【氏原英明の日本シリーズ展望】いよいよ開幕!楽しみにしたい2つの“リターンマッチ”

【氏原英明の日本シリーズ展望】いよいよ開幕!楽しみにしたい2つの“リターンマッチ”

巨人の投打の軸、菅野(左)と岡本(右)の“リベンジ”がシリーズの行方を左右する。写真:山崎賢人

21日、2020年の日本シリーズが幕を開ける。

 コロナ禍によるイレギュラーなシーズンのクライマックスは、昨季と同カードのいわゆる“リターンマッチ”だ。昨季はソフトバンクに0勝4敗と完膚なきまでにやられた巨人が、どういう思いで挑んでくるかは想像に難くない。

 中でも、楽しみにしたいのは昨年の日本シリーズを動かした2つの対決だ。一つは千賀滉大vs岡本和真。もう一つは、菅野智之vsグラシアルである。

 まず、昨季の対決から振り返る。

 初戦に先発した千賀は、7回を3安打1失点に抑えて巨人打線に付け入る隙を与えず勝利投手になった。

 もっとも、一方的な試合だったわけではない。巨人が2回に阿部慎之助の本塁打で先制し、その裏にはソフトバンクがグラシアルの2ランですぐに逆転するなど、序盤は目まぐるしい主導権争いがあった。その中でターニングポイントとなったのが、3回表の巨人の攻撃、千賀が2つの四球を許し、2死一、三塁で主砲の岡本を迎えた場面だ。
  巨人としては逆転の好機だったが、ここでの千賀の投球は見事だった。まず、2球続けてフォークを投じ、いずれも空振りを奪って0−2。その後は岡本が何とか粘り、フルカウントまでこぎ着けた後の6球目。千賀と甲斐拓也のバッテリーは、インコースのストレートを選択した。これが岡本のバットをへし折って、どん詰まりのショートゴロに抑えて逆転を許さなかった。

 もっとも、この結果は最後の1球だけに集約されない。実は1打席目から布石はあった。この時は千賀がインコースに2球続けてカットボールを投じ、岡本はどん詰まりのピッチャーゴロに打ち取られた。このイメージがあったのか、2打席目のインコースのストレートに岡本は完全に翻弄されていた。

 昨今の投手の配球は緩急をつけるばかりではない。千賀のこの投球に見られるように、異なる球種を似たようなコース、似たような球速帯で投じるピッチトンネルで、打者の見極めを難しくする。

 千賀に完敗した岡本だったが、この勝負を振り返った時の反応が実に面白かった。「カットボールの残像にやられたんでしょ?」と水を向けると、怒気を含んでこう返してきたのだ。

「千賀さんのカットボールの被打率知ってます? 野球をやっていたら誰でも分かることですけど、カットボール自体はそんな難しい球じゃない。ちょっと我慢すれば打てるんです。千賀さんがすごいのはカットボールも、ストレートもインコースに投げ切れるからです。完璧に投げられたらしゃあないっすよ」

 とても岡本らしいコメントだ。押し並べてヒットメーカータイプの打者は、難しい球でも何とか安打にしようとする一方、岡本のようなアーティストは失投を見逃さずに打つ、甘い球を待って打つタイプが多い。「あんな厳しいところに投げられたら仕方がない」発言は、岡本の矜恃でもあるのだ。

 今回の日本シリーズは初戦に千賀が先発するが、昨季の経験を踏まえて岡本はどう対峙するのか。一年の歳月を経た再戦は、シリーズ序盤の楽しみの一つだ。
  一方、昨年の日本シリーズ第4戦に先発した菅野のピッチングも注目だ。4回表、グラシアルに3ランを打たれた場面は、多くの人が印象に残っているだろう。

 だが、この時は3球でグラシアルを2ストライクに追い込んでおり、菅野が優位に立っていた。マスクをかぶっていた小林誠司は、この対決をこう振り返っている。

「(グラシアルは)変化球のタイミングをとっていたのが分かったので、ストレートでしっかり追い込めた。そうしてこっちの有利なカウントまで持ってきていたんですけど、まとめの部分で攻めきれなかったですね」

 追い込まれれば狙い球を変えてくるだろうと踏んだバッテリーは、そこからスライダーを2球続けたが、2つとも外れてフルカウント。やや膨らんで入った最後の1球もやはりスライダーだったが、これがグラシアルのバットの餌食になった。この3点が響いて巨人は3対4で敗れ、菅野は敗戦投手に。そして、ソフトバンクに4連勝での日本一を許してしまった。
  昨季の菅野は持病の腰痛がパフォーマンスを低下させ、2度の登録抹消を経験するなど、ベストコンディションを保つことができなかった。シリーズ初先発が第4戦だったことが、その実情を表している。

 とはいえ、菅野はそれを言い訳にせず、自身への反省を促していた。

「今まで(の野球人生)が順調にいきすぎていたのかなと思う。自分を変えられるシーズンになったのかなと思います。もう一度自分を見つめ直して、レベルを上げるべきところは上げる。良い状態で来季に臨みたい」

 昨シーズン終了後、菅野は千賀も師事する『鴻江スポーツアカデミー』の門をたたき、フォーム改造に取り組んだ。昨季の敗戦から自身を見つめ直した再出発は、菅野の向上心の表れに他ならない。菅野ほど実績のある投手には、なかなかできることではない。

 そして、再出発はこれ以上ないほどうまくいった。開幕から13連勝を記録するなど完全復活し、巨人のリーグ制覇の旗頭となった。球界を代表するエースに返り咲いた菅野が迎える今年の日本シリーズは、これまで以上のワクワク感がある。どんなピッチングを見せてくれるのか、グラシアルへどのように“リベンジ”するのかを楽しみにしたい。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。

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