王貞治会長も認めた才能!ソフトバンクの栗原陵矢がプロ6年目で開花した理由

王貞治会長も認めた才能!ソフトバンクの栗原陵矢がプロ6年目で開花した理由

開幕戦のサヨナラヒットを皮切りに、栗原はチームトップの打率.317ととにかく打ちまくっている。写真:田口有史

宮崎の突き抜けるような青い空と、白いボールのコントラストは、ついつい、見とれてしまうほどに美しかった。乾いた打球音を残した打球が、100メートル先にある右翼フェンスを楽々と超えていく。レジェンドが、何度となくうなずいていた。

「よくなってきたね、栗原は。打球がよく飛ぶようになってきたからね」

 2019年11月15日。ソフトバンクの王貞治球団会長が、宮崎の秋季キャンプ視察に訪れた。朝、羽田から飛行機に乗り込み、どこにも立ち寄ることなく一直線に、キャンプ地の生目の杜へとやって来た。「こんな時にしか、若い選手をじっくりと見られないもんだからね」。スーツの上着を脱ぎ、背中に「OH」と白のロゴが縫い込まれたグランドジャンパーを羽織ると、早速、育成選手たちが打撃練習をしている第2球場へ足を向けようとしていた。

 その王会長の足が、ふと止まった。メイングラウンドのアイビースタジアムで、特打を行っていた背番号31の打球音に引き寄せられるかのように“方向転換”したのだ。視線の先に見える打撃ケージで、鋭いスイングを見せていたのは栗原陵矢だった。
  打球の角度と勢い、ぶれない体の軸、素早い体の回転。そして、柔らかいバットスウィング。王会長が思わず足を止めさせたその若き左打者の潜在能力が、2020年シーズン開幕とともに開花の時を迎えた。まさしくレジェンドが“予言”した通りの大活躍ぶりで、今やソフトバンク打線に不可欠な存在となりつつあるのだ。

 栗原の出身校である福井・春江工高は1963年創立の県立高だが、14年に坂井高と統合されたため、16年3月限りで閉校となった。全国的には無名の公立高を、栗原は4番・捕手として、13年のセンバツで野球部創部以来初の甲子園出場へ導いた。結果は1回戦敗退に終わったが、その時の活躍が評価されて14年のU-18ワールドカップ日本代表に選出され、キャプテンも務めている。

 14年にドラフト2位で指名された当時、ソフトバンクのスカウト室長だった小川一夫現二軍監督は「もともと、攻守のバランスが良かった。バッティングもいいし、インサイドワークもそう。全日本の主将だから、リーダーの資質もあったよね」と、指名に至った理由を明かしてくれた。
  プロ入り後はファームで試合経験を積み、3年目のキャンプでは主力中心のA組に抜擢された。開幕一軍こそ逃したが、ファームのレギュラーに定着して70試合に出場。18年のキャンプも2年連続A組スタートだったが、練習中に左肩関節前方脱臼の重傷を負い、一軍昇格は8月までずれこんだ。その間に4歳上の甲斐拓也がチームの正捕手の座を確保した。

 甲斐のみならず、ソフトバンクの捕手陣には経験豊富なベテランの高谷裕亮や、強肩の大型捕手・九鬼隆平がいて、激しい争いを展開している。もちろん栗原の捕手としての総合力は、彼らに決して見劣りするものではない。打撃は捕手陣でも随一で、50メートル6秒ジャストという捕手にしては珍しい俊足ぶりも売り物の一つ。この持てる能力を生かさない手はない。昨季から、捕手以外に一塁、外野と複数ポジションを守るようになった理由について、「複数できた方が可能性が広がる。上(一軍)からの要請もあったしね」と小川二軍監督は証言する。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、開幕がおよそ3か月遅れとなった今季。6月に入って行われた練習試合で、栗原は36打数12安打の打率.333、1本塁打6打点と結果を出した。一方、37歳の正一塁手、内川聖一は21打数1安打の大不振。栗原は彼から一塁のレギュラーを奪い取る形になった。
 「一日一つ、何かアピールできるように、と思っています。少しずつ手応えというか、何とか食らいついていけるかな、という感じはあります」

 そして迎えた6月19日のロッテとの開幕戦では、プロ6年目にして2番・一塁で初の開幕スタメン出場を果たした。8回の左前打で今季初安打をマークし、さらに同点で迎えた延長10回裏2死三塁の場面で、小野郁からサヨナラヒット。存在感を存分にアピールし、その勢いはとどまるところを知らないかのようだ。

 開幕以来、7月5日までの15試合中、実に12試合でヒットを記録。6月21日のロッテ戦では1番に入って2安打。6月24日からの11試合のうちマルチ安打は4度。打率.317はチームトップで、13打点もバレンティンと並んでチーム最多タイだ。工藤公康監督は「打撃が好調なので、捕手というよりは一塁と外野を頑張ってもらおうと」と栗原のレギュラー定着を“承認”した。4年連続日本一を目指す充実の戦力の中で、台頭してきた24歳のスター候補。激しい競争を勝ち抜いてきたたくましさももちろんだが、そうした若き力が生まれる“新陳代謝”が起こる土壌も、ソフトバンクの「強さ」の一端なのだろう。

取材・文●喜瀬雅則(スポーツライター)

【著者プロフィール】
きせ・まさのり/1967年生まれ。産経新聞夕刊連載「独立リーグの現状 その明暗を探る」で 2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。第21回、22回小学館ノンフィクション大賞で2年連続最終選考作品に選出。2017年に産経新聞社退社。以後はスポーツライターとして西日本新聞をメインに取材活動を行っている。著書に「牛を飼う球団」(小学館)「不登校からメジャーへ」(光文社新書)「ホークス3軍はなぜ成功したのか?」 (光文社新書) 

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