売りでモレノ自身は莫大な利益を得るが、30歳を過ぎて背中に爆弾を抱えるトラウトの超大型契約、来年オフにFAとなる大谷、そしてMLBワーストクラスのファーム組織を置き土産にしてアナハイムを去る。
  今回の身売り報道を受け、地元紙『Orange County Register』のジム・アレクザンダーは「(退任を祝う)パレードの申し込みがアナハイム市に殺到する様子が思い浮かぶ」と強烈にこき下ろした。

「球団史上最高のオーナー」になるはずだった男は、「大谷とトラウトの偉大な才能を浪費し、チームの暗黒時代を招いたオーナー」として歴史に記憶されることになるのだろうか。

文●久保田市郎(SLUGGER編集長)
 

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