22年ぶりのプレーオフへ向けひた走るマリナーズ。この秋は日本メディアの注目が大谷翔平から再びイチローにシフトする?<SLUGGER>

22年ぶりのプレーオフへ向けひた走るマリナーズ。この秋は日本メディアの注目が大谷翔平から再びイチローにシフトする?<SLUGGER>

マリナーズの殿堂入りセレモニーに出席したイチロー氏。シアトルのファンから大歓声を浴びた。(C)Getty Images

もしも、自分が今も日本に住んでいて、「メジャーリーガー」と聞いて最初に連想する選手は、大谷翔平(エンジェルス)だろうな、と思う。

 その理由は、単に大谷選手がテレビや新聞などの主要メディアで報道される機会が多いからで、相対的にダルビッシュ有(パドレス)投手や鈴木誠也(カブス)外野手ら他の日本人メジャーリーガーの露出が少なくなるからだ。テレビ番組やニュース原稿の日毎の出稿量やスペースは限られていて、そのトップにはいつも大谷関連の話題が来るのが現状だ。「北海道日本ハム時代からのダルビッシュのファン」、「広島時代からの鈴木誠也ファン」というような人でなければ、「メジャーリーグと言えば、まず大谷ありき」という流れに取り込まれてしまうわけだ。

 そういう現象は、今に始まったことではない。

 かつてイチローがマリナーズでメジャーデビューした2001年に日本人として史上初の首位打者を獲得し、新人王とMVPを同時獲得する活躍に、当時の日本人は「イチロー報道」を連日のように目にしていた。
 
 おまけにその年のマリナーズが史上最多タイ記録のシーズン116勝(46敗)を挙げて地区優勝したものだから、日本中の小売店や郊外量販店に、イチロー関連=マリナーズのロゴマークが入ったグッズがズラリと並ぶ事態となった。

 この年は、「日本人メジャーリーガーのパイオニア」と言える野茂英雄や大家友和(ともにレッドソックス)、長谷川滋利(エンジェルス)、伊良部秀輝(エクスポズ)がいた。そもそも、イチローと同じマリナーズにも、前年の新人王を獲得した佐々木主浩が活躍していたのだが、「メジャーリーグと言えば、まずイチローありき」という世の中の流れは圧倒的だった。

 ちなみに01年(平成13年)は、9・11同時多発テロが起こった年だ。メジャーリーグも一時中断となり、これ以降、アメリカの球場では試合前の国歌斉唱や『Take Me Out To The Ballgame』だけではなく、愛国心むき出しの『God Bless America』が歌われるようになった(現在は軍関連の国家的な式典がある日のみ)。 やんわりとしたところで言えば、東京ディズニー・シーが開場し、映画『千と千尋の神隠し』や、ハリー・ポッターシリーズの第1作が公開された年でもある。今は「5」のプレーステーションも、当時はまだ「2」の時代である。ウィキペディアがスタートしたのもこの年らしい。今は5Gが主流のネットワーク回線も当時は3Gで、まだ「ガラケー」の時代。Eメールの送受信やテレビ電話が可能になったものの、初代iPhoneが登場するのは6年後の話だ。

 随分と昔の話のようだが、重要なのはマリナーズがそれ以来ポストシーズンにすら進出していないということだ。イチローを通じてメジャーリーグに興味を持った人々は、現在のエンジェルスと同じように、毎年のようにマリナーズに期待しては裏切られるというシーズンを送り続けた。

 あれから21年。今年、マリナーズがついにファンの期待に応えてくれるかもしれない。

 8月24日(現地)現在、マリナーズは今季から3枠に増えたワイルドカード争いで、レイズやブルージェイズ、オリオールズといった東地区3強と、ツインズとホワイトソックスの中地区2強と互角以上の戦いを繰り広げている。
  日本絡みで言えば、日本のメディアでも何度か、「イチローの愛弟子」と報じられているドミニカ共和国出身の21歳、フリオ・ロドリゲス外野手が新人王最有力候補に挙げられているが、実は彼以外の主力選手の獲得方法が興味深い。

 エースの左腕ロビー・レイの好投で勝利した8月23日のナショナルズ戦の先発野手9人中、ロドリゲスと捕手のカル・ラリー(18年ドラフト3巡目)以外の7人がトレードで獲得した選手たちだった。同じく、投手陣にもトレードで加入した選手が多い。

 チームを作るうえで、最も安価な方法は生え抜きの主力選手を育成することだが、マリナーズに限ってはそれが当てはまらない。かと言って高価なFA選手を買い漁っているわけでもなく、昨オフに5年1億1100万ドルで獲得したサイ・ヤング賞投手のレイ以外は目立ったFA補強はなかった。ローガン・ギルバートとジョージー・カービー、そしてラリーの存在はロドリゲス同様に大きいのだが、トレードなくして今年のマリナーズの快進撃は存在し得なかった。 マリナーズのジェリー・ディポート編成総責任者は、15年9月の就任から18年1月までに22チームと60件ものトレードを成立させた「トレード仕掛け人」だ。同時期の他球団のトレードが最多でも46件しかなかったと考えると異常な数で、それゆえに「トレーダ・ジェリー」という異名を付けられている。

 岩隈久志、青木宣親がいた16年には86勝76敗(勝率.531)、18年は89勝73敗(同.547)、そして昨年は90勝72敗(同.556)とそれなりの成果を残してきたものの、13年オフに再建の柱として10年2億4000万ドルもの大金を積んで連れてきたロビンソン・カノーが18年に薬物規定違反で出場停止処分を受けたり、同時期にアストロズの黄金時代が始まったりと誤算が重なったため、未だ頂点を極めるには至っていない。

 今年もアストロズが地区優勝争いを独走中だが、エンジェルスが大失速したこともあり、2位の座を確実なものにしている。そして、前出のように他地区の5球団と3枠のワイルドカードの一角を狙うところまで来ている。
  ポストシーズンでは、さすがに「メジャーリーグと言えば、まず大谷ありき」にはならないので、ダルビッシュ(=チームが不調なので心配)や菊池雄星(ご本人が不調なので心配)の露出は大きくなるだろうが、もしもマリナーズが01年以来のポストシーズン進出を果たせば、我々日本のメディアはイチロー球団会長付特別補佐兼インストラクターを、選手に迷惑がかからない程度に取り上げることになると思う。

 そうなったらもう一度、「メジャーリーグと言えば、まずイチローありき」という世の中の流れになるかもしれないのである――。

文●ナガオ勝司

【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、アイオワ州のマイナーリーグ球団で取材活動を始め、ロードアイランド州に転居した'01年からはメジャーリーグが主な取材現場になるも、リトルリーグや女子サッカー、F1GPやフェンシングなど多岐に渡る。'08年より全米野球記者協会会員となり、現在は米野球殿堂の投票資格を有する。日米で職歴多数。私見ツイッター@KATNGO

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