ヌートバー選出への“懐疑論”に覚える違和感。筒香嘉智とも比較された「攻守の貢献度」はMLBでも指折りなのに

ヌートバー選出への“懐疑論”に覚える違和感。筒香嘉智とも比較された「攻守の貢献度」はMLBでも指折りなのに

日系人として初の侍ジャパン入りを果たしたヌートバー。しかし、一部では彼の選出に異論が唱えられている。(C)Getty Images

3月9日に幕開けとなるワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。3大会ぶりの世界制覇を目指す日本代表は、開幕前に“歴史的な決断”を下した。それは侍ジャパン史上初となる日系人プレーヤー、ラーズ・ヌートバー(セントルイス・カーディナルス)の選出だ。

 栗山英樹監督が「野球の幅が広がる」とした25歳のメジャーリーガーの選出は、多くの期待と賛辞を集めた一方で、小さくない波紋を広げた。主な昨季成績が代表にふさわしいのかが問われているのだ。

 米球界を熟知する識者も首を傾げている。1月27日に更新されたYouTubeチャンネル「高橋尚成のHISAちゃん」で、元巨人の高橋尚成氏は「サプライズの選出ですごく良かったんじゃないかなと思います」としたうえで、「正直、僕は必要があるのかな、というような選手だと思います」とキッパリと持論を述べている。

「引き合いに出されるとしたら筒香選手とあまり変わらないんじゃないかなという成績なんですよ。ホームランは多少、ヌートバー選手が打っているのかなという感じですけど、率で言っても変わらないんじゃないの、というような選手だと思うんですね」

「選手としては決して選ばれるような選手ではないと僕は思っています。日本の外野手の方がもっといい選手がたくさんいると思います」
  たしかに、日本で一般的に取り上げられる打撃成績は、お世辞にも「図抜けている」と評せるものではない。ゆえに高橋氏のような疑問の声が上がるのも致し方ない面はある。

 もっとも、同氏の「筒香選手とあまり変わらないんじゃないかな」「抜けた肩の強さというわけではない」という指摘には違和感がある。というのも、ヌートバーの通算成績は、およそ筒香のそれではないからだ。

 それを如実に物語るのは、「wRC+」という指標だ。

 これは1打席当たりに打者がリーグ平均(100)に対し、どれだけ得点を産み出したかを表すものである。各球場の特性も考慮される同指標はOPS(出塁率+長打率)よりも個人の攻撃性を評価しやすいとされている。

 この指標でヌートバーのMLB通算は「118」。一方の筒香は「77」と平均値を下回っているのだ。もちろん実働期間に違いはあるものの、現在の実績でどちらに分があるかは一目瞭然である。 さらに栗山監督が1月26日の代表メンバー発表会見で「肩の強さ、がむしゃらさ、一球一球、一生懸命プレーしてくれる」と評したように、ヌートバーの強肩ぶりはMLBでも屈指だ。

 MLBのあらゆる公式データをまとめているスタットキャストの算出した彼の肩の強さは、100をマックスとして「94」なのである。この数字から「抜けた肩の強さというわけではない」とは思えない。

 もちろん前述の指標だけで全てを推し量ることはできない。ただ、出塁率.340とMLB全体6位の四球率14.7%という数字も、「足を使い、みんなで動きながら得点できる形を目指す」という栗山監督のチームスタイルとマッチする。
  唯一、懸念材料があるとすれば、彼の本職が右翼手である部分か。WBCでは中堅手での起用が見込まれているが、守備範囲の広さを求められて負担が生じたときに、パフォーマンスに影響が出る可能性はないとは言い切れない。とはいえ、だ。攻守での貢献が見込める数字は十分に選出に値すると言える。

 ヌートバーをどう評するかは自由だ。しかし、メンバーとして正式に選出されたタイミングで、彼の能力に対する懐疑論を徒に煽る風潮はどうなのだろうか。問うにしても、なぜ選ばれたかを見定めたうえで、評するべきだろう。

 様々な異論が出てくるのも、WBCに対する世間の期待の高さの表れとも言える。しかし、栗山監督の決断を「やっぱり選出は間違っていた」と結論づけるのは、大会後でも遅くはないはずだ。

文●羽澄凜太郎(THE DIGEST編集部)

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