メッツの新オーナーはインサイダー取引の過去を持つヘッジファンドの帝王

メッツの新オーナーはインサイダー取引の過去を持つヘッジファンドの帝王

全米でも屈指の富豪として知られるコーエン。愛するメッツを1986年以来のワールドチャンピオンに導けるだろうか。(C)Getty Images

MLBに、久々に“大物オーナー”が登場した。先日、メッツ買収が承認され、正式にオーナーとなったスティーブ・コーエンのことだ。

 1956年生まれのコーエンは現在64歳。自ら率いたヘッジファンドで巨万の富を築き、2016年には『フォーブス誌』で全米30位の富豪に数えられたこともある。総資産は145億ドル、日本円にしておよそ1兆5000億円(!)にも達すると言われ、これはMLB全30球団のオーナーの中でもダントツ。莫大な資金力を背景に、今後は積極的な補強を敢行するとみられている。これまで、人気でも実績でもずっとヤンキースの後塵を拝してきたメッツファンは“救世主”としてコーエンに期待を寄せているのだ。

 コーエン自身、幼い頃からメッツファンだったということも、ニューヨーク市民からすればポイントが高い。ロングアイランドで育ったコーエンは地下鉄で前本拠地のシェイ・スタジアムに足繁く通い、最上階席に陣取ってメッツに声援を送っていたという。

 最近、メッツファンをさらに喜ばせる出来事があった。1986年のワールドシリーズ第6戦でメッツがサヨナラ勝ちした際のボールを、コーエンが所有していることが明らかになったのだ。
  レッドソックスに3勝2敗と王手をかけられていたこの第6戦、延長10回表に2点を勝ち越されたメッツはその裏、2死走者なしというまさに土壇場から反撃を開始。3連打と相手のワイルドピッチで同点とすると、続くムーキー・ウィルソンの何でもないゴロをレッドソックスの一塁手ビル・バックナーがまさかのトンネル。サヨナラ勝ちで第6戦に逆転勝ちしたメッツは続く第7戦にも勝って、球団史上2度目のワールドチャンピオンを達成した。

 この試合でウィルソンが打ったボールは92年に俳優のチャーリー・シーンが9万3000ドルで購入。その後、ソングライターのセス・ソワースキーを経て12年にコーエンが密かに買い取っていた。当時は名を伏せていたコーエンだが、このたびのオーナー就任に伴い持ち主であることを名乗り出た。ボールはメッツの博物館に寄贈されるそうだ。
  心からメッツを愛し、しかも唸るほど金を持っている。ファンにしてみればまさに理想のオーナーだが、実は少し心配な面もある。

 ハイリスク/ハイリターンの投資戦略で巨万の富を築いたコーエンは、一方でかなり危ない橋も渡ってきた。13年にはインサイダー取引の容疑で刑事訴追され、18億ドル、約2000億円近くもの罰金を科されて投資顧問事業からの撤退を余儀なくされた過去もある。実は、かなり「いわくつき」の人物なのだ。
  コーエン率いるファンドの取引手法は控えめに言ってもグレーエリアに属するもので、米証券取引委員会やマンハッタン地区連邦検察庁、そしてFBIから長い間、捜査対象としてマークされてきた。アメリカの人気ドラマ『ビリオンズ』に登場する、成功のためには手段を選ばないヘッジファンドの帝王・ボビー・アクセルロッドはコーエンをモデルにしているとも言われる(顔はまったく似ていないが)。

 折しも球界では、アストロズのチームぐるみのサイン盗みが話題なったばかり。長く遠ざかっているワールドチャンピオンの座を手に入れるため、コーエンが一線を超えてしまわないことを祈るばかりだ。

構成●SLUGGER編集部

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