フォーム改造も“オンライン指導”?コロナ禍の中で石川柊太を飛躍させた「REBASE理論」とは

フォーム改造も“オンライン指導”?コロナ禍の中で石川柊太を飛躍させた「REBASE理論」とは

石川は今季、右ヒジの故障から完全復活。あくなき向上心と理論家ぶりがその要因だ。写真:山崎賢人(THE DIGEST編集部)

8月1日、福岡Pay Payドーム。ソフトバンクの先発・石川柊太の右腕が冴えわたった。最速149キロのストレートを軸にカットボールと2シームを交えて左右にボールを動かし、縦変化は石川の代名詞とも言える伝家の宝刀パワーカーブとフォークを駆使。相手の西武打線が放ったヒットはわずかに1本だけだった。1回2死からの4者連続を含む自己最多の計13奪三振。今季4勝目をプロ7年目で初の完封勝利で飾り、投手出身の工藤公康監督をして「100点満点。悪いところが一つもなかった」と言わしめた。

 2014年の育成ドラフト1位右腕は16年7月に支配下登録され、プロ4年目の17年に8勝、18年には13勝をマーク。ソフトバンクではもはやおなじみの“三軍育ちの逸材”だ。しかし、昨季は右ヒジを痛め、1軍出場はわずか2試合止まり。今季は、まさしく完全復活を懸けるシーズンだった。

 当初から開幕ローテーション入りは決定的だったが、自分の投球フォームにどうもしっくりきていなかった。もっと自分を向上させるためのきっかけはないのか。その模索を続ける中で、石川はある理論に出会った。アスリート向けのパーソナルトレーニングジム『REBASE』の代表を務める、29歳の池田則仁氏が提唱する「REBASE理論」だ。
  池田氏は、茨城の強豪・水戸商で捕手として活躍するも腰のヘルニアでプレーを断念。米ネブラスカ州立大カーニー校へ留学後、日本でトレーナとーして活動する中で、一流のMLBプレーヤーを研究していった。『REBASE』を設立したのは18年。オンラインサロン『NEOREBASE』には、石川やダルビッシュ有(カブス)をはじめ、独自の練習法やピッチング理論などに共鳴した千賀滉大(ソフトバンク)や則本昂大(楽天)ら、現役のプロ野球選手が30人近く集まって意見交換している。

 石川は共通の知人を介して、池田氏のアドバイスを求めることにした。フォーム修正を決断したのは、コロナ禍で自主練習期間中の5月頃で「千賀君と石川君が見てほしいといっているので(仲介者から)つないでもいいですか? というのが確か始まりだったと思います」と池田氏は振り返る。
  池田氏が指摘したのは、石川の「腕」と「体」の連動に関することだった。投球動作に伴って胸椎、つまり上半身が回旋する。石川の場合、昨年までの映像を見ると、時計の「1時」の位置、つまり、オーバースローとスリークォーターのその中間あたりから、右腕が出てきていた。右腕を振り下ろすのは「縦回転」。一方、上半身は「横回旋」。185センチと長身の石川は、その腕と体の動きがうまく噛み合っていないと池田氏の目には映った。

「フォームを改善する上で、胸椎の回旋運動は横回旋で投げているのに、腕だけは縦で振っていて、いわゆる切って投げる投げ方をしていたので、これだとヒジや肩の負担も大きく、体の力を使えない。自分の体に合う高さにした方がいいのではないかと提案しました」と池田氏。つまり、胸椎の「横回旋」に合わせて、腕も「横振り」にした方が、体の動きとしてはナチュラルになるというわけだ。
  ただ、「言うがやすし行うが難し」とは、このことかもしれない。日本の“定説”では、ヒジをしならせ、そのヒジをいわば支点にしながら手を打者側により近づけ、ボールをリリースするのが投球の基本とも言われてきた。この「しなり」がない投手を「アーム型」と呼ぶ。体格に恵まれた投手に多い投げ方で、長いリーチを生かし、高いリリースポイントから、体のパワーと鋭い回転を使って投げ下ろす。だが、筋力の弱い日本人は肩や胸の筋肉を傷めるケースが多く、プロに入ったアーム型の投手は、肩やヒジの使い方を修正させられるケースが多い。

 石川もアーム気味の腕の振りだ。だが、池田氏の提案は、腕の使い方を修正するのではなく、腕の使い方に合わせたフォームに変えるという、定説とは逆の発想だった。

「コアの体幹の部分に関しては正解があると思って指導しています。それに付随した手の動かし方、足の上げ方と踏み出し方はいろいろな選手がいるので、近いタイプの例を参考に出して、自分に合う形を作ってくださいと提案しています」

 そう語る池田氏が石川に“モデル”として提示したのが、メジャーリーガーのマックス・シャーザー(ナショナルズ)とチャーリー・モートン(レイズ)だった。
  シャーザーは身長191センチ、モートンも196センチ。長身の右腕ながら、2人ともスリークォーターとサイドスローの中間、時計でいえば「2時」の位置から右腕が出てくる。長身=投げ下ろし、という日本の定説にはまったく当てはまらない。さらに、ヒジのしなりを使う「しなやかな投げ方」よりも、上半身の横回旋に合わせて腕も横に振る、つまり「動きのベクトル」を揃える方が威力を増すのは、力学的に見ても明白だろう。そこで石川は、2人の投球を徹底的に研究した上で、シャーザーをお手本に選んだ。サイ・ヤング賞3度獲得した右腕の動きを、映像を通して徹底的に分析し、抽出したエキスを自らに注入した。

 宮崎キャンプ時と比べて、今の石川の右腕が出てくる位置は15度近くも下がり、もはやサイドスローにも映るほど。「今までの投げ方だと、怪我のリスクが上がる。体にかかる負担も違う。体の末端で投げずに、体の連鎖で投げる感じです」。自らのフォームについて石川がそう語っていたのは、開幕前の5月下旬のことだ。
  その成果は顕著だった。8月1日まで4勝負けなし、5試合連続でQSを達成するなど安定感が出てきた。さらに奪三振率も10.75と力で相手も圧倒。短期間でのフォーム改造を「試行錯誤の上、かみ合わせてきた。さすがプロですね」と称賛する池田氏は、実はまだ石川と直接会ったことがないのだという。コロナ禍の中、グループLINEを通じて石川が画像や質問を送り、それに池田氏がアドバイスや提案を返信する形でコミュニケーションを進めてきた。

「コロナ禍がなければ関東遠征で会いましょうと言っていたんですが、今はなかなか難しいですね」と池田氏。石川の現状については「実指導をしていないので、下半身の動作や腕の振りについてはまだ課題が残ると思っていますが、(右ヒジなどに)痛みなく投げられていると本人が言っていたので、今の状態が現時点ではベストかなと思っています」。

 フォーム改造のオンライン指導。これもまた、“令和の新スタイル”なのかもしれない。

 右ヒジの疲労を考慮し、工藤監督は「1回(先発ローテを)飛ばす」と8月6日に石川の出場選手登録を抹消した。しかし、この期間もきっと、また新たな進化のきっかけをつかむ貴重なリフレッシュ期間につなげていくような気がしてならない。

取材・文●喜瀬雅則(スポーツライター)

【著者プロフィール】
きせ・まさのり/1967年生まれ。産経新聞夕刊連載「独立リーグの現状 その明暗を探る」で 2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。第21回、22回小学館ノンフィクション大賞で2年連続最終選考作品に選出。2017年に産経新聞社退社。以後はスポーツライターとして西日本新聞をメインに取材活動を行っている。著書に「牛を飼う球団」(小学館)「不登校からメジャーへ」(光文社新書)「ホークス3軍はなぜ成功したのか?」 (光文社新書)

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