追い求めるのは“究極の一球”。最強投手陣をけん引する梅野隆太郎はなぜ阪神に残ったのか?「絶対にもっと強くなる」

追い求めるのは“究極の一球”。最強投手陣をけん引する梅野隆太郎はなぜ阪神に残ったのか?「絶対にもっと強くなる」

プロ9年目。31歳となった梅野。若手中心の投手陣を牽引する虎の正妻が抱く想いとは?写真:鈴木颯太朗

2022年の阪神タイガースは開幕9連敗を喫するなど、悪夢の幕開けとなった。6、7月は大きく勝ち越して一時はペナントレースを独走するヤクルト・スワローズとの差を縮めたものの、8月に再失速の8連敗。逆転優勝への“挑戦権”は、横浜DeNAベイスターズに奪われた格好となった。

 開幕前に今季限りでの退任を表明した矢野燿大監督のラストシーズンは現時点で3位と不本意な形で最終盤を迎えている。そんなチームにあって、まばゆい光を放ち続けているのがリーグ屈指の陣容を誇る投手陣だ。

 チーム防御率2.56はセ・リーグ唯一の2点台で断トツトップ。先発(2.68)と救援(2.30)と分けても、どちらも1位(数字は3日時点)と、疲れの溜まり始める夏場も数字は悪化していない。青柳晃洋、伊藤将司、西勇輝など開幕から安定感のある先発陣に、ポジションの変動こそありながら個の結集で「鉄壁」と化しているブルペン陣。他球団も羨むクオリティーを持つ投手陣は、間違いなく猛虎の“牙”だ。

 そんな投手陣を引っ張るのが、扇の要、梅野隆太郎である。
  プロ9年目を迎えた31歳の正妻は、昨年5月に国内FA権を初取得も、行使せずに同年12月に残留を表明。その熟考の末の決断には仲間への思いや、頂点に対する渇望があった。

「若いチームで、絶対にこれからもっと強くなっていくし、その中心で引っ張っていきたい。このメンバーと野球をしたい、みんなと優勝したいという思いで残留を決めた」

 マスク越しに甲子園で広がる明るい未来を見ていた梅野。今季は主に坂本誠志郎との併用もありながら捕手での先発出場はチーム最多。先の言葉通り、若手をリードと背中でけん引している。

 もっとも、新たなシーズンを迎えるにあたってチーム、そして梅野には解決しなければいけない“難題”が横たわっていた。昨シーズンに絶対的守護神として君臨したロベルト・スアレスの退団によって生じた穴の補填だ。

 かねてからの夢であったメジャー移籍をサンディエゴ・パドレスとの契約で叶えたスアレス。剛腕クローザーの離脱によってぽっかりと空いた穴の大きさを、誰よりもそのボールを受けてきた梅野は理解していた。だからこそ、開幕前に「スアレスがいなくても、そこをカバーできるような投手陣にできるように。それぞれが最高の成績を残せるようにキャッチャーとしてサポートしていきたい」と決意をにじませた。 いま、阪神はベテランが去り、世代交代の真っただ中にある。ゆえに梅野も経験の浅い若手投手とバッテリーを組む機会が必然的に多くなった。捕手として意識しているのは「失敗の捉え方」だという。

「レギュラーを張るという意味では、失敗を成功に変えるとよく言いますけど。もちろん、失敗しないのが一番ですけど失敗を無駄にせず、2倍、3倍の成功に変えられるように、というのは常に意識している」

 シーズンは長い。同じチーム、そして選手と幾度となく相まみえる。1日で考えても第1打席でヒットを打たれようと2打席目、3打席目、勝敗の分岐点となるような場面で封じられれば、「失敗」が何倍もの“果実”となってバッテリーに返ってくる。無論、逆もしかりだ。

「(打者にとって)しつこい配球だったり、いろんな駆け引きをしてる。これは誰にも分からないこと」

 1年目から1軍での先発マスクを重ねてきた梅野だけに、自然と備わったマインドだった。だからこそ、若手投手と作り上げたいのは“究極の1球”だ。31歳は語気を強める。

「『これ打たれたらどうしよう』じゃなく『このボールを打たれたら仕方ない』。これがバッテリーでの最上級だと思うので」
  すでに今季50試合の登板を果たすなどセットアッパーとして大ブレークしている湯浅京己は、そんな正妻の考えに「自分の場合は(武器は)まっすぐとフォーク。何回か首を振ってスライダーも投げていますけど、まっすぐとフォークで打たれたら、決めていく以上は自分の中で後悔はないですね」と呼応する。

 リーグトップのホールド数、防御率1点台と春から無双し続ける右腕の数少ない“苦投”が、7月1日の中日ドラゴンズ戦。同点で迎えた8回2死二塁でアリエル・マルティネスに初球に投じた高めの146キロの直球を捉えられ、レフトスタンドへ決勝2ランを被弾した。

 悔しい黒星。それでも湯浅は「マルティネスに打たれたのも、インハイ(内角高め)にいくと決めて打たれたやつで後悔もない。選択して打たれたからって後悔はしたくないので」ときっぱりと言った。

“真っ直ぐを打たれたら仕方ない”――。翌日の試合、3点優勢の8回に再びマルティネスと対峙した湯浅はフルカウントから空振り三振に斬った。球種はもちろん、直球だ。

「フォークも梅野さんだったら絶対に止めてくれると思って信頼して投げられています。ベース前で多少ワンバウンドでも止めてくれるっていうのは思っていて。それは凄くでかいと思うし、気持ちに余裕を持って投げられていますね」

 昨年まで1軍でわずか3試合登板だった23歳の躍進には、強固な信頼関係で結ばれた女房役の存在があった。

 福岡大から13年に入団して1年目からランディ・メッセンジャー、能見篤史、藤川球児と経験も実績もはるかに上を行く名投手たちとコンビを組み、無形の財産を手にしてきた。だからこそ、投手陣には想い入れがある。

「1年やってケガをしてという投手も見てきた。2年、3年と続けて1軍で活躍することがどれだけ難しいかは身に染みて感じているので。1年やっての引き出しを増やして欲しい。(勝ちパターンで投げる)湯浅も浜地も良いところで投げているからこそ、もっと上を目指して欲しいし、そのサポートをできれば」

 その背中とリーダーシップで若手を高みへ導く。「捕手・梅野」のフェーズは次の段階に入った。

取材・文●チャリコ遠藤

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