奪三振リーグ3位を記録してオールスターにも選出!千賀滉大の前半戦の好投を影で支えたメッツの「配慮」<SLUGGER>

奪三振リーグ3位を記録してオールスターにも選出!千賀滉大の前半戦の好投を影で支えたメッツの「配慮」<SLUGGER>

自慢の“ゴーストフォーク”を武器に、奪三振率はリーグ3位。メジャー1年目からオールスター選出を果たした。(C)Getty Images

前半戦最後の登板はあまりにも見事だった。7月5日(現地)、千賀滉大(メッツ)は敵地でのダイヤモンドバックス戦に今季16度目の先発マウンドに立ち、8回1失点、12奪三振の力投。9回2死から味方打線が大逆転したことで7勝目を挙げた。

「少しでもチームの役に立ちたいし、とにかく『あいつが来てもらって良かった』と思えるようなピッチングをここでやりたいなと思う」

 入団会見の際にそう語ってメジャーキャリアをスタートさせた千賀。実際にこの日はメッツファンの誰もが「千賀がいてくれて良かった」と感じたことだろう。前半戦、予想外の苦戦を続けたチームにとって、西地区首位のダイヤモンドバックス相手の今季最も劇的な勝利は、背番号34の好投なしにあり得なかった。

 ここまで、少なからずのアップダウンはあったものの、前半戦に残した数字は30歳のルーキーが上質な投球を続けてきたことを物語る。最新の好投の後で防御率3.31はリーグ10位となり、113奪三振は8位。9イニング平均の奪三振率11.34は3位に位置する。また、被打率.204が堂々のリーグトップであることは特筆されていいはずだ。 これだけのペースで三振を奪い、打者を抑えこめている背景としては、やはり絶対的な決め球を持っていることが大きい。もちろん、千賀の切り札はアメリカでも“ゴーストフォーク”の愛称で親しまれ始めたフォークボール。ここまで87打数11安打(打率.126)、長打は2本だけと威力を発揮し、空振り率/スウィング率59.6%はメジャーの全先発投手の全球種の中でも最高級を誇る。

 実際に登板を見ていても、相手打者のバットがフォークにまったくタイミングが合わずに空転するシーンをよく目にする。この強力な武器が千賀の心の拠りどころになっていることは間違いなく、その投球はスプリットが絶対的な宝刀となっていた田中将大の1年目を彷彿とさせる。さらに言えば、最速100マイルの千賀の速球は球威で田中を大きく上回る分、フォークもさらに強力になっている印象すら受ける。

 もっとも、ここまでの投球は十分合格点でも、まだ千賀には課題が散見されるのも事実だ。最大のネックは制球難。9イニング平均の与四球率は4.72で、これは規定投球回をクリアしているナ・リーグの投手ではワーストの数字である。 つまり、前半戦の千賀はヒットを許す確率はリーグで一番低く、空振り率が極めて高い球種も持っているが、一方で四球も最も多いという実に極端な数字が出ている。ボールゾーンに落ちていくフォークは多くの空振りを誘発する一方で、打者が我慢して見送ればその大半はボールになる。その意味では“諸刃の剣”でもある。ただ、四球が多ければ必然的に球数は増える。クオリティ・スタートが16先発中6度のみと少ないのもそのあたりに起因しているに違いない。

 このように修正点があることは、後半戦に向けて伸びしろが残っていると捉えることもできる。日本とは違うマウンド、ボールへの適応に苦労した面もあったはずで、直近の4戦に限定すれば25イニングで7四球のみと向上の跡が見える。

「彼には適応を進めなければならない要素があり、私たちはそれを可能な限り容易にしようと努めてきた。より快適に感じられるようになっている」。バック・ショーウォルター監督の言葉通り、メジャーの水に慣れるにつれ、制球も徐々に向上すればさらに心強い。

 首脳陣側のヘルプの一環として、登板間隔がこれからどう考慮されていくかも興味深い。前半戦での千賀は極めて慎重に起用され、中4日での登板は2度だけ、結果も合計7.2回で自責点5と芳しくない。5日のダイヤモンドバックス戦も、マックス・シャーザーと順番が入れ替わって中6日でマウンドに立ったものだった。「休みが多い際の千賀は違う投手のように見える。今回は登板間隔が2日長かった(中6日)。速球にはよりキレがあり、おかげでゴーストフォークはより大きな武器になっていた。可能な限り日本と同じ先発ローテーションに近づけることは試みる価値があるのだろう」。地元放送局SNYのジョン・ハーパー記者のそんな指摘は的を得ているのかもしれない。

 もちろん、千賀は中4日への定着を目指して渡米したはずだが、メジャー1年目はこのまま慎重に起用し続けるという考え方は理に叶っている。後半戦の巻き返しに向け、好投の可能性がより高い登板間隔をチームが模索するのも当然。それによって、さらに成績が向上しても驚くべきではないのだろう。

 代替選手として、オールスターにも選出。前半戦の好投が球界内でも広く評価されていることが改めて証明された。夢の舞台を経験した千賀が後半戦どんな投球を見せてくれるか期待したい。

文●杉浦大介

【著者プロフィール】
すぎうら・だいすけ/ニューヨーク在住のスポーツライター。MLB、NBA、ボクシングを中心に取材・執筆活動を行う。著書に『イチローがいた幸せ』(悟空出版 )など。ツイッターIDは@daisukesugiura。

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