鷹の打撃職人・長谷川勇也を襲ったまさかのコロナ禍。試練を乗り越え職人魂を見せられるか

鷹の打撃職人・長谷川勇也を襲ったまさかのコロナ禍。試練を乗り越え職人魂を見せられるか

野球に対する姿勢は自他ともに厳しい、ストイックな仕事人の長谷川。コロナ禍で誰よりも本人が悔しい思いをしているに違いない。写真:山崎賢人(THE DIGEST編集部)

「職人気質」。 長谷川勇也という男の生き様は、まさにこの四文字の通りだ。口数は多くない。むしろ、黙して語らない。喜怒哀楽も、あまり表に出ない。

 2月の宮崎キャンプ。西に日が傾き始めたころ、ふと室内練習場に足を運ぶと、一心不乱にティー打撃を繰り返す背番号24の姿がある。その時にも、気合の大声を上げたり、詰まった打球に顔をしかめたりするわけでもない。構える。振る。打つ。基本動作を、体の隅々にまで刷り込ませるかのように、黙々と打ち続ける。野球に対する真摯な姿勢。自らへ課す厳しさへの裏付けが、その行動に満ちあふれている。だから、この男の言葉には、説得力がある。

「お前、そんな態度で野球をやるんなら、三軍へ行け」

 長谷川が、気持ちのこもっていないスウィングを見せた若手野手を怒鳴りつけたのは、昨季のウエスタン・リーグでの試合中、ベンチ内でのことだったという。「ハセがおったら、もうこっちは何も言わなくていいんだよ。若い選手にそうやって直接、本気で言ってくれるんやから」と、小川一夫二軍監督がそのシーンを思い出しながら長谷川の“存在感”を語ってくれた。
  契約更改後の会見で、若手への苦言が口を突いて出たこともあった。

「もうちょっと意識を高く持ってやってほしい。僕なりに感じていることですが、何のためにユニフォームをもらってやっているのか。何のためにプロ野球に入ってきたのか。漠然とやっているようにしか見えない選手もいる。そういう選手を見ると、負けちゃいけないし、負けるわけがない、技術的にも」

 持てる能力、そして技術を、自分自身で磨いていく。そんなたゆまぬ向上心こそが、プロには不可欠だ。それが感じられない一部の若手選手の言動に、長谷川は我慢がならない。試合中の怒声は、すっかりベテランと呼ばれる年齢になった男の、使命感に突き動かされた“心の叫び”でもあるのだ。

 2013年に打率.341&198安打で首位打者と最多安打のタイトルに輝いた男も、14年、17年と2度の右足首手術。17年以降の3年間は、計103試合の出場にとどまっていた。だが、昨年の夏前あたりから右足首の状態は好転しつつあった。「良くなってきた。手術してから、一番ええんと違うかな」と、その復調を見てとっていたのは、大道典良二軍打撃コーチだ。
  長谷川がその真価を発揮したのは、昨秋のクライマックスシリーズでのこと。レギュラーシーズン2位のソフトバンクはファーストステージで楽天を下してファイナルステージへ進出。リーグ優勝した西武には1勝のアドバンテージがある。だからこそ、初戦を取って1勝1敗のタイに持ち込んでおくことが重要になってくる。

 その大事な初戦、1点ビハインドの8回2死一、三塁。内川聖一の代打に指名されたのが、長谷川だった。通算2171安打を誇る現役最高のヒットマンに代わっての、勝負所での打席。工藤公康監督の勝負手は、シリーズの行方を長谷川のバットに託したのに等しい。

 この時、マウンドにいたのは、西武の4番手・平良海馬。この時19歳の若き右腕は、16歳年上のベテランに対し、ひたすら剛速球で押してきた。152キロ、153キロ、153キロ、153キロ。カウント2−2までの4球、長谷川のバットは動かなかった。そして5球目、155キロ。平良のこの日最速のストレートを、長谷川は捉えた。小フライがレフトの前で跳ねて同点タイムリーに。この一打で動揺したか、平良が次打者グラシアルに投じた初球はワイルドピッチになった。三塁走者の周東佑京が生還して勝ち越し。初戦をものにしたソフトバンクは無傷の4連勝で日本シリーズ進出を決めた。
 「無心になっていたから、何も分からないです」その勝負強さに誰もがうなった長谷川の、試合後の第一声がこれだった。「スピードに対応できたから?」と聞いてみたが、返ってきた答えは「それも、ホントに無心です」。そこに長谷川らしさが詰まっていた。研ぎ澄まされた集中力が、すべてを凌駕してしまう。「ゾーン」というのだろう。邪念が消える。投球に集中する。その結果に過ぎない。職人気質の塊のような男だからこその境地なのだろう。

 そんなストイックな男だからこそ、この一報が信じられなかった。8月1日、長谷川がPCR検査で新型コロナウイルスの陽性反応を示したという。この時は背中を痛めて二軍調整中だった。そんな時に、夜の街に繰り出したりするような男ではない。だからこそ、ホークスファンも、番記者も、そしてチームメイトも首脳陣も、皆一様に驚きを隠せなかった。

 あの長谷川のことだ。きっと、チームに迷惑をかけてしまったと己をを責めているだろう。しかし、慌てなくていい。シーズンは、まだ3分の1を終えたに過ぎない。万全の態勢を整えて、再び一軍へ戻ってくればいい。取り返すだけの時間も、試合も、まだたっぷりと残されている。
 
 コロナ禍という“試練”を乗り越えることで、長谷川はきっとさらに強くなる。彼がそういう「たくましさ」を持っていることは、誰もが知っている。

取材・文●喜瀬雅則(スポーツライター)

【著者プロフィール】
きせ・まさのり/1967年生まれ。産経新聞夕刊連載「独立リーグの現状 その明暗を探る」で 2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。第21回、22回小学館ノンフィクション大賞で2年連続最終選考作品に選出。2017年に産経新聞社退社。以後はスポーツライターとして西日本新聞をメインに取材活動を行っている。著書に「牛を飼う球団」(小学館)「不登校からメジャーへ」(光文社新書)「ホークス3軍はなぜ成功したのか?」 (光文社新書)

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