ロブ・マンフレッドは“MLB史上最悪のコミッショナー”なのか?

ロブ・マンフレッドは“MLB史上最悪のコミッショナー”なのか?

開幕をめぐる労使対立を調停できなかったマンフレッド。その責任はあまりにも重い。(C)Getty Images

リーダーたる者に必要な条件とは何だろう。いくつかの要素があるだろうが、最低限求められる条件は2つだ。1つはその組織や団体に対する愛情ないしは忠誠心で、これがなければメンバーは誰もついてこない。もう1つは公平性。特定の集団の利益だけを考えているようでは組織の長はつとまらない。

 そう考えれば、ロブ・マンフレッドがMLBのトップたるコミッショナー職にあるのは最悪と言わざるを得ない。

 2015年1月、マンフレッドが第10代コミッショナーに就任した当時の評判は「実直な実務家」だった。もともと弁護士で、1994〜95年の長期ストライキの際にオーナー側のカウンセラーを務めた実績があり、98年からは15年にわたりMLB事務局で働いた。労使交渉のプロとして評判を高め、13年に最高執行責任者に昇進。56歳で現職に就いた際、一部のオーナーからは「選手会寄り」として反対され、マンフレッド自身「選手会との良好な関係が私の長所」と自負していたのは、今思えば信じ難い。
  ただ、当初からマンフレッドの言動には怪しい点もあった。ギャンブルの解禁に前向きだったり、レギュラーシーズン短縮案も打ち出したりしていて「どうやらこの人はあまり野球が好きではないらしい」との声は当時から出ていた。

 この5年間、マンフレッドが最も熱心に推進してきたのはいわゆる「時短」だ。野球は試合時間が長い上、アクションも少ない点が若年層に物足りないと思われている――という危機意識から、彼はとにかく試合時間を少しでも縮めることに注力してきた。その結果、申告敬遠制が始まり、ワンポイントリリーフも廃止されることになった。しかし、これらが実現したところで短縮できる時間は微々たるもの。3時間10分の試合時間が3時間になったとして「よし、野球を見てみよう」と考える若者が急増するわけがない。ほとんど意味のない施策に血眼になっていたのだ。

 その後もマンフレッドは「捕手が後逸すればいつでも振り逃げ出塁可能」という珍ルールを考えついて周囲を唖然とさせたかと思えば、現在は草の根レベルでの野球文化の破壊につながりかねないマイナー球団の大幅削減を進めている。ヒューストン・アストロズによる一連のサイン盗み問題では、ワールドシリーズの優勝トロフィーを「金属の塊」と形容し、選手たちの神経を逆撫でした。『ボストン・グローブ』紙のチャド・フィンは「彼にとって野球は重要なものなのだと、我々が思える行為が一つでもあっただろうか? ヤンキースファンとして育ったらしいが、その理由は彼らが一番の金持ちチームだったからではないか」と痛烈な皮肉をかましている。

 悪評を決定的としたのは、新型コロナウイルス感染拡大蔓延で延期となったシーズン開幕へ向け、オーナーと選手側が交渉を重ねていた過程で、終始オーナー側に立って行動したことだった。オーナーたちによって選任されている以上、彼らの支持がなければ地位を保てないのは事実だ。だが本来、コミッショナーはあくまで中立の立場からMLB、ひいては球界全体のために最適な判断を下さなければならない。
  そう考えた場合、彼がすべきだったのはまず開幕に向けて全力を尽くし、可能な限り早く、そして1試合でも多く開催することだったはずだ。他のスポーツに先んじて開幕を迎えられれば、普段はMLBをあまり見ない国民にアピールすることもできた。

 ところが、マンフレッドは実際にはオーナー側の意見に与し、無観客では試合するだけ損になるとの理由で、できるだけ試合数を少なく抑えようとしていた。交渉が難航する中、具体的な提案も力強いメッセージも発することなく、ただただ傍観するのみ。結局、実権を振るったのは、ほぼオーナー側の意思に沿う60試合での開幕強行を決定した時だけだった。

 そこには野球への情熱は一切感じられず、ひたすらビジネス的な打算があるのみだった。というより、ビジネス的にも最悪の判断だった。交渉が長引いてMLBのイメージが悪化すれば、その分、将来の人気低下や収益減少につながるのだから。前出のフィンは「野球の伝統を軽んじ、事態を悪化させるばかりの“解決策らしきもの”を連発。野球がアメリカという国にとってどんな存在なのかということにまるで思いが至らないようだ」と痛烈に批判している。マンフレッドがトップに立っている限り、21年限りで切れる労使協定の改定交渉もスムースに進むとは考えにくい。

 過去9人のコミッショナーのうち、初代のケネソー・マウンテン・ランディスをはじめ5人が野球殿堂入りしている。マンフレッドは、その殿堂の所在地ニューヨーク州クーパーズタウンからほど近い町の生まれだが、このまま行けば「殿堂に一番近くて最も遠いコミッショナー」として記憶されそうだ。

文●出野哲也

【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『プロ野球 埋もれたMVPを発掘する本』『メジャー・リーグ球団史』(いずれも言視舎)。

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