『現役ドラフト』の“現在地”。選手会は導入を切望するも、コロナ対応に追われる球団側は…

『現役ドラフト』の“現在地”。選手会は導入を切望するも、コロナ対応に追われる球団側は…

コロナ禍はプロ野球にも大きなダメージを残した。特に選手会がここ数年訴えてきた「現役ドラフト」の話も、議論の場すらもたれることがなくなってしまっている。写真:塚本凛平(THE DIGEST写真部)

新型コロナウイルスの脅威が日に日に増す中、2月1日のキャンプインが近づくプロ野球で、すっかり忘れられかけている議論の的がある。現役ドラフトの導入だ。

「選手会としては、コロナ禍でも現役ドラフトについて話し合うのが難しいとは思いません。球団側は、『なかなかそれどころではない』と言うかもしれませんが……」。1月12日、日本プロ野球選手会の森忠仁事務局長は電話越しにそう話した。

 世界中で猛威を振るうパンデミックが社会のあり方を大きく変え、不自由な暮らしを強いられる人々は、自分にとって本当に大切なものは「普遍」だと改めて感じているのではないだろうか。

「コロナの前、現役ドラフトは選手会の最優先事項でした。依然、優先順位は高いです。毎年やめていく選手が出ることを考えたら、早く導入したい。球団から積極的に言ってくることはたぶんないと思うので、選手会から積極的に働きかけていきます」
  森事務局長が言う現役ドラフトとはMLBのルール5ドラフトのことを指し、ベンチや二軍で燻っている選手たちを他球団に移籍させ、活躍のチャンスを与えようとする制度だ。いわゆる“飼い殺し”をなくすことは選手会にとって積年の課題で、コロナショックがなければ、現役ドラフトは2020年から導入されるはずだった。パンデミックの脅威にさらされる中、その議論は先送りされている。

 コロナ禍でよく指摘されるのが、このウイルスが世の中のあり方を変えたわけではなく、もともとあった問題が顕在化されたということだ。

 2020年のプロ野球が3か月遅れで始まる際、改めて球界のいびつなあり方が浮き彫りになった。開幕をいつ、どのような形で迎えるか、すべて球団主導で決められたのだ。選手会の森事務局長はNPBに話し合いの機会を何度も求めたが、初めてその場が持たれたのは開幕18日前だった。

「6月19日という開幕日と、年間120という試合数ありきで去年の開幕を迎えてしまいました。今年は去年のような形にならないよう、事前に球団側と話をしていきたい。コロナに関係する事項を振り返って、直すべきものを直していくよう早めにやっていきます」
  MLBでは開幕直前まで選手会と球団側が年俸や試合数など条件面を交渉し、折り合わずにコミッショナー裁定という形でシーズンをスタートさせた。互いが歩み寄りを見せず、ファンから「億万長者対百万長者の喧嘩」と冷ややかな視線を向けられた。

 対してNPBが示したのは、“変わらない日本”の縮図だった。「選手は球団の言うことに従えばいい」という、旧来的な上下関係である。

 プロ野球がビジネスである以上、球団が経営をうまく回すことは極めて大事だが、同時にプレーの質をいかに高めるかも“商品価値”という意味で重要になる。コロナ禍という未曾有の事態が勃発し、開幕までに球団とのコミュニケーションをうまくとれず、森事務局長は改めて課題を認識した。

「プロ野球は興行ですから、選手たちが100%の状態をファンに見せるべきです。何より選手の調整が優先されるべきだと思う。今年は開幕までの調整期間をしっかりとってもらえるように対応していきたい」
  球団と選手会の力関係に加え、MLBとNPBにおける最大の違いとされるのがコミッショナーの役割だ。NPBでは“最高意思決定者”として機能せず、その弊害がさまざまに出ている。特にコロナ禍で表れたのが、12球団によって置かれる環境が大きく異なるという問題だった。森事務局長が続ける。

「去年は緊急事態宣言下で球団の施設を使えるチームがあれば、そうでないところもありました。加えて近年、年俸面で球団間の格差がかなり出ています。選手は入団する時に球団を選ぶことができないし、移籍を自由にできないことを考えると、各球団の格差が出すぎるのはどうなのかなと思っています」

 観客の入場制限がかけられた昨季、各球団は経営的に大打撃を受けた。楽天は数十億円の赤字見込みだという。

 今季も座席間隔を空けてのチケット販売がしばらく求められるだろう。その一方、数万人が詰めかけるスタジアムでの観戦に、二の足を踏むファンも少なくない。昨年末、ある球団の幹部は「なかなか客足が戻らない」と嘆いていた。この影響は今年オフの契約更改に表れる可能性があり、重要な問題なので別項で詳しく触れたい。
  周知のように新型コロナウイルスの感染者は日本中で増え続けており、その対応は球界にとっても最大の焦点だ。去年の反省を踏まえ、次善策をいかに整えておけるかが重要になると、森事務局が語る。

「濃厚接触者が出たらどう対応するかなど、選手たちに明確に伝わっていなかった部分も去年はありました。感染者が出たら選手の入れ替えをどうするかなど、コロナ特例もしっかり整理する必要があります」

 2020年の主なコロナ特例を振り返ると、以下が適用された。
・レギュラーシーズンは6球団24回戦総当たりの各球団120試合とする
・クライマックスシリーズは、パ・リーグは1位球団と2位球団の対戦、セ・リーグは開催しない
・延長回は10回までとし、10回を終わってなお同点の場合は引き分け試合とする。(イースタン、ウエスタンも同様)
・出場選手登録は1球団31名まで、ベンチ入りは26名まで(うち外国人選手は出場選手登録5名以内、ベンチ入り4名以内)。
・新型コロナウイルス感染拡大を防止し、シーズンを最後まで継続することを目的に「感染拡大防止特例2020」を新設。本人や家族の感染疑いや体調不良の症状が発生した場合、選手異動手続き(出場選手登録、登録抹消)に特例を適用することができる。
  今季は従来どおりでレギュラーシーズン143試合、CSは上位3球団による2ステージ制で実施される。ただし、新型コロナウイルスの影響で開幕がずれ込む事態になった場合、昨季のようにパ・リーグのみCSを実施してセ・リーグは行わないという、両リーグで異なるフォーマットを採用することは避けるべきだ。日本一を決めるまでのプロセスに、両リーグの整合性が取れていないのはおかしい。昨年の日本シリーズでソフトバンクが巨人を4連勝で下した際、その一因としてCSがなかったことも指摘された。その他の特例は、今季も引き継がれる見通しだ。 

 コロナ禍の対応は球団、選手にとって骨が折れるものだが、その中でいかにコミュニケーションをうまくとれるか。有事の中で互いが不信感を抱かないためには、意思の疎通を図るほかにない。

 逆にそうした関係性を築くことができれば、コロナが収束して以降、球団と選手が一体となり、より良い球界の発展につなげる土台にできるはずである。

取材・文●中島大輔

【著者プロフィール】 
なかじま・だいすけ/1979年生まれ。2005年から4年間、サッカーの中村俊輔を英国で密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に野球界の根深い構造問題を描いた『野球消滅』。『中南米野球はなぜ強いか』で2017年度ミズノスポーツライター賞の優秀賞。近著に『プロ野球FA宣言の闇』など。

関連記事(外部サイト)