【MLB珍獣図鑑:ブレイク・スネル】レイズのエース、“スネルジラ”は球界屈指のゲーマー

【MLB珍獣図鑑:ブレイク・スネル】レイズのエース、“スネルジラ”は球界屈指のゲーマー

18年に最多勝(21勝)と最優秀防御率(1.89)のタイトルを獲得してサイ・ヤング賞にも選ばれたスネル。(C)Getty Images

5月3日、2020年の球界のチャンピオンを決める戦いが行われた。試合はレイズが6対0で勝利し、晴れて全30球団の頂点に立った……もちろんこれはフィールド上で行われた試合のことではない。新型コロナウイルス拡大で開幕が無期限延期になった中、全30球団の選手代表がテレビゲーム『MLB The Show』で戦った「プレーヤーズ・リーグ」での話だ。

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 優勝したレイズをプレーしていたのはブレイク・スネル。2018年にサイ・ヤング賞を受賞した27歳の左腕は球界屈指のゲーマーでもあり、このプレーヤーズ・リーグでも優勝候補に挙げられていた。

 実際、29試合の総当たりによるレギュラーシーズンでは24勝5敗と圧倒的な強さを発揮。プレーオフに入ってもギャビン・ラックス(ドジャース)、ジェフ・マクニール(メッツ)を撃破し、“ワールドシリーズ”では、ルーカス・ジオリト(ホワイトソックス)を3連勝のスウィープで下した。

 あまりの強さにジオリトは「ブレイクのような打者とは対戦したことがない」と脱帽。本人はというと、ツイッターで「本っっっっ当に優勝したかった!」と喜びを爆発させる一方で、次回からゲームの難易度を上げることを提案するあたりがさすがゲーマー。「俺たちは最高のレベルで競い合うアスリートだ。ゲームでも同じにしない理由があるかい?」。いや、そこまでは誰も求めていない気が……。
  スネルのゲーマーぶりは以前からよく知られていた。シーズン中から、定期的にライブストリーミング配信サービスTwitchでのプレー実況でファンと交流。今やフォロワーは3万3000人を超えている。ただゲームをプレーするだけではなく、ファンの質問に答えたり、カラオケを披露するなど、マウンド上とはまったく違う一面が人気の秘密だ。特に得意なのはいわゆるFPSで、『HALO』も『Call of Duty』も「世界屈指の腕前」と豪語している。

 もっとも、ゲームとファンとの交流に夢中になるあまり、自分がメジャーリーガーであることを忘れてしまう瞬間もある模様。昨年オフ、Twitchで実況中にチームメイトのトミー・ファムがパドレスへトレードされたことを知った時は大激怒。興奮するあまり、暴言を連発する姿までもがしっかり世界中に配信されてしまった。

 まだ、今シーズンの開幕が未定だった頃には、7月上旬の開幕を目指すオーナー側が事実上のサラリーキャップ制導入を求めたことを、これまたTwitchでゲーム実況中に猛批判。「年俸が減るならプレーしない」と断言して波紋を呼んだ。「(ウイルスに感染する)リスクはめちゃくちゃ高くなるのに、年俸はめちゃくちゃ下がる。そんなことする理由があるか?」……どうもゲーム中はエキサイトしてしまう傾向があるようだ。
  生まれはシアトル近郊で、子供の頃はもちろんマリナーズの大ファン。当時好きだった選手として、ケン・グリフィーJr.、アレックス・ロドリゲス、イチローといった「定番中の定番」に加えて、1998年から99年途中まで在籍しただけの一塁手、デビッド・セギーの名前を持ち出すあたり、かなりの入れ込みぶりだったことが伝わってくる。

 メジャーで活躍するにつれ、「スネル」と「ゴジラ」を掛け合わせた愛称の“スネルジラ”も定着した(本来は兄のニックネームだったのだが、「自分の方が似合ってる!」と強引に継承したらしい)。昨年5月には本拠地トロピカーナ・フィールドに高さ約12mもあるビニール製の巨大なスネルジラが登場して話題になった。

 Twitchでプレー実況している時のスネルは意外なほど快活でおしゃべり。マウンド上では、まるでサイコパスのような冷たい目つきが印象的なだけに、ギャップに驚かされる。実は、Twitchを始めた理由もそこにあるのだという。「本当の自分を知ってもらいたいと思うようになったんだ。(マウンド上での)僕は僕じゃない。あれは仕事をしている姿さ。仕事の時は真面目にするのが当たり前だろ」。
  実際、意外なまでに生真面目な一面もある。彼はこれまでアルコールを一度も口にしたことがない。理由は「必要性を感じないから」。昨年、チームがプレーオフ進出を決めた際のシャンパンファイトでも、一滴も飲まなかったそうだ。

 意外と言えば、実は少年時代のスネルは自分のゲーム機を持っていなかったという。さまざまなコメントから想像するに、当時の暮らしは決して裕福なものではなかった様子がうかがえる。本人も「ゲームのおかげで、いろんなことから現実逃避できた」と語っている。彼にとって、ゲームは単なる趣味の枠を超えたもの、大げさに言えば自分を救ってくれた“恩人”のような存在なのかもしれない。

 昨年夏、スネルはタンパの小児病院に2万ドル相当のゲーム機とソフトを寄付した。「ゲームをすることで、子供たちが少しでも痛みを忘れられるなら素晴らしいじゃないか」。もちろん、そこには自らのかつての体験が反映されているに違いない。

 ここまでくると野球選手とゲーマー、どちらがメインなのか分からなくなってくる。ぜひ本業でも、「プレーヤーズ・リーグ」と同様に、レイズを球団史上初の世界一へと導いてほしい。

文●久保田市郎(SLUGGER編集部)

※『SLUGGER』2020年7月号より転載

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