【現地発】寂しさを禁じ得ない“異例“のワールドシリーズ。感染症対策もNBAに劣るが、それでも…

【現地発】寂しさを禁じ得ない“異例“のワールドシリーズ。感染症対策もNBAに劣るが、それでも…

“熱戦”続きのワールドシリーズ。フィールドの戦いはすごい一方で、やはり随所にコロナ禍の影がちらつき……。(C)Getty Images

ドジャース、レイズのどちらが勝ち残ろうと、2020年のワールドシリーズが歴史的な戦いとして語り継がれることはすでに間違いない。

 新型コロナウイルスによる影響で、通算116度目にして初めて中立地開催となった今年の最終決戦。両リーグの最高勝率チーム同士が激突する“横綱対決”は、さまざまな意味で前例のないシリーズとなっている。

 会場となったのはテキサス州アーリントンにオープンしたばかりのグローブライフ・フィールド。過去10年以上、ワールドシリーズは欠かさず現場取材してきた私から見て正直、今季のシリーズは「素晴らしい雰囲気の中で行われているとは言い難い」。
  同じくこの球場で開催されたナ・リーグ優勝決定シリーズから今季初めて客入れが許され、ワールドシリーズでも第1戦では観衆1万1388人、第2戦も1万1472人を動員。ソーシャル・ディスタンスを守った上で収容人数4万518人の球場に約30%弱のファンが入ったものの、見た目的にも、歓声のボリューム的にも、やはり寂しさは否定できなかった。得点機の場面などにはそれなりに盛り上がるものの、率直にいって「世界一を争うステージ」らしい豪華さはそこには存在しない。

 また、NBAがオーランドのディズニーワールドに作り上げた「バブル」での取材も経験した一人として、MLBの安全対策も万全には思えなかった。スタジアム内にはマスク着用の指示をはじめとする数多くのインストラクションが張り出され、消毒液も多めに設置。ホットドッグ売り場、メディア食堂などでもキャッシュの受け渡しを避けるため、すべてクレジットカードでの支払いが義務付けられるという工夫は見られた。

 しかし、食事売り場などにはかなりの数の人が密集。グッズ売り場にも長蛇の列ができているのを見ると、不安を感じずにはいられなかった。最後まで無観客のままプレーオフを戦い終えたNBAの「バブル」では「ここにいる限りは大丈夫だろう」という安心感があったが、グローブライフ・フィールドでは必ずしも同じようには感じられなかったのである。
  ただ……それらのすべてを考慮した上で、ファンがついに球場に戻ってきたことに対する熱い喜びを、私も感じたことは否定しない。ゲーム開始前、スタジアムの周囲では嬉しそうな少年、少女ファンの姿もちらほら見かけた。スタジアムに入るのが待ちきれないような彼ら、彼女らの笑顔を見て、どこか懐かしさを覚えたのは私だけではなかったはずだ。

「エキサイティングだよ。僕たちはファンのためにプレーしているんだからね。(無観客だった)これまでより、スタジアムにはエナジーが感じられる。僕たちにはそれが必要だったんだ」。レイズのムードメーカー、遊撃手のウィリー・アダメスが第2戦後に残していたそんな言葉は、単なる口先だけのものではなかったはずだ。

 パンデミックの脅威にさらされた2020年を通じ、無機質な無観客ゲームが続いた。人口の歓声を流して埋め合わせたものの、人間が作り出す“熱気”はスタジアムから確実に消えてしまった。テレビで試合を見ている分には分かりづらいが、実際に現場で居合わせるとその違いは歴然。そんな状況を関係者、メディアだけでなく、選手も寂しく思っていたことは容易にうかがい知れる。
 「ドジャースタジアムで試合をして、5万6000人のファンが歓声を送ってくれたら素晴らしかったのだろう。ただ、今季を通じてさまざまなことを経験した後で、1万人のファンが球場に集まり、ドジャースファンもたくさん来てくれたのは素敵なことだった。サポートは間違いなく助けになるよ」。第1戦で勝利投手になったドジャースのエース、クレイトン・カーショウの心のこもった言葉も胸に響いてくる。

 2020年のワールドシリーズは例年のような“ドリームステージ”とは言えないし、華やかさの欠如に寂しさは禁じ得ない。それでも、パンデミックの中でも何とかここまでたどり着き、ファンの歓声がスタジアムに戻ってきたことは素直に喜ぶべきに違いない。

 現在、私たちは間違いなく歴史に刻まれる時間を過ごしている。今回のワールドシリーズで目にしたものを、孫の代まで語り継ぐことになるのだろう。だからこそ、今はただ大きなトラブルがないままシリーズを終えてほしい。そして、今後も良いゲームが続き、ついにスタジアムに戻ってきたファンを笑顔にさせ続けて欲しいと願わずにはいられない。

文・取材●杉浦大介

関連記事(外部サイト)