名門校で1年から4番を務めた天才バッター、吉田正尚の高校時代。プロ志望届を出さずに青学大を選んだ理由とは?
2023年06月30日 05時30分THE DIGEST

敦賀気比→青山学院大出身の吉田。オリックスで7年間プレーし、今季からレッドソックスに加入した。(C)Getty Images
毎年のように新たな日本人メジャー・リーガーが誕生しているが、今年抜群の存在感を示しているのが吉田正尚(レッドソックス)だ。
【PHOTO】侍ジャパンの4番はメジャーでも奮闘! レッドソックスで躍動する吉田正尚を厳選ショットで紹介
3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では侍ジャパンの4番としてチームの優勝に大きく貢献。レギュラーシーズンが始まってもその勢いはとどまることを知らず、ア・リーグの首位打者争いにも加わる活躍を見せている。日本人選手ではイチロー(元マリナーズなど)、松井秀喜(元ヤンキースなど)に続く3人目の打率3割の可能性も十分にあるだろう。
そんな吉田は敦賀気比から青山学院大を経て2015年のドラフト1位でオリックスに入団している。高校では入学直後から4番、大学でも1年春からレギュラーと順調な野球生活を送ってきているように見えるが、最初からここまでの打撃技術とパワーを備えていたわけではない。
初めてそのプレーを見たのは2009年6月6日に行なわれた高校野球春季北信越大会の対桜井戦だった。入学間もない1年生ながら4番を任されていたため、当然こちらもそのプレーぶりに注目していたが、当時のプロフィールを見ると170cm、67kgとなっており、この数字を見ても分かるように非常に小柄な4番打者だなというのが第一印象だった。
ポジションは現在と同じレフトで、守備に関してはシートノックでも特に目立っていた記憶は残っていない。ただ、この時点でも際立っていたのは振り出しの鋭さと、ヘッドスピードの速さだ。
この試合でも第1打席でセンター前に弾き返すタイムリーを放って4番としての役割をしっかり果たしており、当時のノートにも「1年生でまだまだ体つきは小柄だが、明らかに他の選手と比べてヘッドスピードが違う」という記載が残っている。
この時はまだメジャーで中軸を打つような打者になるとは全く思っていなかったが、光るものがあったことは確かだろう。その後の夏の福井大会でも4試合で6割を超える打率をマークしており、初めて出場した甲子園でも初戦で帝京に敗れたものの、レフト前にタイムリーヒットを放っている。
しかし吉田は高校卒業時に有力なドラフト候補とは言われておらず、プロ志望届も提出することなく青山学院大へ進学している。その理由としては大きくふたつのことが挙げられるだろう。
まずひとつ目は前述したような体格的な問題である。ヘッドスピードの速さは光るものがあるものの、決してパワーヒッターというわけではなく、2度出場した甲子園でも5安打中長打はツーベース1本に終わっている。強打者というよりもバットコントロールが目立つ“巧打者”というのが当時の打者吉田の評価だったのではないだろうか。
そしてもうひとつが打撃以外のプレーだ。本職は外野手ではあるものの、肩を痛めたこともあってファーストを守ることが多く、守備では決して目立つタイプではなかった。また足に関しても俊足というレベルではなく、左打者としてはまずまずというスピードにとどまっている。
このあたりはプロ入り後も大きく印象が変わらない部分だ。足もそれほど速くなく、パワーも際立っていない一塁手兼外野手となれば、高校からのプロ入りは難しくて当然である。
そんな吉田の印象が大きく変わったのは大学進学後だ。まず目に見えて変わったのがその体つきである。
入学直後の1年春のデータを見ると172cm、73kgとなっているが、4年時の数字は173cm、80kgまでアップしている。そして7kgという増えた体重以上に、上半身も下半身も年々大きさを増しており、それに比例するように打撃スタイルも強打者へと変わっていったのだ。
4年時に行なわれた大学日本代表の壮行試合では、プロの若手選抜チームで当時ルーキーだった高橋光成(西武)を完璧に攻略し、また高校日本代表との試合でも甲子園で2本のホームランを放っているが、この頃の打撃は良い意味で高校時代とは別人となっていた。元々振り出しの鋭さと、バットコントロールには定評があったところに、パワーがついてきたことで現在の吉田の原型が出来上がったと言えるだろう。
プロ入り直後は慢性的な腰の故障に苦しんだが、負担を小さくするためにスイング改造に取り組み、またフィジカル面でも更なるパワーアップを果たしている。そうやってステージを上がるごとに進化してきたことが、メジャーでの活躍にも繋がっているのは間違いない。
そしてこれまでのプレーぶりを見ても、メジャーで更にレベルアップも期待できるはずだ。今後も進化のスピードを緩めることなく、そのバットで本場アメリカのファンを驚かせるような打撃を見せ続けてくれることを期待したい。
文●西尾典文
【著者プロフィール】
にしお・のりふみ。1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。アマチュア野球を中心に年間400試合以上を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。
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3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では侍ジャパンの4番としてチームの優勝に大きく貢献。レギュラーシーズンが始まってもその勢いはとどまることを知らず、ア・リーグの首位打者争いにも加わる活躍を見せている。日本人選手ではイチロー(元マリナーズなど)、松井秀喜(元ヤンキースなど)に続く3人目の打率3割の可能性も十分にあるだろう。
そんな吉田は敦賀気比から青山学院大を経て2015年のドラフト1位でオリックスに入団している。高校では入学直後から4番、大学でも1年春からレギュラーと順調な野球生活を送ってきているように見えるが、最初からここまでの打撃技術とパワーを備えていたわけではない。
初めてそのプレーを見たのは2009年6月6日に行なわれた高校野球春季北信越大会の対桜井戦だった。入学間もない1年生ながら4番を任されていたため、当然こちらもそのプレーぶりに注目していたが、当時のプロフィールを見ると170cm、67kgとなっており、この数字を見ても分かるように非常に小柄な4番打者だなというのが第一印象だった。
ポジションは現在と同じレフトで、守備に関してはシートノックでも特に目立っていた記憶は残っていない。ただ、この時点でも際立っていたのは振り出しの鋭さと、ヘッドスピードの速さだ。
この試合でも第1打席でセンター前に弾き返すタイムリーを放って4番としての役割をしっかり果たしており、当時のノートにも「1年生でまだまだ体つきは小柄だが、明らかに他の選手と比べてヘッドスピードが違う」という記載が残っている。
この時はまだメジャーで中軸を打つような打者になるとは全く思っていなかったが、光るものがあったことは確かだろう。その後の夏の福井大会でも4試合で6割を超える打率をマークしており、初めて出場した甲子園でも初戦で帝京に敗れたものの、レフト前にタイムリーヒットを放っている。
しかし吉田は高校卒業時に有力なドラフト候補とは言われておらず、プロ志望届も提出することなく青山学院大へ進学している。その理由としては大きくふたつのことが挙げられるだろう。
まずひとつ目は前述したような体格的な問題である。ヘッドスピードの速さは光るものがあるものの、決してパワーヒッターというわけではなく、2度出場した甲子園でも5安打中長打はツーベース1本に終わっている。強打者というよりもバットコントロールが目立つ“巧打者”というのが当時の打者吉田の評価だったのではないだろうか。
そしてもうひとつが打撃以外のプレーだ。本職は外野手ではあるものの、肩を痛めたこともあってファーストを守ることが多く、守備では決して目立つタイプではなかった。また足に関しても俊足というレベルではなく、左打者としてはまずまずというスピードにとどまっている。
このあたりはプロ入り後も大きく印象が変わらない部分だ。足もそれほど速くなく、パワーも際立っていない一塁手兼外野手となれば、高校からのプロ入りは難しくて当然である。
そんな吉田の印象が大きく変わったのは大学進学後だ。まず目に見えて変わったのがその体つきである。
入学直後の1年春のデータを見ると172cm、73kgとなっているが、4年時の数字は173cm、80kgまでアップしている。そして7kgという増えた体重以上に、上半身も下半身も年々大きさを増しており、それに比例するように打撃スタイルも強打者へと変わっていったのだ。
4年時に行なわれた大学日本代表の壮行試合では、プロの若手選抜チームで当時ルーキーだった高橋光成(西武)を完璧に攻略し、また高校日本代表との試合でも甲子園で2本のホームランを放っているが、この頃の打撃は良い意味で高校時代とは別人となっていた。元々振り出しの鋭さと、バットコントロールには定評があったところに、パワーがついてきたことで現在の吉田の原型が出来上がったと言えるだろう。
プロ入り直後は慢性的な腰の故障に苦しんだが、負担を小さくするためにスイング改造に取り組み、またフィジカル面でも更なるパワーアップを果たしている。そうやってステージを上がるごとに進化してきたことが、メジャーでの活躍にも繋がっているのは間違いない。
そしてこれまでのプレーぶりを見ても、メジャーで更にレベルアップも期待できるはずだ。今後も進化のスピードを緩めることなく、そのバットで本場アメリカのファンを驚かせるような打撃を見せ続けてくれることを期待したい。
文●西尾典文
【著者プロフィール】
にしお・のりふみ。1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。アマチュア野球を中心に年間400試合以上を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。
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