54年ぶり12連敗の異常事態。ソフトバンクを悩ます投打の“2大問題”と藤本博史監督に託された使命とは?

54年ぶり12連敗の異常事態。ソフトバンクを悩ます投打の“2大問題”と藤本博史監督に託された使命とは?

今季就任2年目の藤本監督。口ひげがトレードマークだ。写真:THE DIGEST

7月7日の楽天戦を起点に、球宴も挟んで同24日まで続いたソフトバンクの12連敗は、前身の南海時代に15連敗を喫した1969年(昭和44年)以来、54年ぶりとなる異常事態だった。4カード連続の3タテを食らい、同8日からの11試合連続で3得点以下と、極端な打線の不振が目立った。

 ただ、7月24日の12連敗を喫した時点でも、貯金「3」で3位にいた。それだけ負けが込みながら、まだ勝ち数の方が負け数を上回り、Aクラスにいるというのもソフトバンクの“力”である。大型連敗突入前には貯金「15」を数え、2位のオリックスにも1.5ゲーム差をつけていたのだ。

 その「急降下」の要因は、どこにあるのか?

 守護神、ロベルト・オスナにつなぐ、8回のセットアッパー、リバン・モイネロが左肘を痛め、7月26日に手術、競技復帰まで3カ月と長期の戦線離脱を余儀なくされたのは痛手だが、もちろん大型連敗の引き金が、その1点だけに集約されるはずはない。開幕前から不安視されていた、投打における“2大問題”。これらが複雑に絡み合って、12連敗という下り坂の中で、そのほつれをほどき切れなかった感が強い、とでも言おうか。

 その2つを、紐解いていきたい。
  苦境に陥ったチームを踏みとどまらせる、負の流れを止め切るだけの「力」と「心」、さらに周囲からの「信頼感」。それらを兼ね備えた存在が“強いホークス”の長き歴史を振り返れば、必ず存在していた。

 2000年代に限定してみても、ソフトバンクの前身・ダイエーが最後の日本一に輝いた2003年なら、20勝を挙げた斉藤和巳(現・1軍投手コーチ)、2位に17.5ゲーム差をつけた2011年の日本一なら摂津正(現・野球評論家)がシーズン14勝を挙げ、4年連続日本一へのスタートとなった2017年には東浜巨が16勝を挙げ、最多勝に輝いている。

 そして昨季までなら、誰もが疑うことなく「エース」としてその名を挙げたのが千賀滉大だろう。昨季まで7年連続2桁勝利。その間の通算成績が83勝37敗。築き上げた“勝ち越し46”は、大黒柱の名にふさわしい勝ちっぷりだ。

 その実績を引っ提げて、ニューヨーク・メッツにFA移籍したのも、千賀滉大の野球人生という観点で考えれば、それこそ当然の流れでもある。ただ、裏を返せば、その存在感の大きさは、チームにとっては、大きな喪失感とイコールだ。

 2023年は「千賀の穴」が、ぽっかりと空いてしまった。
 「70点、80点の投手はいるんだよ」

 2月の宮崎キャンプ。藤本博史監督がふと漏らした“不安”は、今回の12連敗のような緊急事態に、千賀滉大や斉藤和巳のごとく、チームの危機という異様な空気の中であっても、己の持てる力をいつものように発揮し、一人でその負の流れを食い止められる『絶対的な存在』が見当たらないということでもある。

 開幕投手が、25歳の4年目左腕・大関友久だったことがその証左かもしれない。確かに、現状における相対的な力では、他の投手よりは“上”なのだろうが、何度も繰り返しになってしまうが、千賀の『力』には、当然ながらまだまだ及ばない。

 開幕2戦目の先発を担った藤井皓哉は、昨季のセットアッパーからの転向初年度で、3戦目の東浜も6月に33歳で、もう「ベテラン」と呼ばれる域に入っている。4戦目の石川柊太も31歳、5戦目の和田毅は42歳と、その“高齢化”も目立っている。

 今回の12連敗を止めた有原航平は、米メジャーからの出戻り組。オスナや近藤健介ら、他球団の主力級をごっそりと引き抜いた、総額80億円ともいわれた“異次元の大型補強”の中に名を連ねたビッグネームの一人だが、開幕は2軍スタート。やっとその期待にたがわぬエース級の働きを見せ始めたことは明るい兆しで、後半戦の戦いの中では、メジャー帰りの右腕に頼る場面が増えるだろう。

 こうした戦力入れ替わりの過渡期ゆえに、藤本が監督に就任したという背景を、この時期だからこそ強調したい。
  今季から、ソフトバンクは4軍制を敷いている。開幕時点で支配下、育成合わせて121選手の大所帯。つまり、1軍の監督一人で全選手の状態を把握することなど不可能だ。近年はコーチの担当職域も細分化され、例えばトレーニング部門にしても、強化とコンディショニング、リハビリなど、担当するスタッフも分かれている。

 そうした各部署での情報をフロントサイドが集約し、綿密に管理する。そうした情報は日々、1軍監督にも共有され、その内容に基づき、チームを動かし、選手の入れ替えなども判断する。

 かつての監督は、補強から新人の獲得交渉、コーチの招へいなどそれこそGM的な権限を持ち、チームのすべてを掌握していた。

 その“全権監督”の時代は、もうひと昔前のことだ。

 藤本は3軍制が発足した2010年からコーチとして現場に復帰すると、1、2軍では打撃コーチを務め、主砲・柳田悠岐をそれこそ二人三脚で育て上げ、2軍、3軍では監督も歴任している。

 つまり、育成手腕の確かさに加え、ソフトバンクホークスという組織を知り、選手たちの能力、現状も的確に把握している。千賀が抜け、内川聖一(現独立リーグ大分)、松田宣浩(現巨人)ら一時代を築いた野手の主力陣もチームを離れ、投打ともに戦力の入れ替え、若返りを図りながら、その一方で1軍の勝利も追求していく。「育成と勝利」というそのバランスを取っていく、難しい舵取りをしていかなければならない現状における“最適任者”として球団が判断したからこそ、藤本が1軍の長にいるのだ。
  ただ、若手の現状を知る藤本だからこそ、その視線はシビアになってしまう。チャンスは、もちろん与える。しかし、結果が伴わなければ容赦なく2軍へ、あるいは3軍へ降格させる。

 巨大戦力ゆえに、そのチャンスはどうしても少なくなる。

 皮肉にも、現役ドラフトで阪神へ移籍した大竹耕太郎、日本ハムへFAの人的補償で移籍した田中正義が、新天地で結果を出し、いまや、それぞれのチームの屋台骨を背負う存在になったのも、そうした「見極めの機会」の“長短”が左右している。

 大竹の場合も、2021年に開幕ローテをつかみながら、登板はわずか2試合で、その年は未勝利。140キロ台のストレートと変化球の制球で打ち取っていく軟投派タイプは、パワーヒッターの多いパ・リーグでは通用しづらい、という“固定観念”も影響したのだろう。与えられたチャンスを生かし切れないまま、大竹の存在が埋もれてしまっていたのは確かだ。

 それが、阪神移籍後は、岡田彰布監督から「先発で使える」とオープン戦からローテに組み込まれ、ソフトバンク時代よりも“長めのチャンス”をもらったことが、心理的にも功を奏したのは間違いない。前半戦だけで7勝、球宴にも選出された。

 田中にしても、ソフトバンクで指摘されていたのは「メンタルの弱さ」の方だった。結果だけでなく、自らに内容の高さを求める完璧主義者のような一面があり、その厳しさと細やかさが、数少ないチャンスの中で、自らへの重圧に変わっていた面は否めない。
  ところが、日本ハムのように、そもそも戦力が足りないチームにおいて、ストッパーという地位に“はめ込まれる”ことで、むしろ安心して、その力を出せるようになったのだろう。こちらも前半戦だけで2勝14セーブをマークし、オールスターに初出場した。

 2人のように、ソフトバンクでの“数少ないチャンス”をモノにし切れなかった選手は現状、野手に目立っている。

 今季6年目のリチャードは、昨季のウエスタン・リーグでリーグ新記録の29本塁打を放つなど、打点と合わせて2冠。しかし1軍では23試合で3本塁打、打率も1割5分9厘と、レギュラーの座を掴み切れず、今季も7月26日時点で1軍出場は7試合のみにとどまっているが、2軍ではリーグトップの13本塁打を放っている。

 また、今季の開幕スタメンに入った2年目の正木智也も、15試合・30打席で1安打しか打てず、2軍調整が続いている。

 結果がすべて、数字を出すことこそが、この世界で生き残っていくための術でもある。その激しい競争の中で、育成から甲斐拓也が、牧原大成が、周東佑京が這い上がり、柳田悠岐にしても、大学は広島経済大と、全国的には決して知られた存在ではなかった中から、日本を代表する打者へと成長を遂げている。
  一方で、その厳しい環境下で、少ないチャンスゆえに、力を“存分に”発揮し切れない若手が多いのも、ソフトバンクの現状である。それでも、チーム状況が落ち込んだ現状だからこそ、逆に我慢してみる手はないだろうか。

“未知の力”にかけてみるのも、一つの打開策である。むしろそうした若手の潜在能力を把握しているのが、藤本監督その人ではないだろうか。

 そんな中で、球団は勝つために「外国人」の補強に走った。

 開幕前の支配下登録は67人。その3枠は、育成からの“這い上がり”をかけた争奪戦の場でもある。しかし、打線のテコ入れのために、まず昨季戦力外となったアルフレド・デスパイネの出戻り獲得を決めた。

 育成ルーキーの右腕・木村光も支配下登録されたが、今回の昇格組は、現状ではこの木村だけ。支配下70人枠の70人目には、メジャー4年間で91試合に登板した159キロ左腕、ダルウィンソン・ヘルナンデスを獲得する方向で動き出した。
  もちろん、モイネロ不在のブルペンを強化するための補強は、やむを得ない状況でもあるだろう。

 ただ“最後の1枠”を、助っ人で埋めてしまった。

 育成と勝利。その両方を追求していくのは、勝利という結果が伴っていてこその“二兎の充実”でもある。大型連敗で、ソフトバンクの掲げる「大前提」の揺らぎが見え隠れしているのが、老婆心ながら、今後の反攻体制に影響しないか心配だ。

取材・文●喜瀬雅則

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