将来像は佐々木朗希より“投手・大谷”?高卒3年目で快投を続けるオリックス・山下舜平大の驚異の成長曲線<SLUGGER>
2023年05月09日 05時30分THE DIGEST

昨季まで一軍登板がなかった山下だが、今季は開幕投手に大抜擢されるなど大きく飛躍した。写真:産経新聞社
パ・リーグの投手で今年最も驚きの活躍を見せている選手といえば、やはり山下舜平大(オリックス)になるだろう。プロ初先発で開幕投手という大役を任せられると、ここまで4試合に先発して3勝0敗、防御率0.37という見事な成績を残しているのだ。
登板間隔を空けながらの起用のため規定投球回数には到達していないが、あらゆる指標でリーグトップを独走している佐々木朗希(ロッテ)の防御率が0.84ということを考えると、山下の数字がいかに圧倒的かということがよく分かるだろう。奪三振率12.21、WHIP(1イニングあたりの被安打+与四球)0.90というのも先発投手としては驚異的な数字である。
※成績は5月6日終了時点
そんな山下は福岡大大濠高から2020年のドラフト1位指名で入団しているが、高校3年時にはコロナ禍で公式戦が中止になったということもあり、プロ入り前の一般的な知名度は高くなかった。
それでも、プロから高い評価を受けていた理由はスケールの大きさと最終学年での急成長があったからだ。初めてそのピッチングを見たのは2年春に出場した九州大会の対球磨工戦で、8回を投げて1失点と好投、ストレートの最速も144キロをマークしている。しかし、当時のプロフィールが186㎝、80㎏となっていることからも分かるようにまだまだ細く、同じ大会に出場していた1学年上の宮城大弥(興南→オリックス)のボールと比べるとすべてが大きく劣っていたことは確かだ。
実際その後の夏、秋の大会でも結果を残すことはできず、同学年の高橋宏斗(中京大中京→中日1位)と比べると完成度で劣っていたことは間違いないだろう。そんな山下の名前がスカウトの間から頻繁に聞かれるようになったのは翌年春からだ。練習試合では150キロを超えているという話を聞き、8月に行われた福岡地区の代替大会決勝に足を運んだが、この試合で山下は延長11回に151キロをマークするなど計測できた100球のストレートの平均は145.99キロに達したのだ。これは高校生投手としては驚異的な数字である。
しかも、1回から5回までの平均が145.50キロだったの対して、6回から11回までの平均が146.48キロと後半にスピードアップしていたのも驚きだ。試合は延長タイブレークの末に3対4(自責点は1)で敗れたものの、この日の投球を見て上位指名を確信した。
もう一つ驚かされたのがその投球スタイルだ。この当時、山下は将来を考えて変化球はカーブしか投げていなかったのである。最近は高校生でも多彩な変化球を操る投手が増えており、わずか一つの変化球しか投げないというのは異例のことである。早くから多くの変化球を投げることへの賛否はあるが、このスタイルに対して計り知れない可能性が感じられた。 ただ、将来性は高く評価しても、プロ入り後に時間がかかると判断していた人も多かったのではないだろうか。同じ学年では前述した高橋や中森俊介(明石商→ロッテ2位)、小林樹斗(智弁和歌山→広島4位)の方が大舞台での経験もあり、早く一軍の戦力として期待できる声も多かった。実際、高橋は2年目の昨年にブレイクし、今年はワールド・ベースボール・クラシック(WBC)にも出場している。ただ、今シーズンのここまでの投球を見れば、すでに高橋と並んだと感じている人も多いだろう。
その理由として大きいのは、安易に球種を増やすのではなく、最大の武器であるストレートを磨き続けたという点が大きいのではないだろうか。高校時代はカーブしか投げていなかったことは前述したが、今年もここまでフォークが増えただけで変化球は2つの球種しか投げていない。もちろんこの2球種の質も高いが、ストレートが素晴らしいからこそ変化球の威力も増していることは間違いないだろう。平均球速は150キロを優に超えており、空振りを奪える割合も高い。これまでの2年間で二軍で実戦経験を積みながらも、ストレートを磨いてきたことがここまでの活躍につながっていると言えそうだ。
そしてもう一つ顕著なのがフォーム面の変化だ。テイクバックの動きが目に見えて小さくなり、身体の近くで腕を振れるようになったことでコントロールも安定し、打者にとってもボールが見づらくなった印象を受ける。また下半身の躍動感も高校時代から明らかにアップしており、フォームのバランスの良さも出色だ。体格や雰囲気も含めて、大げさではなく大谷翔平(エンジェルス)を彷彿とさせると感じたファンも多いだろう。 将来像としてもやはり近いのは投手としての大谷ではないだろうか。よく佐々木を大谷と重ねることがあるが、フォームなどを見ても大谷に近いのは山下のように見える。そして末恐ろしいのはまだカーブとフォークしか投げずにこの成績を残している点だ。今後大谷のように球種を増やしていくことができれば、若いうちからメジャーリーグで活躍する可能性も高くなるだろう。
あと課題を挙げるとすれば1年間を通して投げる体力面であるが、この点については故障さえなければ順調にクリアしていく可能性は高いだろう。それを考えると今年のベンチマークとしたいのが1学年上である佐々木の昨年の成績(20試合9勝4敗、防御率2.02)だ。勝敗と防御率はもちろんだが、特に狙ってもらいたいのが奪三振率12.04、WHIP0.80という数字である。これはいずれも先発投手としてはなかなかないレベルの成績だが、今の山下を見ている限り、決して不可能ではないはずだ。
日本だけでなく、メジャーでも佐々木と山下が超ハイレベルの投手タイトル争いを繰り広げる。そんな未来も十分に期待できるだろう。
文●西尾典文
【著者プロフィール】
にしお・のりふみ。1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。アマチュア野球を中心に年間400試合以上を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。
登板間隔を空けながらの起用のため規定投球回数には到達していないが、あらゆる指標でリーグトップを独走している佐々木朗希(ロッテ)の防御率が0.84ということを考えると、山下の数字がいかに圧倒的かということがよく分かるだろう。奪三振率12.21、WHIP(1イニングあたりの被安打+与四球)0.90というのも先発投手としては驚異的な数字である。
※成績は5月6日終了時点
そんな山下は福岡大大濠高から2020年のドラフト1位指名で入団しているが、高校3年時にはコロナ禍で公式戦が中止になったということもあり、プロ入り前の一般的な知名度は高くなかった。
それでも、プロから高い評価を受けていた理由はスケールの大きさと最終学年での急成長があったからだ。初めてそのピッチングを見たのは2年春に出場した九州大会の対球磨工戦で、8回を投げて1失点と好投、ストレートの最速も144キロをマークしている。しかし、当時のプロフィールが186㎝、80㎏となっていることからも分かるようにまだまだ細く、同じ大会に出場していた1学年上の宮城大弥(興南→オリックス)のボールと比べるとすべてが大きく劣っていたことは確かだ。
実際その後の夏、秋の大会でも結果を残すことはできず、同学年の高橋宏斗(中京大中京→中日1位)と比べると完成度で劣っていたことは間違いないだろう。そんな山下の名前がスカウトの間から頻繁に聞かれるようになったのは翌年春からだ。練習試合では150キロを超えているという話を聞き、8月に行われた福岡地区の代替大会決勝に足を運んだが、この試合で山下は延長11回に151キロをマークするなど計測できた100球のストレートの平均は145.99キロに達したのだ。これは高校生投手としては驚異的な数字である。
しかも、1回から5回までの平均が145.50キロだったの対して、6回から11回までの平均が146.48キロと後半にスピードアップしていたのも驚きだ。試合は延長タイブレークの末に3対4(自責点は1)で敗れたものの、この日の投球を見て上位指名を確信した。
もう一つ驚かされたのがその投球スタイルだ。この当時、山下は将来を考えて変化球はカーブしか投げていなかったのである。最近は高校生でも多彩な変化球を操る投手が増えており、わずか一つの変化球しか投げないというのは異例のことである。早くから多くの変化球を投げることへの賛否はあるが、このスタイルに対して計り知れない可能性が感じられた。 ただ、将来性は高く評価しても、プロ入り後に時間がかかると判断していた人も多かったのではないだろうか。同じ学年では前述した高橋や中森俊介(明石商→ロッテ2位)、小林樹斗(智弁和歌山→広島4位)の方が大舞台での経験もあり、早く一軍の戦力として期待できる声も多かった。実際、高橋は2年目の昨年にブレイクし、今年はワールド・ベースボール・クラシック(WBC)にも出場している。ただ、今シーズンのここまでの投球を見れば、すでに高橋と並んだと感じている人も多いだろう。
その理由として大きいのは、安易に球種を増やすのではなく、最大の武器であるストレートを磨き続けたという点が大きいのではないだろうか。高校時代はカーブしか投げていなかったことは前述したが、今年もここまでフォークが増えただけで変化球は2つの球種しか投げていない。もちろんこの2球種の質も高いが、ストレートが素晴らしいからこそ変化球の威力も増していることは間違いないだろう。平均球速は150キロを優に超えており、空振りを奪える割合も高い。これまでの2年間で二軍で実戦経験を積みながらも、ストレートを磨いてきたことがここまでの活躍につながっていると言えそうだ。
そしてもう一つ顕著なのがフォーム面の変化だ。テイクバックの動きが目に見えて小さくなり、身体の近くで腕を振れるようになったことでコントロールも安定し、打者にとってもボールが見づらくなった印象を受ける。また下半身の躍動感も高校時代から明らかにアップしており、フォームのバランスの良さも出色だ。体格や雰囲気も含めて、大げさではなく大谷翔平(エンジェルス)を彷彿とさせると感じたファンも多いだろう。 将来像としてもやはり近いのは投手としての大谷ではないだろうか。よく佐々木を大谷と重ねることがあるが、フォームなどを見ても大谷に近いのは山下のように見える。そして末恐ろしいのはまだカーブとフォークしか投げずにこの成績を残している点だ。今後大谷のように球種を増やしていくことができれば、若いうちからメジャーリーグで活躍する可能性も高くなるだろう。
あと課題を挙げるとすれば1年間を通して投げる体力面であるが、この点については故障さえなければ順調にクリアしていく可能性は高いだろう。それを考えると今年のベンチマークとしたいのが1学年上である佐々木の昨年の成績(20試合9勝4敗、防御率2.02)だ。勝敗と防御率はもちろんだが、特に狙ってもらいたいのが奪三振率12.04、WHIP0.80という数字である。これはいずれも先発投手としてはなかなかないレベルの成績だが、今の山下を見ている限り、決して不可能ではないはずだ。
日本だけでなく、メジャーでも佐々木と山下が超ハイレベルの投手タイトル争いを繰り広げる。そんな未来も十分に期待できるだろう。
文●西尾典文
【著者プロフィール】
にしお・のりふみ。1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。アマチュア野球を中心に年間400試合以上を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。
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