“千賀フォーム”導入を経たからこそ今がある。先発転向を目指す若鯉・遠藤淳志の現在地

“千賀フォーム”導入を経たからこそ今がある。先発転向を目指す若鯉・遠藤淳志の現在地

一軍デビューを果たした昨年はリリーフとして活躍した遠藤。今季は先発ローテーション入りを狙っている。(写真)滝川敏之

今年1月、福岡ではなく、広島のメディアに“千賀”の見出しが躍った。正しくは“千賀フォーム”。高卒3年目の遠藤淳志が取り組んだ新フォームが「千賀滉大(ソフトバンク)にそっくり」とチームメイトが口にしたことが大きく取り上げられたのだ。その後の自主トレ期間、キャンプインと、期待の大きい右腕には常に千賀フォーム≠ェつきまとった。

 遠藤は当時を振り返り、苦笑いする。

「千賀さんに申し訳ないなと正直思いました。僕がそこでしっかり結果を出せなかったので、それは僕の力不足」。

 2017年に霞ケ浦高からドラフト5位で広島に入団した。2年目の昨年6月に一軍初昇格を果たすと、8月21日ヤクルト戦でプロ初勝利をマーク。3日後の24日中日戦では球団最年少セーブ記録を更新するプロ初セーブを挙げた。シーズン終盤には勝ちパターンの一角として起用され、今村猛や一岡竜司など実績者を上回る34試合に登板した。
  シーズンを駆け抜け、飛躍のきっかけをつかんだものの、何かが足りなかった。先に一軍昇格を果たした同期の山口翔は先発でプロ初勝利。目指すべき舞台は、そこだった。「来年は先発で投げたい」。こだわりの強い先発で1軍のマウンドに立つ、そして守り続ける。その思いを強くした。胸に秘めるのではなく、メディアも力強く宣言。覚悟を決めた。

 新体制となった秋季キャンプでは、初めてスタートから1軍キャンプに参加した。シーズンで得た収穫と課題をぶつけた投球で、新首脳陣の評価を一気に上げた。すでに遠藤の名は新シーズンの先発ローテーション候補の1人に挙げられる存在となっていた。

 だが、オフの自主トレから広島に戻った1月中旬、遠藤のフォームは大きく変わっていた。それが“千賀フォーム”だ。

 シーズン終了直後に取り組んだものではない。広島に戻る数日前、キャンプインの約2週間前に変えたものだった。 知人を介して1月14日から3日間、千賀や菅野智之(巨人)、ソフトボール女子のエース上野由岐子らが師事する鴻江寿治トレーナーの下、福岡県八女市での合同自主トレに参加した。これまで知らなかった体の使い方を学び、その新鮮さが景色を変えた。トレーニング中だけでなく、プロ野球界の先輩たちと技術論を交わした食事の時間も貴重な時間だった。

 遠藤は、大胆にもそこでフォーム変更を決めた。信じ込むことができるのも若さゆえだろう。

 スポーツの世界で若さはひとつの武器となる。恐れを知らない勢いで好結果を手にすることもある。だが、ときにもろく、周りが見えなくなることもある。年齢や経験を重ねることで角が取れ、視野が広がり、より完成されたアスリートとなる。

 遠藤はまだ20歳。信じ込む選択肢しかなかない若手に、厳しいプロの世界が現実を突きつける。
  キャンプ初日からフォームはばらつき、球も走らない。首脳陣は首をひねり、指導も受けた。それでも周囲が「千賀フォーム」と注目することに、佐々岡真司監督は「千賀くんに失礼」と日本を代表する右腕に詫びるほどだった。

 遠藤自身も投球に手応えはなかったものの、取り組んだばかりの新フォームをすぐに諦めることもできなかった。「まだ始めたばかりだから。そんなすぐにうまくいくものでもない」。キャンプ序盤は自分に言い聞かせるように、そう口にしていた。だが、心の中は違った。「反面、焦りもありました。力が出ていなかったですから」。焦りが悪循環を生み、小細工しようとすることでより体の力を使い切れないフォームになっていた。

 キャンプ中盤の紅白戦で2回4安打4失点という結果を受け、フォーム変更を決断した。自分の決断に固執するのではなく、目標に掲げた「先発ローテ入り」を果たすための決断。「佐々岡さんからも言われましたが、正直力を出せていなかった。(松田元)オーナーからも『昨年良かったし、そこまで考える必要はないんじゃないか』と言われて納得した」。もしかしたら継続するよりも、断念する決断の方が難しかったかもしれない。
  結果を残せていないながらも、新体制初陣の2月14日。ロッテとの練習試合で“開幕投手”を任せられた。指揮官の「千賀くんに失礼」という厳しい言葉は期待の裏返しでもあった。

 ロッテ戦では昨季までの2段モーションのフォームで3回2失点。左右の打者への内角球には角度があり、自責はゼロだった。19日の日本ハムとの練習試合では3回2安打無失点と結果と内容を示し、「良くはなっている。ちょっとずつ角度が出ている」と指揮官の評価を上げて開幕ローテ争いに踏みとどまった。

 フォーム変更は大きなきっかけになったものの、昨年のものに戻ったのではなく、あくまでも新しい自分になっていることを実感している。「(千賀フォームと言われたフォームを)ゼロにはしていません。戻しても、新しいこと、教えてもらったこと、細かいところを取り入れながらやりたいと思いました」。“千賀フォーム”を経たからこそ、今がある。
  若いからゆえ無駄はある。回り道だってする。だが、失敗を許されるのも若手の特権でもある。日々悩み、学び、感じることが成長を後押しする。新型コロナウイルス感染拡大の影響で開幕が遅れる今も、オフに書き留めたノートを何度も見返し、ブルペンでも試行錯誤する。それでいい。

「一軍のローテに入って、ずっとここにいたい。どう力を出せるか考えながらやった結果、新しいことにチャレンジしたかった。挑戦しながら吸収して自分のものにできるようにしたい。(大瀬良)大地さんのようなエースと言われる選手になれればいいかなと思います」。

 広島で開幕ローテーションを奪い取ることは、キャンプでの挫折が無駄でなかったことを証明するためでもある。近い目標を見据えつつ、大きな目標を抱いて20歳の遠藤は先行き不透明なシーズンを突き進む。その先に何があるかではなく、その先に自分が何をつかめるか―。そう考えながら、ただがむしゃらに前へ進んでいく。

文●前原淳

【著者プロフィール】
1980年7月20日・福岡県生まれ。現在は外部ライターとして日刊スポーツ・広島担当。0大学卒業後、編集プロダクションで4年間の下積みを経て、2007年に広島の出版社に入社。14年12月にフリー転身。華やかなプロ野球界の中にある、ひとりの人間としての心の動きを捉えるために日々奮闘中。取材すればするほど、深みを感じるアスリートの心技体――。その先にある答えを追い続ける。『Number』などにも寄稿。

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