なぜ韓国野球は明日開幕できるのか? 新型コロナへの徹底した“戦い”がもたらした勝利

なぜ韓国野球は明日開幕できるのか? 新型コロナへの徹底した“戦い”がもたらした勝利

明日開幕の韓国野球。徹底した防護策が背景にあった。(C)Getty Images

5月5日、韓国のプロ野球、KBOリーグが開幕戦を迎える。新型コロナウイルスの感染拡大により、当初予定していた3月28日から38日遅れた、無観客でのスタートだ。

 世界のプロ野球リーグの中では、すでに台湾のCPBLが4月12日に開幕している。一方、日本は未だ開幕日の決定に至っていない。世界的に深刻な状況が続く中、韓国はどのようにしてシーズン開幕にこぎつけたのか。

 春季キャンプの頃を振り返ると、新型コロナに対する危機感には、台湾と日本は2ヵ月、韓国と日本では1ヵ月の差があったように思う。

 2月12日、筆者は韓国・キウムヒーローズのキャンプ取材のため、台湾南部の高雄を訪れた。ホテルにチェックインしようとすると、入口の前にはテーブルが設置され、マスクをした職員が筆者のおでこに体温計を向けた。数秒後、体温に異常がないことが分かると、手に消毒液を噴射するよう促し、建物に入ることが許された。その流れは滞在中、入館するごとに繰り返された。

 筆者は当時、このやり取りを「大げさだな」と感じていたが、ご存知の通り、台湾はその後、新型コロナの封じ込めに成功。日本ではその2ヵ月後の4月に緊急事態宣言が発令され、現在では駅や公共施設で訪問者の検温が実施されているところもある。
  一方、韓国は2月19日に大邱市で集団感染が発覚。その頃の韓国では、国内よりも海外の方が安全という認識があり、日本、アメリカ、オーストラリアで行われていた各球団キャンプはそれぞれ延期を検討。実際に滞在期間を延ばした球団もあった。

 日本にキャンプ取材に訪れていた韓国の記者たちは、2月下旬の時点ですでに「会社全体で在宅勤務になった」と話していた。その時に筆者は「日本はそこまでにはならないのでは?」と思っていたが、3月以降、日本でも多くの企業がテレワークを導入する事態となっていった。

 では球界の動きはどうか。日本と韓国を比較すると、その「スピード感」に差はない。日本は3月9日、韓国は10日にシーズン開幕の延期を決定。日本は同月2日の時点で、Jリーグとともに新型コロナウイルス対策連絡会議を立ち上げた。韓国は17日に専門家を交えたプロジェクトチームを構成し、コロナ対応のマニュアル配布を始めたのは20日だった。

 SKワイバーンズのクォン・ジェウ一軍マネージャーは、リーグが打ち出したコロナ対応マニュアルを受けた後の、チームの感染予防対策についてこう話す。

「選手が球場入りする時にマスクを着用し、検温するのは当たり前ですが、球場に出入りする外部業者、例えば食事を用意する業者の職員も全員PCR検査を受けています。陰性判定を受けた人しか、業務に関わることを認めていません」
  韓国では2月下旬からドライブスルー型の検査場が設けられるなど、PCR検査が身近な存在になっている。症状があり、疑わしいから検査を受けるのではなく、上記のように陰性のお墨付きを得るために検査を受けるケースもあるようだ。

 韓国野球委員会(KBO)が4月16日に公開したコロナ対応マニュアルの第2弾では、この1ヵ間の球界関係者に関わるPCR検査事例が16ケース掲載されている。結果はいずれも陰性だった。

 その中には、外部業者の職員(直近での球場への出入りはなし)に感染の疑いがあったということで、同業者と関わりのあった2球団の関係者たちが検査を受けたと記されている。検査結果が出るまで選手の練習は中止、球団職員は一時的に自宅待機となった。

 それらの徹底的な対応を経て、韓国は明日5日に開幕を迎えるが、当面は観客なしでの試合運営となる。シーズンが始まるからといって、コロナ対策が弱まるわけではないとクォン氏は言う。

「選手がコロナに感染した時点でリーグが中断するので、選手と外部との接触を遮断することに気を遣っています。取材するメディアの人数も制限して、1日ごとに申請した人しか球場に入れません」
  SKワイバーンズでは無観客試合の間、本拠地ゲームで記者席に入れる1試合当たりの人数を18人に限定した。また、クォン氏は今後の懸念材料として遠征先での感染予防を挙げた。

「すでに宿泊先ホテルのサウナの利用は禁止になりました。その他に選手用に専用のエレベーターが使えないかホテルと交渉中です。ビジターの球場ではバスを降りてから選手ロッカーに入るまでの動線を、極力短くするようにしています。

 ビジターチームのロッカーが狭い球場の場合、これまではバスの中で休んだり、荷物を置く選手もいましたが、今は一度球場に入ったら、試合が終わるまで外部に出ないようにしています」

 国内の間口の広い検査体制と、リーグと球団による徹底した管理で公式戦開幕にこぎつけた韓国。試合数は例年通り144試合を行う予定だ。プロ野球開幕を前に世間の反応はどうか。クォン氏は自身の母親からこんな言葉をかけられたという。

「これまでならこの時期に見られるのが当たり前だと思っていたプロ野球がないことで、野球が知らず知らずのうちに多くの人の生きがいになっていると感じたよ」

 それを聞いたクォン氏は「球団に関わるものとして、早く開幕してたくさんの人に喜びや活力を与えたいと思いました」と語った。

 新型コロナとの戦いは誰もが未経験で、日本よりも先にシーズンをスタートさせる韓国も今後、何が起こるかは分からない。ただ、ここまで韓国はリーグ全体が一丸となって、開幕の日を迎えられるまでになったのだ。

取材・文●室井昌也(韓国プロ野球の伝え手)

【著者プロフィール】
むろい・まさや/1972年、東京生まれ。韓国プロ野球の伝え手として、2004年から著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』を毎年発行。韓国では2006年からスポーツ朝鮮のコラムニストとして韓国語でコラムを担当し、その他、取材成果や韓国球界とのつながりは、日本のメディアや球団などでも反映されている。

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