「秋の戦い方」の“残像”が仇に――初の初戦敗退を喫した健大高崎に見るセンバツの難しさ<SLUGGER>
2023年03月25日 11時30分THE DIGEST

最速146キロ、打者の胸元をえぐるストレートが武器のエース小玉も、甲子園の空気に飲まれたか。写真:THE DIGEST写真部
3月24日のセンバツ高校野球大会第6日。2011年に甲子園初出場を果たして以降、春夏通じて7回連続して初戦突破を続けてきた健大高崎高が、初めて大会初戦で姿を消した。
「初戦の難しさですか? これまで勝っていたのはたまたまですよ。接戦の展開でしつこくいくというのがうちの野球なんですけど、それができなかった」
指揮官の青柳博史監督はそういって淡々と現実を受け止めた。
これまで一度も初戦敗退がなかったことには、少し驚きもある。これまでの健大高崎は、毎回異なるプレースタイルで甲子園に出場してきたカメレオンのようなチームなのだ。
かつては「機動破壊」を標榜し、俊足でもって対戦相手の守備陣を混乱に陥れた。かと思えば、ある年は投手力が最大の武器だったし、21年のセンバツでは強力打線を売りにしていた。「機動破壊」が一世を風靡したため、今も走力があるように言われがちだが、現在は投手力を中心として粘り強く戦うチームになっている。
しかし、この日は2回にエースの小玉湧斗が乱調に陥ると、そのままずるずる終わってしまった印象だった。2対7で報徳学園の前に力なく敗れた。
なかなか見ない光景だった。
小玉は初回を3人で料理。ドラフト候補もいる報徳学園の強力打線を相手に鮮烈なスタートを切った。その裏、健大高崎は小玉とバッテリーを組む2年生4番・箱山遥人のタイムリーで1点を先制した。
しかし2回。小玉は報徳学園先頭の4番・石野蓮授を三振に取った後、5番の辻田剛暉にショートへの内野安打で出塁を許し、そこから乱れ始める。続く西村大和を四球、竹内颯平はらライト線へのポテンヒットで満塁。8番・宮本青空は渾身のストレート勝負で三振に切ってとるが、9番の盛田智矢からの3連続押し出し四死球で3点を献上してしまった。
甲子園の舞台で投手が乱れて押し出しをする場面は何度も見たことがあるが、3連続はなかなか見ない場面だ。
小玉は唇を噛み締める。
「甲子園の雰囲気もありましたけど、試合慣れしていなかった。練習試合とはまた違う空気というか。2回に四球を出してしまって焦ってしまった。練習試合では感じられない空気だった」
小玉はその後も改善の兆しがなかった。4回には走者を溜めてから連続タイムリーで2失点、球数は90近くにも達し、交代すべきとも見えた。
だが、それでも青柳監督は小玉を7回まで続投させた。
「小玉はいつもあんな感じでのらりくらりと言いますか。昨年の秋はそれで勝ってきたんでいけるところまで行こうと思ったんですけど、我慢ができなかったですね。この展開になると負けるなという展開にしてしまった」
指揮官は昨秋と同じように、エースが少し制球を乱しながらも立て直し、そのうちに打線が反撃するというのを期待していた。投打が噛み合い、終盤にかけて攻勢をかけていく展開を想像していた。
しかし甲子園という舞台では、一度失った流れはなかなか戻ってこない。ましてや、この日の相手は強豪・報徳学園。本格派の投手を何人も抱え、そう簡単に流れを引き渡さない強敵だった。
これが春の戦い方の難しさだ。「秋の勝ち方」が仇となり、試合の流れを見失ってしまう。投手交代などで手を打つということもあるが、指揮官は流れが変わるのを待ち続けたのだ。
青柳監督は言う。
「今日4、5点勝負だと思っていたので、6点目を早く取られていたら変えていたかもしれません。小玉の持ち味が粘り強さなんでね、(交代は)難しかった。ただ打線が2点しか取れなかったんで、それも敗因の一つかなと思います。夏は小玉が一人で投げ抜くには難しいので、今日投げた加藤もいい投手ですし、報徳さんみたいに複数の投手を育成できるようにしたいですね」
粘り強い戦い方が持ち味であることが逆に仇になり、完全に勝機を逸してしまった。
春夏通じて8度目にして初の初戦敗退は、大きな課題をチームに突きつけられた試合だった。
取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)
【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
「初戦の難しさですか? これまで勝っていたのはたまたまですよ。接戦の展開でしつこくいくというのがうちの野球なんですけど、それができなかった」
指揮官の青柳博史監督はそういって淡々と現実を受け止めた。
これまで一度も初戦敗退がなかったことには、少し驚きもある。これまでの健大高崎は、毎回異なるプレースタイルで甲子園に出場してきたカメレオンのようなチームなのだ。
かつては「機動破壊」を標榜し、俊足でもって対戦相手の守備陣を混乱に陥れた。かと思えば、ある年は投手力が最大の武器だったし、21年のセンバツでは強力打線を売りにしていた。「機動破壊」が一世を風靡したため、今も走力があるように言われがちだが、現在は投手力を中心として粘り強く戦うチームになっている。
しかし、この日は2回にエースの小玉湧斗が乱調に陥ると、そのままずるずる終わってしまった印象だった。2対7で報徳学園の前に力なく敗れた。
なかなか見ない光景だった。
小玉は初回を3人で料理。ドラフト候補もいる報徳学園の強力打線を相手に鮮烈なスタートを切った。その裏、健大高崎は小玉とバッテリーを組む2年生4番・箱山遥人のタイムリーで1点を先制した。
しかし2回。小玉は報徳学園先頭の4番・石野蓮授を三振に取った後、5番の辻田剛暉にショートへの内野安打で出塁を許し、そこから乱れ始める。続く西村大和を四球、竹内颯平はらライト線へのポテンヒットで満塁。8番・宮本青空は渾身のストレート勝負で三振に切ってとるが、9番の盛田智矢からの3連続押し出し四死球で3点を献上してしまった。
甲子園の舞台で投手が乱れて押し出しをする場面は何度も見たことがあるが、3連続はなかなか見ない場面だ。
小玉は唇を噛み締める。
「甲子園の雰囲気もありましたけど、試合慣れしていなかった。練習試合とはまた違う空気というか。2回に四球を出してしまって焦ってしまった。練習試合では感じられない空気だった」
小玉はその後も改善の兆しがなかった。4回には走者を溜めてから連続タイムリーで2失点、球数は90近くにも達し、交代すべきとも見えた。
だが、それでも青柳監督は小玉を7回まで続投させた。
「小玉はいつもあんな感じでのらりくらりと言いますか。昨年の秋はそれで勝ってきたんでいけるところまで行こうと思ったんですけど、我慢ができなかったですね。この展開になると負けるなという展開にしてしまった」
指揮官は昨秋と同じように、エースが少し制球を乱しながらも立て直し、そのうちに打線が反撃するというのを期待していた。投打が噛み合い、終盤にかけて攻勢をかけていく展開を想像していた。
しかし甲子園という舞台では、一度失った流れはなかなか戻ってこない。ましてや、この日の相手は強豪・報徳学園。本格派の投手を何人も抱え、そう簡単に流れを引き渡さない強敵だった。
これが春の戦い方の難しさだ。「秋の勝ち方」が仇となり、試合の流れを見失ってしまう。投手交代などで手を打つということもあるが、指揮官は流れが変わるのを待ち続けたのだ。
青柳監督は言う。
「今日4、5点勝負だと思っていたので、6点目を早く取られていたら変えていたかもしれません。小玉の持ち味が粘り強さなんでね、(交代は)難しかった。ただ打線が2点しか取れなかったんで、それも敗因の一つかなと思います。夏は小玉が一人で投げ抜くには難しいので、今日投げた加藤もいい投手ですし、報徳さんみたいに複数の投手を育成できるようにしたいですね」
粘り強い戦い方が持ち味であることが逆に仇になり、完全に勝機を逸してしまった。
春夏通じて8度目にして初の初戦敗退は、大きな課題をチームに突きつけられた試合だった。
取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)
【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
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