コロナ後を見据える不屈の37歳。藤田一也の現状と礎を作った横浜時代の“特訓”

コロナ後を見据える不屈の37歳。藤田一也の現状と礎を作った横浜時代の“特訓”

藤田は「もう一度優勝したい!」という願いを胸に、開幕の時を待っている。写真:萩原孝弘

「試合数が減ることは、僕にとってチャンスだと思っています」

  新型コロナウイルスの影響で球界が揺れる最中、東北楽天ゴールデンイーグルスの藤田一也は静かに闘志を燃やす。「シーズンが短縮されると、短期決戦的な戦いになる。1試合1試合大事な、ひとつも負けられない戦いとなれば、僕の持ち味を活かすチャンスになる」と、したたかに考察する。

 楽天の内野陣は、浅村栄斗、茂木栄五郎、FA加入の鈴木大地、ドラフト1位ルーキー・小深田大翔がおり、他にも有力なプレーヤーが多く揃う激戦区。現状を把握した上で「僕も毎日試合に出たいですし、レギュラーになりたい気持ちはありながら、チーム状況的には難しいですね。引っ張っていく年齢でもありませんし」と、藤田は冷静に分析する。

「チームの力になるために、しっかりと任されたところで結果を残す。そして自分の出番を増やしていくことでモチベーションも上げていきたいです」と目標を定め、ベストナイン2回、ゴールデングラブ賞3回を受賞したベテランらしく「試合の流れを変えるプレーでチームに貢献したいですね。守備面でも打撃面でも」と、優勢でも劣勢でも目に見えないゲームの中の“流れ”を掴むことに狙いを定める。
 「まだ、出来る」との自信はある。同時に「38歳の年になるまでプロ野球選手でいられるとは思わなかった」と感じる瞬間もある。

 2004年、相思相愛だった横浜ベイスターズ(当時)に入団し、2012年シーズン途中に楽天に移籍した。この年齢になっても活躍を続けられるのは、横浜時代のあるプレーヤーとの出会いがポイントになっていると振り返る。

 キーマンは2010年オフに、オリックスからトレードでDeNAにやってきた。嶋村一輝(現DeNA二軍打撃コーチ)だ。

「2011年シーズンに、ティーバッティングの前に“守備練習やろう”って誘って頂いたんです。ノッカーは米村コーチと馬場コーチが務めてくれました」

 藤田がそう振り返るように、オリックスで縁のある3人とともに、「ホームゲームの時は、5時間半前から練習開始しました。なのでデーゲームで13時開始の時は朝の7時半からです。30分くらいノックを受けた後、ティーバッティングなどをこなしました」。29歳の藤田は1年間通して汗を流し続けた。
  守備力には元々定評があった藤田にとって「自分の中ではバッティングが課題だと思って練習してました。今まで早出でバッティング練習をすることはあったけど守備練習をするって発想がなかったんです。一輝さんに誘われなかったら絶対、早出守備練習なんてしてなかったと思いますね」と、自分にはなかった発想でストロングポイントに、さらにに磨きをかけた。

 2009年にレギュラーに近づいたが、ホセ・カスティーヨ(故人)や、渡辺直人(現・楽天)らのライバルが次々と加入し、レギュラーを掴み切れずにいると、翌年2012年シーズン中の6月24日に楽天とのトレードが成立。入団時に「横浜以外なら社会人」とまで決意し「横浜ベイスターズで優勝したい」と、常に思い描いていた男にとって残酷な知らせが、遠征先の大阪で知らされた。本人にも、チームメイトにとっても、まさに青天の霹靂だった。
  楽天に移籍したその年の途中からは、横浜ではなかなか成しえなかったセカンドのレギュラーの座を奪取。それには「あの早出特守があったからこそ自信を持って守備につけた。その結果試合に出るチャンスをたくさん頂けて、優勝、日本一を経験できた。もし一輝さんが声をかけてくれてなければ、今の自分はないと思う。楽天に来てもなかなか試合にも出れなかったかもしれない。誘っていただいて1年間ホームゲームで早出特守、早出バッティングを続けられたことで今の自分がいる」と、偶然トレードでやってきた嶋村との出会いと、声をかけてくれたことに今でも感謝する。

 すっかり“杜の牛若丸”として仙台で愛される存在となった藤田。昨年のシーズンオフも、毎年恒例となっている京都で球場を貸し切り、トレーニングに励んだ。「自主トレはあくまでも自分の為にする練習なんで、色々なところにお金をかけることで自らにプレッシャーをかけて、甘えや妥協を許さないように自分を追い込んでいます。そうしないと僕は甘えるし、すぐにサボっちゃう」と、冗談めかしてその意義を説く。

 今回の自主トレには、独立リーグの若手数名も参加。聞かれたことには丁寧に答えたという。この姿勢は数多く在籍するチームメイトにも同じスタンスを貫く。「ライバルの若い選手からでも、質問されたら答えますよ。野球には“絶対こうじゃなきゃダメ”というものはないので“僕の場合はこうだよ”と、伝えるようにしています。人それぞれ身体の大きさ、手、足の長さ、柔軟性など同じ選手なんていないので、それぞれ自分に合ったものを早く知ってもらいたい。少しでもその選手のためになってくれたらいいなと思ってやっています」と、自らの経験を惜しみなく伝授する。

 それには「若い選手はこれからのイーグルスを背負う存在。みんなで切磋琢磨して、どんどんチームを強くしてほしい」との願いがある。そして「もう一度優勝したい!」という強い気持ちがある。
  NPBはすでにオールスターや交流戦は中止を決定し、アフターコロナも不透明な状況が続く。一応の開幕は設定されたが「無観客となると、難しさはありますね。お客さんがいて、ファンがいてモチベーションも上がりアドレナリンも出る。今までとは違うので想像つかないです」と、藤田も不安を口にする。
  しかし全体練習が再開した今「ユニフォームを着ると気持ちが引き締まります。1ヶ月以上会っていない選手たちに会うと、気持ちも上がってくる。早くプレーしたいですね!」と、野球選手の本能が呼び起こされる。「身体と相談しながら、しっかりとコンディションを上げていきたい。オフよりも身体は動くので、怪我もしないように」と、万全を期して来たるべく日を待つ。

 常に勝利を目指す、メチャメチャイケてる牛若丸の16年目。オフには再び勝利の美酒を浴びる日を夢見て、迷わず進む。

取材・文・写真●萩原孝弘
 

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