【特別寄稿】米国記者が明かす「私がサイ・ヤング賞投票でダルビッシュ有に票を投じなかった理由」

カブスのダルビッシュ有、サイ・ヤング賞逃す 米国記者が投票しなかった理由をつづる

記事まとめ

  • ナ・リーグのサイ・ヤング賞が発表され、ダルビッシュ有(カブス)は2位に終わった
  • 記事では、筆者のJP・フーンストラ記者がダルビッシュに投票しなかった理由をつづる
  • 記者はトレバー・バウアー、ジェイコブ・デグロム、ディネルソン・ラメットらに投票

【特別寄稿】米国記者が明かす「私がサイ・ヤング賞投票でダルビッシュ有に票を投じなかった理由」

【特別寄稿】米国記者が明かす「私がサイ・ヤング賞投票でダルビッシュ有に票を投じなかった理由」

日本人投手では初の最多勝を獲得したダルビッシュだが、サイ・ヤング賞投票では2位に終わった。(写真)Getty Images

11月11日、トレバー・バウアー(レッズ)が2020年ナ・リーグのサイ・ヤング賞投手に選ばれ、ダルビッシュ有カブス)は2位に終わった。興味深いことに、ある一人の投票者がダルビッシュにまったく票を投じなかった(注:サイ・ヤング賞の投票者は1〜5位までを選出する)ことが判明した。

 何を隠そう、その投票者とは私のことだ。

 ダルビッシュに投票しなかったのにはいくつかの小さな理由がある。私の中では、ダルビッシュは6位だった。私が実際に票を投じたのは以下の5人だ。

1位:バウアー
2位:ジェイコブ・デグロム(メッツ)
3位:ディネルソン・ラメット(パドレス)
4位:アーロン・ノラ(フィリーズ)
5位:デビン・ウイリアムズ(ブルワーズ)

 私の中で、この5人をダルビッシュが上回るという説得力のある根拠は見つからなかった。もっとも、その差はほんのわずかなものだったが。
  今年のような短縮シーズンでは、一人の選手が他の選手と決定的な差をつけることは難しい。新型コロナウイルスの感染拡大により、レギュラシーズンが162試合から60試合になった時点で、これは避けられない運命にあった。

 サイ・ヤング賞候補となった選手間の成績差はほんの微々たるものだった。1位と2位、3位、4位、5位の投手を隔てる差はほとんどなかった。

 だが、そこに序列をつけて票を投じるのが私の役目だ。いつものように、私は精密な吟味とディテールへの配慮を持って臨んだ。まず目をつけたのが、『ベースボール・プロスペクタス』(注:セイバーメトリクス系のデータサイト)のDeserved Runs Average(DRA)という指標だった。

 計算方法な複雑だが、基本的な原理はシンプルだ。DRAはまず、投手がコントロールできない要素をすべて把握することを目指す。キャッチャーのフレーミング技術、その投手が登板している際の味方の守備力、球場、対戦した打者のクオリティ、球審を務める審判の傾向などだ。そして、それらを投手がコントロールできる要素と切り分け、乗率を加えながら最終的に防御率と同じ感覚で良し悪しを判断できるような数字として算出する。
 【表】サイ・ヤング賞候補投手のDRAと防御率の比較

 今シーズンのダルビッシュの防御率2.01は、50イニング以上投げた投手の中でリーグ2位だった。だが、DRA3.26は11位に過ぎなかった。なぜこれだけの差が生まれたのだろうか? 今シーズン、各チームは同地区内の対戦しかなかった。たとえば、リーグを問わず西地区に所属するチームは中地区、東地区のチームとは1試合も戦わなかった。そして、3つのグループ(東地区、中地区、西地区)の中で、中地区は最もレベルが低かったのだ。

 ロサンゼルスに拠点を置いて活動する私は、すべての投手の実力を自分の目で判断することはできない。そこで、自分の目が捉えられなかったものを補うためにDRAを信頼した。

 バウアーはナ・リーグベストの防御率1.73をマークしたが、彼もまた比較的弱い中地区でプレーしていた。それでも、DRAは2.89でダルビッシュより優れていた。このことは私にとって、バウアーに1位票を投じる十分な根拠となった。

 2位に入れたデグロムもまた、DRAはダルビッシュより良かった(2.66)。過去2年連続でサイ・ヤング賞を獲得していた右腕は、より困難な相手が多い東地区で投げながら、防御率も2.38と優秀だった。
  ラメットは私が今年、直に見た中で最高の投手だった。彼は、ドジャースに次いでリーグ2位の勝率をマークしたパドレスで最も威圧感を備えた投手だった。DRA2.91はバウアーと同等で、対戦打席当たりの奪三振割合ではリーグ5位。私は、自信をもって彼に3位票を投じた。

 ノラはナ・リーグベストのDRA(2.58)を記録。防御率3.28はダルビッシュの2.01よりずっと高いものの、私はDRAを信頼してノラの方がずっと優れた投球内容だったと判断した。

 他の年であれば、ダルビッシュを5位にしていたかもしれない。しかし、ブルワーズのセットアップとして活躍した新人のウィリアムズは対戦した100人のうち53人から三振を奪い、DRA2.19は10イニング以上の投手では両リーグトップだった。防御率0.33という数字からも、圧倒的な投球だったことが分かる。“エア・ベンダー”と呼ばれる決め球のチェンジアップは、攻略不可能であると同時に美しさすらたたえていた。彼は、リリーフ投手に求められるすべての条件を備えていた。

 傑出した存在になることが難しい短縮シーズンで、この5人は(少なくとも私の考えでは)ダルビッシュよりも際立っていたということだ。

文●JP・フーンストラ

【著者プロフィール】
JP・フーンストラ。サザンカリフォルニア・ニュースグループに所属し、『オレンジカウンティ・レジスター』紙などに寄稿。全米野球記者協会会員。著書に『50 Greatest Dodger Games of All Time』。ツイッターアカウントは@jphoornstra
 

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