「若い選手たちは思い切ってプレーしてもらえたら」――西武・松井稼頭央新監督の育てながら勝つ野球の船出<SLUGGER>

「若い選手たちは思い切ってプレーしてもらえたら」――西武・松井稼頭央新監督の育てながら勝つ野球の船出<SLUGGER>

初勝利のウイニングボールを手渡され、笑顔を見せる松井監督。「現役時代もこれほど緊張したことはなかった」と待望の白星を喜んだ。写真:産経新聞社

粘り強い。

 今季から西武の指揮を執る松井稼頭央監督のことだ。オリックスとの開幕カードは3月31日、4月1日と連敗スタートだったが、投手戦で推移した2日の3戦目は8回裏に期待の鈴木将平が2死一、二塁から一塁線を破るタイムリー三塁打。これが決勝点となり、松井監督に待望の初勝利をもたらした。

「この2戦は本当に長く感じていたんで、一つ勝つって難しいなと。何点差があってもハラハラドキドキしていましたけど、全員が素晴らしい力を発揮してくれました」

 松井監督はそう安堵した。

 初戦に続く息の詰まる投手戦だったが、この日は積極的に起用した若い選手たちが躍動して結果を残した。

 松井監督の選手起用や作戦は、とにかく粘り強さがある。接戦の展開でも若手を信頼しているところに、勝利と同じくらいチームの前進を期待している様子が窺えた。
  試合はまず、今季から先発に転向した平良海馬が7回を1失点に抑えるピッチングを披露。ハイライトはこの後の8回の攻防だった。西武はここから継投に入ったが、イニング頭から登板した水上由伸は、オリックスの先頭打者・西野真弘を四球で歩かせてしまい、犠打とライトフライで2死三塁のピンチを招く。

 すると、松井監督はここで2年目のサウスポー佐藤隼輔にスイッチ。1戦目に同点本塁打を放った森友哉、勝ち越し弾の宗佑磨を迎える厳しい場面を託した。佐藤は森に対して3球続けてストレートを選択し、センターフライに打ち取ってこの窮地を切り抜けた。

 これまでの西武は中継ぎの生え抜きサウスポーを育てられないことが課題だったが、そのピースにハマる存在として、佐藤を高く評価していたことが分かる起用だった。

「前日も投げていた中での起用でしたけど、(森)友哉に対して真っ向勝負して抑えてくれましたので、大きな成長につながったのではないかなと思います」
 
 ピンチを若手の力で乗り切ると、その裏に好機がめぐってくる。

 先頭のマキノンが四球で出塁。犠打と4番・山川穂高のレフト前ヒットで一、三塁とチャンスを広げた。5番の栗山巧は三振に倒れたものの、6番・鈴木が一塁線を破る適時三塁打を放ち2人が生還。勝ち越しを決めたのだった。
  9回表は、第1戦目にセーブ失敗したルーキーの青山美夏人を再び起用。走者を出す苦しいピッチングだったが、なんとか凌ぎ切り、シーズン初勝利を挙げたのだった。

 タイムリーを打った鈴木は高卒7年目。ここ数年はレギュラーを争いながらも定着できなかった選手だっただけに、結果を残せたのは非常に意味のあることだった。

「追い込まれた中でも、自分らしく思い切っていけたのがよかった。去年のシーズンにある程度できるきっかけは掴んでいたので焦りはなかったですけど、自分がなかなかレギュラーに固定できなかったから、ドラフト1位で(同じ外野手の)蛭間(拓哉)を指名したんだと思う。その悔しさは持っていました。(8回のチャンスで)代打を出されなかったので、思い切っていこうと思いました」

 鈴木は自信と覚悟を口にしつつ、殊勲の一打をこう振り返った。

 一軍で試合に出始めたのがコロナ禍の2020年頃からだったから、大歓声の中でのプレーはあまり多くなかった。声援を強く感じながらも力まず打てたことは、非常に大きなことだった。

 松井監督は言う。
 「チームには山川もいますし、ベテランの中村、栗山もいるので、若い選手たちは安心して思い切ってプレーしてもらえたらと思う。鈴木はしっかりと準備してくれていた。青山は1戦目と同じシチュエーションが来たら、またやり返してもらいたいと思っていた。抑えることができて自信につながったと思います」

 思い返せば、前任の辻発彦監督も就任1年目に、粘り強く若手の成長を待ちながらチームを作っていった。それが今の主力である外崎修汰であり、山川であり、源田壮亮だった。指揮官が我慢強さを持つことで、若手の芽はどんどん出てくる。

 たったの1勝だが、ベテランたちに頼り切ったものではない。それが、西武の新たな船出には大きな意味がある。

「今日は今日で喜びたいと思います。ただ、これから遠征に出ますし、シーズンは長いです。いいことも悪いこともあると思いますけど、前向きにやっていきたいと思います」。

 勝ちながら選手を育てていく――。楽しみな1年になる予感のある、松井監督の初白星だった。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
 

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