「スーパースター不在」の現代MLBを体現するレイズ野球は次代のトレンドとなるのか?

「スーパースター不在」の現代MLBを体現するレイズ野球は次代のトレンドとなるのか?

球界屈指の“貧乏軍団”でありながら、レイズはさまざまな創意工夫を駆使してワールドシリーズまで勝ち上がってきた。(C)Getty Images

レイズの試合を見ていると、野球についての固定概念が次々に覆される。

 盗塁を試みることすらほとんどない打者が時には1番を務め、エースであっても相手打者が3巡目に入ればあっさりマウンドを降りる。普段は主にクローザーを任されている投手が3回に登場し、外野に4人、時には5人も配置する極端なシフトを敷く。日本でもおなじみになったオープナーやブルペン・ゲームを生み出したのもこのチームだ。

 アストロズと戦ったリーグ優勝決定シリーズで、レイズは第1戦から第7戦まで、すべて異なるラインナップで臨んだ。計4人が3番を務め、4番は3人。相手投手とのマッチアップなどに応じて、打順も守備位置も目まぐるしく変えていく。

 なぜこれほど極端な戦略に走るのか。答えは簡単、MLBでも屈指の貧乏チームだからだ。

 お金がないから、誰もが知っているようなスター選手を獲得することはできない。だから、年俸は安くても一芸に秀でた選手をかき集め、それぞれの長所を最大限に生かしながら勝つ方法を模索する。最新のデータ分析から得られた知見も最大限に反映し、たとえそれが「球界の常識」に反するアイデアであっても、勝利に近づく戦略と判断したならば迷うことなく実践する。その結果が、年俸総額で3倍以上も上回るヤンキースを倒した上での12年ぶりのリーグ優勝だった。
  言わばレイズは、『マネー・ボール』で描かれたアスレティックスの究極の進化版だ。実際、成果という点でもすでに本家を上回っている。球界に革命を起こしたビリー・ビーンがこれまで一度もワールドシリーズに進めていない中、レイズは2008年に続いて2度目の大舞台に駒を進めた。しかも、ヤンキースとレッドソックスという、MLB屈指の強豪チームと同じ地区に所属していながらだ。

 オープナーがまさにそうだったように、レイズの試合には「次のトレンド」のヒントが隠されている。いい意味でも悪い意味でも、彼らのゲームに「球界の未来」が凝縮されていると言っても、決して過言ではない。

 あえて「悪い意味でも」と付け加えたのは、レイズの戦略が危険な側面も孕んでいるからだ。サイ・ヤング賞を獲得したほどの投手が90球も投げないうちにマウンドを降り、(個性的ではあっても)無名のリリーバーが入れ替わり立ち代わりマウンドに上がる試合を、果たして一般のファンは喜ぶだろうか? 猫の目のようにラインナップが変わることで、「レイズと言えばこの人」という看板選手もなかなか出てこない。
  つまり、レイズ野球からは真のスーパースターは生まれにくい。ある意味で、それは当然のことでもある。彼らのスタイルはあくまでも「弱者の戦略」であり、スーパースターがチームにいないことを前提に出発しているからだ。だが、レイズの戦略を他の球団が踏襲することで、ますます「個」の存在が薄れていくことを危惧する向きは少なくない(実際、すでにそうなりつつある側面も否定できない)。スーパースター不在が叫ばれて久しいMLBで、この危機感はかなり深刻なものとして共有されている。

 ただ、だからと言ってレイズの野球がつまらないかというとそれも違う。先に述べたように、固定概念を次々にひっくり返す彼らの試合は、スター同士の対決とはまた違った意味でエキサイティングだ。そこに何とも言えないジレンマを感じるのは僕だけではないだろう。

 それだけに、ドジャースと対戦する今回のワールドシリーズは非常に興味深い。チーム作りの根幹部分においてはレイズとかなり共通点が多いドジャース(それもそのはず、編成総責任者を務めるアンドリュー・フリードマンはかつてレイズのGMだった)だが、同時にムーキー・ベッツやコディ・ベリンジャーといった強烈な「個」を持ったスーパースターもいる。
  アンダードッグのシンデレラ・ストーリー完結という意味ではレイズを応援したくなる。『マネー・ボール』の副題である「The Art of Winning An Unfair Game」、すなわち「不公平なゲームで勝利を収める美学」をビーンに代わって成就することは同時に、ここ20年、球界を席捲してきたセイバーメトリクスの到達点となるだろう。だが、レイズの優勝によって、球界の没個性化がさらに進むようであれば、それはそれであまり歓迎できない事態だ。

 シリーズが終わった時、そこにMLBの未来を指し示すヒントのようなものは見つかるのか。一人のファンとして、自分はどんな思いを抱くのか。今の時点ではまったく読めないが、だからこそ楽しみで仕方がない。

文●久保田市郎(SLUGGER編集長)

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