「65歳になっても、サヨナラ勝ちは嬉しいもんよ」百戦錬磨の馬淵監督率いる明徳義塾が見せつけた“試合巧者“ぶり

「65歳になっても、サヨナラ勝ちは嬉しいもんよ」百戦錬磨の馬淵監督率いる明徳義塾が見せつけた“試合巧者“ぶり

8回、9回に2点ずつ奪って逆転サヨナラ勝ちで鳥取城北を下した明徳義塾。試合巧者ぶりはさすがだった。写真:徳原隆元

しみじみと語る老将の言葉に勝利の実感がこもる。

「65歳になっても、サヨナラ勝ちは嬉しいもんよ」

 U−18日本代表の監督も兼務する馬淵史郎監督率いる明徳義塾が競り勝った。

 サヨナラ勝ちという劇的勝利を喜んだ百戦錬磨の指揮官だが、結果もさることながら、その戦いぶりは高校野球で勝つお手本のようだった。

 試合はチャレンジ精神を全面に押し出す鳥取城北の先制で幕を開けた。

 1回表、鳥取城北は先頭の畑中未来翔が左翼前安打で出塁すると、1死2塁からの2連打で1点を先制する。その裏のピンチを無失点で乗り切る好スタートだった。

 しかし、さすがの明徳義塾は試合運びの巧さを見せる。

 まず2回裏、2四死球と犠打で好機を作り、9番・新地智也がセンターへ犠牲フライを放ち同点。さらに、5回裏には、先頭の奥野翔琉が四球で出塁し、次打者の2球目に盗塁成功。犠打で送って1死三塁とすると、3番・鈴木大照の左翼への犠飛で勝ち越したのである。
  ノーヒットで2得点。特筆すべきは、相手投手の制球難につけ込んで、走者を進めてヒットなしで得点を挙げる効率の良い攻めだったことだ。明徳義塾は6回で降板した鳥取城北の先発・松村亮汰からはヒットを放っていない。

 もっとも、鳥取城北はここで終わったわけではない。8回表には4点を奪って一時試合をひっくり返す猛攻を見せた。

 先頭の阪上陸が内野安打で出塁すると、安打と死球で1死満塁として3番の河西威飛が右中間を破る2点適時打で逆転に成功。さらに2連続適時打で2点を加えて5対2とした。果敢に攻めての逆転劇。このまま鳥取城北が試合を制してもおかしくはない流れだった。

 しかし、明徳義塾の牙城は崩れなかった。直後の8回裏に相手のミスなどに乗じて2得点。1点差と迫り、試合を混沌とさせる。

 8回裏の明徳義塾の攻撃に、誰より唇を噛んだのは、この日、3人の投手をリードした鳥取城北の捕手・安保龍人だった。

「8回裏は先頭が大事と思って入ったんですけど、そこで出してしまった。そこから一死一、二塁からのレフトフライで、まさかタッチアップしてくるとは思っていなくて、そこで隙を与えてしまった」
  先頭が死球と言っても、3ボール1ストライクからだったから、ほとんど四球のようなものだ。続く4番の新沢颯真にレフト前安打を打たれて一、二塁のピンチ。1アウト後、6番の玉城琉を左翼フライに打ち取ったのだが、明徳義塾の二塁走者が三塁を狙うと鳥取城北の守備が乱れて1点を献上。さらに、次打者に中前適時打を許し、得点差はたちまち1点になった

 9回表、鳥取城北の攻撃が1死一塁からの併殺打で潰えてしまうと、9回裏は明徳義塾のムードだった。2死一、二塁から4番・新沢が右翼オーバーのサヨナラ適時三塁打。明徳義塾が鮮やかに試合を制したのである。

 鳥取城北・山木博之監督がナインの健闘を称えながらも口にしたのは、やはり明徳義塾の試合巧者ぶりだ。
 「1回に先制ができた時にはこっちに流れを持ってこれるかなと思ったんですけど、2回以降は(明徳義塾の先発)新地君がうちのバッターを見ながら投げてきましたし、守りも要所でいいところを守っておられて目に見えないファインプレーがいくつもありました。またヒットが出ない中で点数を取っていく巧さは甲子園で勝っていないウチのようなチームとの違いを感じました。勝負どころをよく分かっているのかなと」

 鳥取城北は11安打で5得点。決して効率は悪くはないのだが、3安打に抑えながら11個の四死球を出してしまっては明徳義塾の巧さにやられてしまうのは当然かもしれない。捕手の安保は悔しさをこう絞り出した。

「明徳打線は厳しい球はファウルで粘って、甘く入ってきたところをしっかり自分のバッティングをしてくる。盗塁や送りバントを一発で決めてくるし、隙も突いてくる。9回は1死一塁でうちも向こうも2番バッターだったんですけど、こっちはダブルプレーで、相手は四球を選んできた。そこの差が出たかなと思います」

 関西など他地域出身の選手が数多くいる両校は、甲子園を目指す球児たちが集まるという意味においては似通っている。しかし、百戦錬磨の指揮官が鍛え上げた明徳義塾は「プロで伸びない」と揶揄されることも少なくはないながらも、高校野球の世界ではやはり強者だった。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。

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