【キャンプ展望:広島】「こうしろ、ああしろは好きじゃない」。信頼する4人のコーチとチームに新風を吹き込む新井新監督<SLUGGER>

【キャンプ展望:広島】「こうしろ、ああしろは好きじゃない」。信頼する4人のコーチとチームに新風を吹き込む新井新監督<SLUGGER>

ドラフト1位の斉藤優汰と握手を交わす新井監督。写真:産経新聞社

2023年、新井新体制が動きだす。昨季終了後、4年連続Bクラスに終わった広島は、新監督に新井貴浩を迎え入れることを発表した。18年の現役引退後は評論家を務め、指導歴はない。監督未経験の12球団最年少指揮官がチーム再建を託された。

 広島では絶大な人気と支持を集める。がむしゃらに野球に打ち込む姿や明るいキャラクターで、多くのファンを魅了してきた。16~18年のリーグ3連覇時はチームの精神的支柱となり、後輩たちからも慕われていた。待望の監督就任に、期待は高まるばかりだ。

 ただ、シーズンが始まれば、すべてがうまくいくはずもない。苦しい時期は必ず来る。チームの現状は4年連続Bクラス。新井監督は目先の結果ではなく、中長期的視野でチームを見ている。

「選手たちには目の前の試合に頑張ってくれと言いたいですし、そこをマネジメントしていくのが私なり、コーチだと思っています」

 新井監督誕生とともに、コーチ陣の顔ぶれも大きく変わった。新顔は4コーチ。他球団ファンからすると、“大きく変わった”という表現に違和感を覚えるかもしれない。ただ、地方に本拠地を置く広島が他球団の指導者を招き入れたのは、近年では22年の高橋健コーチ(現二軍投手コーチ)や21年の河田雄祐コーチ(現ヤクルト)、13年の新井宏昌コーチが挙げられるくらい。条件面も含め、在京・在阪の指導者を招き入れる難しさがある。これまでも、子育てなどの家庭事情から打診を断られることもあったと聞く。

 生え抜きの指導者によって伝統を継承してきたとも言える一方で、ここ数年は閉塞感にも似た偏りも生じていた。時代の変化とともに、新しい風を吹き込む時期だったのかもしれない。 今年は新任4コーチのうち、3人が外部からの招聘だった。これだけ多く招き入れることができたのは、新井監督の人脈と人格もあるだろう。

 新任監督をサポートし、コーチ陣を束ねる役割を担うのが、昨年まで阪神でバッテリーコーチを務めた藤井彰人ヘッドコーチだ。

 阪神で6年間コーチを務めた指導歴に加え、現役引退翌年の16年は独立リーグの指導も経験している。現役時代には野村克也監督や梨田昌孝監督ら名将と呼ばれた指導者たちの下でプレーし、パ・リーグの野球にも詳しい。

 同学年の新井監督は、広島球団から監督就任の打診を受けた段階で、「ヘッドには藤井を」という思いがあったという。

「彼の視野の広さ、深さには驚かされていた。プラス、本当に周りを大切にして、コミュニケーション能力も高い。あいつにヘッドをやってもらいたいと思っていた」

 阪神時代にともにプレーした4年間、グラウンド内外で多くの時間をともにしてきた。そこでさまざまな意見をぶつけ合い、野球観を共有し、理解を深めてきた。新井体制初始動となった昨秋キャンプの第1クールでは、藤井ヘッドが不在の監督の代わりを務め、新井監督合流後もコーチ陣のまとめ役となった。「自分にはない見え方を彼はしている。さすがキャッチャーだなと思う」。指揮官は、自分にはない視点も持つ参謀役への信頼をさらに厚くした。
  昨季まで敵として戦ってきた藤井ヘッドは、広島の可能性を感じている。「すごく嫌なチームだった。能力が高い野手が多い。トップ、優勝を目指していけると思う」。選手個々の眠っている力を引き出し、戦力の底上げを図っていく。そして、ペナントレースが始まれば、試合の一手先、二手先を読みながら新井監督をサポートしていくことが求められる。

 一軍バッテリーコーチには、新井監督と広島でともに戦ってきた弟分の石原慶幸が就任した。藤井ヘッド同様.新井監督から直接就任要請を受けたという

「『監督をすることになったから、(一緒に)やるよ』と言われました。なので、選択権はなかったですね」

 そう笑うが、心の準備はできていたように映る。現役時代に広島で計10年間ともにプレーし、最も近くで新井イズムを感じてきた。人材豊富な広島捕手陣の強化は、チーム力アップに直結する。今季から捕手に専念する坂倉将吾の独り立ちとともに、投手との共同作業による防御率、盗塁阻止率改善という使命を課せられた。

「打てて守れるキャッチャーは素晴らしいと思うけど、勝てるキャッチャーが目標。その試合、1年間通して、勝ちきれるキャッチャーをみんなに目標として頑張ってほしい」

 数字ばかりを追うのではなく、捕手としての成績を気にすることもしない。勝利のために何をすべきか。3連覇を支えた頭脳と技を注入し、再び勝てる扇の要を育成していく構えだ。 さらに、新任の福地寿樹を二軍打撃兼走塁コーチに、新井監督の実弟・良太を二軍打撃コーチに配置した。

 福地コーチは94年に広島に入団して、広島野球を体で知っている。その後、西武、ヤクルトでもプレーし、盗塁王に2度輝いている。指導者としても2度、ヤクルトのリーグ優勝に貢献している。

 新井良コーチは中日、阪神でプレーし、阪神のコーチとしては大山悠輔を独り立ちさせるなど選手に寄り添う指導に定評があった。

 新任の両コーチも、新体制が始動した昨秋キャンプに参加し、新井流を共有してきた。二軍担当の両コーチの下にも、選手たちが率先して助言を求める姿があった。

「対話をした中で一緒になって上達していくものだから。『こうしろ、ああしろ』は好きじゃない。レギュラーだけでなく、若い選手にもそう。教えることより、気付かせることが大切だと思う」

 広島のキャンプといえば猛練習。厳しい練習で鍛え上げ、教え込み、叩き込む印象がある。昨秋はそこにプラスして、選手と首脳陣による対話が多く見られた。対選手だけでなく、首脳陣同士も対話しながら理解を深め合った。新井流は新任コーチを中心に浸透している。

 新たに招聘したコーチをすべて一軍に置かずに、高信二二軍監督ら広島を熟知した指導者の中に加えることで、二軍にも新しい風を吹かせることができる。若手の育成力は、FAなどで大型補強しない広島にとって重要な部門。福地コーチによる機動力浸透も、新井良コーチによる長距離砲育成も、今の広島に欠けているものだ。若手選手をより多く一軍に輩出するだけでなく、近い将来へ向けた若手の教育も期待される。

 新生広島への期待は高まる一方ではあるが、新井体制は地に足をつけてチーム作りを進めている。就任1年目から勝つことを求めながら、強い組織の基盤を固めていく。

文●前原淳

【著者プロフィール】
1980年7月20日・福岡県生まれ。現在は外部ライターとして日刊スポーツ・広島担当。0大学卒業後、編集プロダクションで4年間の下積みを経て、2007年に広島の出版社に入社。14年12月にフリー転身。華やかなプロ野球界の中にある、ひとりの人間としての心の動きを捉えるために日々奮闘中。取材すればするほど、深みを感じるアスリートの心技体――。その先にある答えを追い続ける。『Number』などにも寄稿。
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