「エースと心中するよりデータに賭ける」自分たちのスタイルを貫徹して敗れたレイズ

「エースと心中するよりデータに賭ける」自分たちのスタイルを貫徹して敗れたレイズ

6回途中、わずか73球でエースを交代させたキャッシュ監督の決断が勝負の分かれ目になった。写真:Getty Images

その瞬間、ムーキー・ベッツはベンチのデーブ・ロバーツ監督の顔を見て微笑んだという。

 2020年ワールドシリーズ最大の山場は、第6戦の6回に訪れた。2勝3敗とリードされたレイズは初回にランディ・アロザレナが今ポストシーズン10本目の本塁打を放って先制。先発のブレイク・スネルはキャリア最高と言える圧倒的な投球でドジャース打線をねじ伏せ、5回までわずか1安打、9奪三振。6回も先頭打者を打ち取ったが、9番のオースティン・バーンズにセンター前ヒットを許した。

 1死一塁でベッツを迎えた場面で、レイズのケビン・キャッシュ監督は2年前にサイ・ヤング賞を受賞したエースを交代させるという驚きの策に出た。ベッツが笑顔を見せたのはこの瞬間だった。

 それまでたったの73球、余力も十分に残っているはずなのになぜエースを交代させたのか。決断の背景にあったのは、ここ数年MLBで急速に広まっている「イニングや球数に関係なく、相手打者が3巡目に入ったら先発投手を早めに交代させるべき」という戦略思考だ。
  ESPNによると、過去5年間の1〜2巡目の平均OPS(出塁率+長打率)は.739なのに対し、3巡目は.799に跳ね上がる。確かに、打者は打席を重ねることで球筋やフォームにも慣れてくる一方、投手は球数が増えて体力も落ちていく。打席が増えれば増えるほど打者有利になるのは間違いない。レイズの場合、強力ブルペンを備えていることもあり、キャッシュ監督はレギュラーシーズンから早めの継投で勝ちを拾ってきた。この交代も、キャッシュ監督にとっては「普段着野球」だったのだろう。

 しかし、「3巡目理論」は一般論として正しいとしても、今日のスネルに関しては当てはまらなかったのではないか。上のデータは、有象無象の二流投手も含めての数字だが、今日のスネルの投球は大げさでなく世界最高クラスだった。96〜97マイルの4シームに加え、これまでは荒れがちだったカーブ、スライダー、チェンジアップと変化球もうまくコントロールされ、ドジャースの打者たちは完全にタイミングが合っていなかった。
  百歩譲って交代そのものはやむを得なかったとしても、2番手にアンダーソンを投入した選択にも疑問が残る。レギュラーシーズンでは防御率0.55と絶好調だったアンダーソンだが、ポストシーズンでは調子を落とし、地区シリーズ第5戦から数えて何と6試合続けて失点していた。ドジャース打線の中心にぶつけるには、あまりにもミスマッチではなかったか。今季のベッツが右投手より左投手を苦手にしていたことも踏まえても、不可解な継投だった。

 代わり端、アンダーソンはベッツにレフト線への強烈な二塁打を浴び、1死二、三塁。続くシーガーの初球はカーブのコントロールが乱れてワイルドピッチとなり、バーンズが生還して同点。さらにシーガーの一塁ゴロの間にベッツが好走塁でホームを陥れ、ドジャースはあっという間に逆転した。

 結局、これが決勝点となってレイズは敗れた。試合後、キャッシュ監督はスネルの交代について「結果的にうまくいかなかったのだから後悔している」としながら、「思考プロセスは正しかったと思う」とも語った。
  だが、一つ一つの試合は“生き物”だ。何万という試合のデータから得られた最適解と、ワールドシリーズ敗退がかかった土俵際でエースが一世一代の好投を演じている試合がイコールで結ばれないこともある。

 MLB屈指の貧乏球団でありながら、オープナーをはじめとする独創的な戦略を次々に打ち出してワールドシリーズまで勝ち上がってきたレイズ。マッチアップやデータを基にした攻めの継投も、そうした戦略の一つだった。第6戦の「73球のエース降板」も、キャッシュ監督にとってはいつも通りの展開だったのだろう。

 エースとの心中よりデータに賭ける。それがレイズにとっての“普段着野球”だったということだ。その意味で、やはり今年のワールドシリーズもトレンドを反映する鏡になっていたような気がする。

文●久保田市郎(SLUGGER編集長)

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