「恩返しや元気を与えられる存在になりたい」ソフトバンク育成の尾形崇斗、震災9年目に新たにした想い

「恩返しや元気を与えられる存在になりたい」ソフトバンク育成の尾形崇斗、震災9年目に新たにした想い

支配下登録を目指して奮闘する育成3年目の尾形。オープン戦4試合7イニングに登板し、未だ無失点投球を続けている。写真:滝川敏之

3月11日――。

「9年経っても、福岡にいても、この日になると寂しい気持ちになります」

 そう地元に想いを馳せたのは、支配下登録を目指して奮闘中の育成3年目・尾形崇斗(ソフトバンク)だ。

 宮城県富谷市出身の尾形は、東日本大震災当時小学5年生だった。地震発生時は下校中で、激しい揺れに襲われて立っていることが出来なかったという。停電は1週間続き、コンビニへの買い物は2時間待ち……辛い日々を過ごした。自身も家族も無事だったが、心に大きな傷を負った。

 それから野球が出来ることに感謝して、尾形はここまで夢を追いかけてきた。そして、迎えた9年越しの3.11。尾形はプロ野球1軍のオープン戦マウンドに上がった。これが自身にとって初めて経験する“3月11日のマウンド”だ。

 開幕までの支配下登録へと猛アピールを続けている右腕にとって、当然すべての試合が大事な一戦だ。しかし、この日をいつも通りの1日と捉えることは出来なかった。“特別な日”に登板することへの想いを噛み締めていたと言う。

「東北の人も見てくれていると思う。自分のすべてを出せるように投げたい」
  もともと尾形はとても気持ちの強い選手だ。ピンチの場面を迎えると、怖気づくどころかさらにギアを上げる。マウンド上で雄叫びを上げる姿はファンの間でもすっかりお馴染みになっているほどだ。

「今日はどの日より強い想いです。今までのMAXを更新するようなベストピッチングをします」

 3.11のオープン戦。先発・和田毅の後を受け、2番手で6回に登板した。巨人・先頭のウレーニャを1球でファウルフライに仕留めると、2016年のドラフト1位・吉川尚輝はセンターフライ。そして、熱望していた球界を代表する打者・坂本勇人との対戦を迎えた。

 尾形は、自身の本気のボールがどこまで通用するのかを図れる絶好の機会と捉えていた。そして、自ら掛けたそのプレッシャーをものともせず、坂本をショートゴロに打ち取り、見事3人できっちり抑えた。

 オープン戦4試合7イニングに登板し、未だ無失点投球を続けている。

 春季キャンプから1軍に帯同しているが、まだ立場は1軍公式戦には出場できない“育成選手”だ。それでも、「1軍で活躍するんだという強い想いで投げています」という尾形は常に支配下登録のその先を見据えている。
  登板を重ねるたびに、疲れるどころか身体の状態は上がってきているという。日々、昨日の自分を越えていくためにストイックに取り組み続けている。その姿勢には周囲も感心するばかりだ。

 闘争心溢れるマウンドさばきで、強気の投球ができるところが尾形の魅力だが、その姿とは打って変わって、マウンドを下りたら人懐っこく可愛らしい20歳。昨秋のフェニックスリーグでは「5イニングで12個三振とりました!」と笑顔で好調さを報告してきてくれた。自分の取り組みや成果をいつも丁寧に話してくれる。

 また、入団当初から昨季まで3軍投手コーチとして指導してくれた入来祐作さんをとても慕っていた。フェニックスリーグ中に入来さんの退団を知った尾形は悲しみが溢れ、泣きながら練習したという。ずっと支えてくれた入来さんに「1軍で投げる姿を見せて恩返しをしたい」という気持ちも原動力になっている。
  新型コロナウイルスの感染拡大が進み、プロ野球の開幕が延期となった。本来であれば、工藤公康監督が「彼にとって素晴らしい1年になるんじゃないか」とほのめかしているように、3月20日の開幕を前に吉報が届くのではないかと期待感が高まっていた。ところが、開幕がいつになるのかわからない状況となり、モヤモヤする日々が続いている。

「1年を通して、恩返しや元気を与えられる存在になりたい」

 自身の夢だけでなく、誰かのために投げるという想いを強くした2020年3月11日――。
 1日も早く2桁の背番号を勝ち取って、日本中に元気を与える魂込もった雄叫びを聞かせて欲しい。

取材・文●上杉あずさ(タレント)

【著者プロフィール】
ワタナベエンターテインメント所属。RKBラジオ「ホークス&スポーツ」パーソナリティやJ:COM九州「ガンガンホークス CHECK!GO!」リポーターとしてホークスを1軍から3軍まで取材。趣味はアマチュア野球観戦。草野球チーム「福岡ハードバンクポークス」の選手兼任監督を務める。
 

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