野球界の“掟”に縛られない全力プレーでソフトバンクを牽引!頼れる4番グラシアルの“真面目伝説”

野球界の“掟”に縛られない全力プレーでソフトバンクを牽引!頼れる4番グラシアルの“真面目伝説”

試合開始直後からヘッドスライディングを決めて、ユニフォームは泥だらけ。だが、それが全力プレー男グラシアルの持ち味なのだ。写真:塚本凛平(THE DIGEST写真部)

主力打者は「ヘッドスライディングを避けろ」というのが、プロ野球の世界では“不文律”になっている。下手をすれば大怪我の恐れもあるからだ。打線の中軸を打つようなバッターが戦線離脱のリスクを冒すことは、本来回避しなければならない。

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 しかし、ソフトバンクの4番、35歳のジュリスベル・グラシアルは、そんな野球界の“掟”などに縛られない。「チームが勝つために、オレは全力を尽くすだけさ」とさらりと言ってのける助っ人は、軍人だった祖父の影響を受け、中学からキューバのミリタリー・スクール(軍隊学校)に通い、「将来は軍隊の仕事をして生きていこうと思っていた」と言う。

 だから、自らに対しても、そしてチームの規律に対しても、グラシアルは厳格な姿勢を崩さない。フォア・ザ・チームのプレースタイルはもちろん、練習でも手を抜かない。日本流のきっちりとメニューが組まれた全体練習に不平も漏らさず、黙々とこなす。そんなグラシアルの、普段通りともいえる“献身的なプレー”が光ったのは、日本シリーズ第2戦の初回だった。

 巨人先発の左腕・今村信貴の立ち上がりを攻め、1死一塁から柳田悠岐がセンターオーバーのタイムリー二塁打で先制。続くグラシアルの当たりは、二塁ベース方向へ転がった。二塁手の吉川尚輝が追いついたが、全力疾走のグラシアルに慌てたのか、一塁へ悪送球。この間に柳田が二塁から一気に生還して2点目が入った。
  さらに、初戦で3安打4打点の大活躍を見せた栗原陵矢が、またも一・二塁間を破った。右翼の松原聖弥は強肩に定評があり、次の打者は長打が期待できるデスパイネだ。これらの状況を踏まえれば、グラシアルは二塁にとどまっても構わない。いや、むしろ、無理をしなくてもいい状況だった。

 それでも、グラシアルは走った。金のネックレスを振り乱して二塁ベースを蹴ると、三塁へ頭から突っ込んでいった。4番打者のユニホームが、試合開始直後から泥だらけ。しかし、それこそがグラシアルのプレースタイルなのだ。

 デスパイネは、当たりの弱いサードゴロ。それでも三塁にいたから、グラシアルは楽々と3点目のホームを陥れた。そんなアグレッシブなプレーに続き、3回の第2打席では、巨人の2番手・戸郷翔征の135キロのスライダーを左中間スタンドへ運ぶ2ラン。「久しぶりにいい当たりの本塁打だったよ」と、本人も納得の一打でもチームを鼓舞し、15安打13得点の大勝に貢献した。

 今季のグラシアルは苦難の日々が続いた。今夏に予定されていた東京五輪に向け、キューバ代表として予選に出場するため3月上旬に離日。ところが、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大で予選が延期になった上、キューバからも出国できなくなり、再来日は開幕から1か月後の7月19日までずれ込んだ。しかも来日直後は2週間の隔離期間が必要で、再調整も難しい状況が続いた。そんな中でも、リーグ優勝が決定した111試合目までに104通りのオーダーを組んだ今季のソフトバンクで、最多の31試合で4番を務めたグラシアルの存在は、いまやソフトバンクには不可欠なのだ。
 「こんな真面目な外国人は、初めて見たよ」と小川一夫前二軍監督が驚きを隠せなかったのは、入団1年目の2018年のことだった。打撃練習では普通、打者は目慣らしをかねて最初の2、3本はバントをする。だが、主力級なら試合でバントのサインが出ることがまずないため、ハーフスイングのような形を取るケースがほとんどだ。

 ところが。
 
「グラシアルは、ちゃんと腰を落として、バントの構えをして、打球を殺して、転がすんだよ。あんな丁寧にバントをする外国人、俺は初めて見たよ」と小川前監督。こうしたグラシアルの“真面目伝説”は、あちらこちらから聞こえてくる。

 1年目の5月、グラジアルは試合中に左手薬指を骨折し、リハビリと再調整に2か月半を要した。その間、筑後のファーム施設でみっちりとウェイト・トレーニングに取り組んだ結果、来日当時のユニホームがきつくなってしまい、ワンサイズ上のものを発注し直すことになったという。ファームの遠征でも、炎天下のグラウンドで決して全力疾走を欠かさなかった。
  今シリーズでは2試合とも左翼を守ったが、キューバ代表でもソフトバンクでも、本職のサードを守る機会がある。そういう時、投手がピンチになると、グラシアルはたびたびマウンドにやって来る。

「何か言ってくれているんです。言葉は分からないんですけど、熱いですね。ハンパではないリーダーシップを感じます」と絶賛したのは和田毅だ。メジャーの大舞台も経験したことのある39歳のベテラン左腕を熱くさせるだけのものが、グラシアルにはあるのだ。

 日本シリーズではこれまで2試合ともにマルチ安打をマークし、7打数4安打の打率.571を記録している。昨年の日本シリーズでは4戦3発でMVPに輝いた男は、プレーでも、そして精神面でも、今年も頼りになりそうだ。

取材・文●喜瀬雅則(スポーツライター)

【著者プロフィール】
きせ・まさのり/1967年生まれ。産経新聞夕刊連載「独立リーグの現状 その明暗を探る」で 2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。第21回、22回小学館ノンフィクション大賞で2年連続最終選考作品に選出。2017年に産経新聞社退社。以後はスポーツライターとして西日本新聞をメインに取材活動を行っている。著書に「牛を飼う球団」(小学館)「不登校からメジャーへ」(光文社新書)「ホークス3軍はなぜ成功したのか?」 (光文社新書)

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