なぜレッドソックスへの処分はアストロズより軽かったのか。コミッショナーは球界浄化への強い意志を示すべきだった?

なぜレッドソックスへの処分はアストロズより軽かったのか。コミッショナーは球界浄化への強い意志を示すべきだった?

マンフレッドは球界のトップに立つコミッショナーとして、強い姿勢を押し出すべきだった。(C)Getty Images

4月22日、MLBコミッショナーのロブ・マンフレッドはボストン・レッドソックスがワールドシリーズ制覇を果たした2018年にサイン盗みを行っていたと断定し、ペナルティを科した。だが、この処分が軽すぎるとファンやメディアから批判の声が出ている。

 2017〜18年にかけて同じようにサイン盗みをしていたヒューストン・アストロズとレッドソックスへの処分を比べると以下のようになる。

アストロズ
・罰金500万ドル
・ジェフ・ルーノーGMに1年の職務停止
・AJ・ヒンチ監督に1年の職務停止
・2020〜21年のドラフト1・2巡目指名権剥奪

レッドソックス
・アレックス・コーラ監督に1年の職務停止
・映像分析担当の球団職員JT・ワトキンスに1年の職務停止
・2020年ドラフト2巡目指名権剥奪
  こうして見ると、確かにレッドソックスへの処分は軽い。感覚的には「半分以下」といったところだろうか。だが、(少なくともこれまで明らかになった事実を元にする限り)両チームの処分に違いがあるのは当然とも言える。2つの観点から考えてみたい。

●サイン盗みの頻度・度合い
 MLB機構の調査によると、レッドソックスはワトキンスが相手チームのサインを解析し、一部の選手に伝達。その選手が二塁に出た時にジェスチャーなどで打者に伝えていた。

 だが、当然のことながら、このやり方は走者が二塁に進まない限り機能しない。MLB機構のレポートで指摘されているように、18年のレッドソックスで走者二塁のシチュエーションは全打席の19.7%に過ぎなかった。さらに、ワトキンスがサインを伝達していた選手も一部に限られていたため、サイン盗みが起き得る場面はさらに少なかったと考えられる。
  一方、アストロズはセンターに設置したビデオカメラでサインを盗み、それを打席に立つ打者にダグアウトからごみ缶を叩いてリアルタイムで伝達。回数も比較にならないほど多く、あるファンがアストロズの17年のホームゲームのうち58試合の映像を独自に分析したところ、1143回もごみ缶を叩く音が聞こえたという。

 また、アストロズが17年のポストシーズンでもサイン盗みを行っていたのに対し、レッドソックスは18年のポストシーズンまでにはやめていたとされる。この点も、処分の違いに影響していると思われる。

●組織的な関与の有無
 アストロズは監督やコーチ陣、さらにはGMもサイン盗み行為を把握していながら事実上“黙認”していた。それだけでなく、フロント職員が「コードブレイカー」なるサイン解析システムを開発していたことも明らかになっている。
  しかしレッドソックスの場合、(繰り返しになるが、少なくともMLB機構の調査では)球団ぐるみでの不正行為の証拠は見つからなかった。コーラ監督は17年にアストロズのベンチコーチとしてサイン盗みに関与していたとされ、今回の件でも“重要参考人”だったはずだが、レポートは「違反行為はワトキンスと一部の選手の間での一時的なものに限定されていた」と関与を否定してる。

 データ分析サイト『ベースボール・プロスペクタス』のロバート・アーサーは「事実の積み重ねを見れば、マンフレッドがアストロズにはるかに厳しい処分を下した理由は明らかだ。彼らの手法はコーチングスタッフやフロントオフィスの力を借りながら(レッドソックスと比べて)より頻繁に実行され、明白な優位性をもたらす可能性があった」と指摘している。
  一般社会における犯罪行為も、頻度や悪質さの度合いによって量刑が変わる。今回の件だけを考えるなら、MLBがレッドソックスにアストロズと同等の処分を下さなかったこと自体は間違いとまでは言えないだろう。

 ただ、レッドソックスは17年にもアップルウォッチを使ったサイン盗みで罰則を受けている。上の例に倣えば、言わば「再犯」となるわけで、その意味でより厳しいペナルティを課すべきだったとの意見も理解できる。
  ここで思い出されるのが、MLB史上最大のスキャンダル“ブラックソックス事件”だ。1918年のワールドシリーズで八百長を働いたとされるシカゴ・ホワイトソックスの8人の選手を、ときのコミッショナーは永久追放処分とした。大陪審では8人全員が無罪だったにもかかわらずだ。それは、八百長やそれに類する行為が陰に陽に行われていた当時の球界を浄化する強い意志をアピールするためでもあった。

 今回、エスカレートする一方の勝利至上主義に本気で歯止めをかけようという覚悟がマンフレッドにもあったなら、同じようにレッドソックスにも厳罰を下すべきだったのかもしれない。

文●久保田市郎(スラッガー編集長)

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