“ワールドクラス”の高めの豪速球を攻略できるのか。村上宗隆がWBCで直面する最大の課題<SLUGGER>
2023年03月09日 07時35分THE DIGEST

オリックス戦で待望の一発が出た村上。果たして、WBC本番で打棒爆発なるか。写真:滝川敏之
3月8日、ついに第5回WBCが開幕する。侍ジャパンにとっては2009年以来の頂点を目指す大舞台。多くのファンが優勝を期待していることだろう。
【動画】逆方向への確信弾! 村上宗隆のオリックス戦のホームランをチェック
一方で、WBCはメジャー挑戦を目指す選手たちにとっては、自身の実力を示す貴重な舞台でもある。昨季、三冠王に輝いた村上宗隆(ヤクルト)も、数年後と言われるMLB移籍へ向け、気合十分で臨むことだろう。今大会で、村上は世界レベルの投手たちを相手にどのような打撃を見せられるのか。カギとなる要素をデータから探っていく。
村上の魅力は言うまでもなく長打力だ。昨季は日本登録選手では王貞治を上回る56本塁打を放った。実は、本塁打が生み出される過程に着目すると、村上の強みがよりはっきりと見えてくる。
本塁打を打つには、まず打球に上向きの角度をつける必要がある。どれほどパワーのある打者でも、角度をつけられなければ打球はゴロや低いライナーにしかならず、フェンスを越えることはできない。打球に上向きの角度をつけることは、本塁打を放つための第一条件と言える。
そして、次に求められるのが打球を遠くに飛ばすことだ。いくら上向きの角度をつけるのに長けていても、パワーがなければ外野フライが増えるだけ。打球をより遠くに運ぶスキルも、本塁打を打つためには欠かせない。 さて、村上はフライを打つスキルと、遠くへ飛ばすスキルを、それぞれどれくらいのレベルで持ち合わせているのだろうか。
実は、村上は打球に上向きの角度をつけることを特別得意としているわけではない。
「打球に上向きの角度をつける」スキルは、フライを打つスキルと言い換えられる。昨季の村上のフライ割合は50.4%。リーグ平均の43.9%を上回ってはいるが、NPBトップレベルではない。清宮幸太郎(日本ハム)やチームメイトの山田哲人は60%以上のフライ割合を記録している。
となると、村上の強みは「打球をより遠くに運ぶスキル」にあることになる。このスキルを測る指標として、フライが本塁打になる確率を表すHR/FBを見てみよう(表1)。昨季、村上のHR/FBは30.9%。全フライ打球の3割以上が本塁打になっていた。これは、DELTAがデータを取得しはじめた2014年以降でNPB最高の値だ。
■表1 シーズンHR/FBランキング(2014~2022)
1 村上 宗隆(2022) 30.9%
2 丸 佳浩(2018) 27.3%
3 柳田 悠岐(2018) 25.4%
4 N・ソト(2018) 25.3%
5 柳田 悠岐(2015) 23.8%
6 村上 宗隆(2019) 23.5%
※規定打席到達者を対象
つまり村上は、打球に上向きの角度がつくことが特別多いわけではないが、それをスタンドインさせる確率は極めて高いスラッガーなのだ。あらためて村上の優れたパワーを感じさせるデータである。
しかし、これらの成績はあくまでもNPBでのもの。国際舞台、特にレベルの高いメジャーリーガー相手に、その能力がそのまま通用するわけではないだろう。村上がWBCで活躍する上でカギとなる要素は一体何だろうか。
最も重要なのはスピードボールへの対応だ。近年はNPBでも投手のレベルが向上。ストレートの平均球速は145キロを超えるほどにまで上昇している。しかし、MLBはさらにその上を行く。昨季のストレートの平均球速は150キロをオーバー。強豪国相手の対戦では、NPBより一段階上の出力を誇る投手が次から次へと出てくるはずだ。
では、村上のスピードボールへの対応力はどうだろうか。ストレートの球速帯別成績をまとめた表2を見ると、初めて一軍でフルシーズンを過ごした2019年、村上は140キロ未満のストレートにOPS(出塁率+長打率)1.156と好成績を残した。しかし、そこから球速帯が上がるごとに成績は低下。150キロ以上のストレートにはOPS.293とかなり苦しんでいた。
表2 村上のストレート球速帯別OPS
年度 140キロ未満 140キロ台 150キロ以上
2019 1.156 .923 .293
2020 1.272 1.121 .875
2021 1.433 .895 .886
2022 1.065 1.222 1.264
※OPS=出塁率+長打率
その後、村上は速いボールへの対応力を年々高めていく。20年、21年と150キロ以上のストレートにOPS.875、.886と好成績を残すと、昨季は1.264とさらに一段階上の数字を残した。昨季の数字は他の球速帯よりむしろ優れており、メジャーリーガー相手の速球にも十分対応できるという期待感を抱かせる。
ただ、そんな中でも懸念点はある。1つは、空振り率の高さ。
昨季の村上は確かに速いストレートに優れたOPSを残した。しかし、150キロ以上のストレートへの空振り率(空振り÷スウィング)を見ると、35.5%(表3)とかなり高い。また、これは例年とそれほど変わりがない数字でもある。昨季のOPS向上はインプレー打球が多く安打になったことが大きな要因で、スピードボールへの不安要素が消えたわけではない。
表3 村上のストレート球速帯別空振り率
2019 35.7%
2020 30.0%
2021 46.2%
2022 35.5%
※空振り率=空振り÷スウィング
また、スピードボールがどこに投げ込まれるかも問題だ。近年、MLBでは速い球を高めに投げ込むトレンドが生まれている。データ分析により、ストレートは高めの方が空振りを奪いやすいことが分かったためだ。MLBは年々ストレートを高めに投げ込む割合が高まっている真っ最中である(表4)。
表4 投じられたストレート高め割合(MLB)
2015 40.1%
2016 40.0%
2017 43.9%
2018 46.1%
2019 47.9%
2020 48.9%
2021 49.4%
2022 52.5%
一方、NPBではストレートも変化球もまだ基本は低めが中心で、MLBのトレンドは主流にはなっていない。そして、村上が攻略してきたストレートも、多くは真ん中から低めのコースだ。実際、昨季の56本塁打のうち、150キロ以上の高めストレートを打ったものは1本もなかった。
意図的に高めに剛速球を投げ込まれた時に、果たして村上はどう反応するのか。侍ジャパンの優勝はもちろんのこと、近い将来のメジャー挑戦をも大きく左右するポイントになるだろう。
文●DELTA(@Deltagraphs)
【著者プロフィール】
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』の運営、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。
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一方で、WBCはメジャー挑戦を目指す選手たちにとっては、自身の実力を示す貴重な舞台でもある。昨季、三冠王に輝いた村上宗隆(ヤクルト)も、数年後と言われるMLB移籍へ向け、気合十分で臨むことだろう。今大会で、村上は世界レベルの投手たちを相手にどのような打撃を見せられるのか。カギとなる要素をデータから探っていく。
村上の魅力は言うまでもなく長打力だ。昨季は日本登録選手では王貞治を上回る56本塁打を放った。実は、本塁打が生み出される過程に着目すると、村上の強みがよりはっきりと見えてくる。
本塁打を打つには、まず打球に上向きの角度をつける必要がある。どれほどパワーのある打者でも、角度をつけられなければ打球はゴロや低いライナーにしかならず、フェンスを越えることはできない。打球に上向きの角度をつけることは、本塁打を放つための第一条件と言える。
そして、次に求められるのが打球を遠くに飛ばすことだ。いくら上向きの角度をつけるのに長けていても、パワーがなければ外野フライが増えるだけ。打球をより遠くに運ぶスキルも、本塁打を打つためには欠かせない。 さて、村上はフライを打つスキルと、遠くへ飛ばすスキルを、それぞれどれくらいのレベルで持ち合わせているのだろうか。
実は、村上は打球に上向きの角度をつけることを特別得意としているわけではない。
「打球に上向きの角度をつける」スキルは、フライを打つスキルと言い換えられる。昨季の村上のフライ割合は50.4%。リーグ平均の43.9%を上回ってはいるが、NPBトップレベルではない。清宮幸太郎(日本ハム)やチームメイトの山田哲人は60%以上のフライ割合を記録している。
となると、村上の強みは「打球をより遠くに運ぶスキル」にあることになる。このスキルを測る指標として、フライが本塁打になる確率を表すHR/FBを見てみよう(表1)。昨季、村上のHR/FBは30.9%。全フライ打球の3割以上が本塁打になっていた。これは、DELTAがデータを取得しはじめた2014年以降でNPB最高の値だ。
■表1 シーズンHR/FBランキング(2014~2022)
1 村上 宗隆(2022) 30.9%
2 丸 佳浩(2018) 27.3%
3 柳田 悠岐(2018) 25.4%
4 N・ソト(2018) 25.3%
5 柳田 悠岐(2015) 23.8%
6 村上 宗隆(2019) 23.5%
※規定打席到達者を対象
つまり村上は、打球に上向きの角度がつくことが特別多いわけではないが、それをスタンドインさせる確率は極めて高いスラッガーなのだ。あらためて村上の優れたパワーを感じさせるデータである。
しかし、これらの成績はあくまでもNPBでのもの。国際舞台、特にレベルの高いメジャーリーガー相手に、その能力がそのまま通用するわけではないだろう。村上がWBCで活躍する上でカギとなる要素は一体何だろうか。
最も重要なのはスピードボールへの対応だ。近年はNPBでも投手のレベルが向上。ストレートの平均球速は145キロを超えるほどにまで上昇している。しかし、MLBはさらにその上を行く。昨季のストレートの平均球速は150キロをオーバー。強豪国相手の対戦では、NPBより一段階上の出力を誇る投手が次から次へと出てくるはずだ。
では、村上のスピードボールへの対応力はどうだろうか。ストレートの球速帯別成績をまとめた表2を見ると、初めて一軍でフルシーズンを過ごした2019年、村上は140キロ未満のストレートにOPS(出塁率+長打率)1.156と好成績を残した。しかし、そこから球速帯が上がるごとに成績は低下。150キロ以上のストレートにはOPS.293とかなり苦しんでいた。
表2 村上のストレート球速帯別OPS
年度 140キロ未満 140キロ台 150キロ以上
2019 1.156 .923 .293
2020 1.272 1.121 .875
2021 1.433 .895 .886
2022 1.065 1.222 1.264
※OPS=出塁率+長打率
その後、村上は速いボールへの対応力を年々高めていく。20年、21年と150キロ以上のストレートにOPS.875、.886と好成績を残すと、昨季は1.264とさらに一段階上の数字を残した。昨季の数字は他の球速帯よりむしろ優れており、メジャーリーガー相手の速球にも十分対応できるという期待感を抱かせる。
ただ、そんな中でも懸念点はある。1つは、空振り率の高さ。
昨季の村上は確かに速いストレートに優れたOPSを残した。しかし、150キロ以上のストレートへの空振り率(空振り÷スウィング)を見ると、35.5%(表3)とかなり高い。また、これは例年とそれほど変わりがない数字でもある。昨季のOPS向上はインプレー打球が多く安打になったことが大きな要因で、スピードボールへの不安要素が消えたわけではない。
表3 村上のストレート球速帯別空振り率
2019 35.7%
2020 30.0%
2021 46.2%
2022 35.5%
※空振り率=空振り÷スウィング
また、スピードボールがどこに投げ込まれるかも問題だ。近年、MLBでは速い球を高めに投げ込むトレンドが生まれている。データ分析により、ストレートは高めの方が空振りを奪いやすいことが分かったためだ。MLBは年々ストレートを高めに投げ込む割合が高まっている真っ最中である(表4)。
表4 投じられたストレート高め割合(MLB)
2015 40.1%
2016 40.0%
2017 43.9%
2018 46.1%
2019 47.9%
2020 48.9%
2021 49.4%
2022 52.5%
一方、NPBではストレートも変化球もまだ基本は低めが中心で、MLBのトレンドは主流にはなっていない。そして、村上が攻略してきたストレートも、多くは真ん中から低めのコースだ。実際、昨季の56本塁打のうち、150キロ以上の高めストレートを打ったものは1本もなかった。
意図的に高めに剛速球を投げ込まれた時に、果たして村上はどう反応するのか。侍ジャパンの優勝はもちろんのこと、近い将来のメジャー挑戦をも大きく左右するポイントになるだろう。
文●DELTA(@Deltagraphs)
【著者プロフィール】
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』の運営、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。
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