固定観念に逆らう工藤監督の“短期決戦モード”。この采配がある限り、ソフトバンクの“CS優位”は揺るがない!

固定観念に逆らう工藤監督の“短期決戦モード”。この采配がある限り、ソフトバンクの“CS優位”は揺るがない!

日本シリーズ3連覇中の工藤監督。プレーオフでは圧倒的な強さを誇り、まさに“短期決戦の鬼”と呼ぶにふさわしい。写真:山崎賢人(THE DIGEST写真部)

工藤公康監督は、人呼んで“短期決戦の鬼”。2015年に就任して以降、クライマックス・シリーズ(CS)突破は実に4度。さらに昨季までの3年連続を含め、日本一にも4度輝いている。

 コロナ禍の影響で、今季のCSはレギュラーシーズン1位と2位による5試合制(3勝先取)の1ラウンドのみとなった。リーグ優勝したソフトバンクには1勝のアドバンテージがつく。今季の方式では日本シリーズに進出するために、最大4戦で2勝すればいいわけだ。

 工藤政権下のソフトバンクは、過去5年のCSにすべて出場。通算22勝8敗で、勝率は.733にも達する。昨季の楽天とのファーストステージでは初戦を落としながら、そこから2連勝してファイナルステージに進出すると、西武に4連勝してリーグ優勝を達成した。つまり現在、CSでは6連勝中ということになり、その強さは際立っている。

 一体、他球団とは何が違うのか? 結論から先に言えば、豊富な戦力を背景にした“早仕掛け”の采配が、功を奏しているということだ。
  レギュラーシーズンはおよそ半年の長丁場だ。その長さを俯瞰しながら、選手の疲労を考慮し、故障者を避け、チームコンディションを一定レベルで維持していくという、言わば安定したマネジメントが必要とされる。

 一方、今回のCSは、とにかく先に2勝しなければならない。そこで、「勝てる」と判断した時に、集中的に戦力をつぎ込んでいく。早めの投手リレーを仕掛け、チャンスでは代打陣を惜しみなく起用し、点を奪って逃げ切る。“短期決戦モード”に指揮官の采配が切り替わると、選手たちもそのように動きはじめる。それが“常勝チーム”のメンタリティであり、それぞれの役割を把握している経験値の高さでもある。
  先発はおそらく、初戦が千賀滉大、2戦目が東浜巨になるだろう。3戦目以降はマット・ムーア、4戦目に和田毅を準備しておけば万全だ。ここに“第2先発”として、シーズン中は先発ローテを担った石川柊太と二保旭、さらにシーズン終盤に台頭してきた杉山一樹、今季4勝を挙げブレイクした笠谷俊介、150キロ超のストレートを誇る松本裕樹ら、2〜3イニングをこなせる投手をスタンバイさせておく。

 この“先発2人体制”で6イニングをまかなうことを基本線として、中盤まではできるだけ相手に点を与えないようにする。その間に、攻撃陣が先手を奪う。勝負どころと見れば、たとえ序盤だろうが、不動のレギュラーに代えてでも代打をつぎ込んでいく。
  昨年も、CSファイナルステージ初戦、1点ビハインドの8回2死一、三塁の場面で、内川聖一の代打・長谷川勇也が同点の一打を放ち、逆転勝利への糸口を作ったことがあった。日本シリーズ第4戦でも、2点リードの7回一死一、二塁のチャンスで、正捕手の甲斐拓也に代えて、やはり長谷川を投入。セカンドゴロの間に貴重な4点目を奪って逃げ切り、3年連続の日本一を決めている。

 他のチームなら、早めに代打を送ると、終盤の陣容にどこかしら穴が空く懸念が出てくる。しかし、ソフトバンクにその不安はほとんどない。ベンチに控える川島慶三、明石健志、牧原大成は代打でも代走でも使える上に、守備でも複数ポジションを守れる。栗原陵矢やグラシアルら、レギュラーにもユーティリティ・プレーヤーがおり、試合中のポジションチェンジも可能だ。彼らのおかげで組み合わせが広がり、だからこそ工藤監督も、惜しげもなく手持ちのカードをつぎ込んでいけるのだ。
  この積極采配でリードを奪い、終盤は鉄壁のリリーフ陣で逃げ込みを図る。7回は高橋礼、岩嵜翔、嘉弥真新也、泉圭輔ら多彩な顔ぶれが揃い、それこそ一人一殺のぜいたくな起用法を駆使してでも、3つのアウトを奪うことを優先する。そうすれば、8回にはモイネロ、9回は森唯斗と絶大の信頼と実績を誇る2人のリリーバーが控えている。これでもかとばかりに、勝負どころで次から次へと戦力を投入していくのが、短期決戦における工藤采配の最大の特色なのだ。

 球界では、ポストシーズンでも「シーズンと変わらぬ戦いをすべき」という“固定観念”がある。それは、レギュラーシーズンを勝ち抜いてきた主力選手へのリスペクトでもあり、シーズンと異なる起用で負けたりすると「監督が余計な動きをした」という批判にもつながる。
  だが、それを工藤監督は恐れない。選手たちも、むしろ納得しているところさえ見受けられる。勝負どころで総力を挙げ、一気に攻め立て、白星を奪う。その“短期決戦モード”を今回のCSでも貫けば、ソフトバンクの「優位」はおそらく揺るがないだろう。

 CSは14日、13時からPayPayドームで幕を開ける。ソフトバンクが迎え撃つのは、楽天、西武との熾烈なCS争いを制して勝ち上がってきたロッテ。ソフトバンクの対ロッテ戦の成績は11勝12敗1分とほぼ5分だ。

 果たして、今年も工藤監督の采配の妙が勝負の分かれ目となるのだろうか。

取材・文●喜瀬雅則(スポーツライター)

【著者プロフィール】
きせ・まさのり/1967年生まれ。産経新聞夕刊連載「独立リーグの現状 その明暗を探る」で 2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。第21回、22回小学館ノンフィクション大賞で2年連続最終選考作品に選出。2017年に産経新聞社退社。以後はスポーツライターとして西日本新聞をメインに取材活動を行っている。著書に「牛を飼う球団」(小学館)「不登校からメジャーへ」(光文社新書)「ホークス3軍はなぜ成功したのか?」 (光文社新書)
 

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