21年連続で球宴出場、KKKに脅かされた少年時代――アーロンが残した記録と逸話の数々

21年連続で球宴出場、KKKに脅かされた少年時代――アーロンが残した記録と逸話の数々

アーロンが打ち立てた数々の偉業は、今後も球史に刻まれ続けるだろう。(C)Getty Images

先日、86歳の生涯を閉じたハンク・アーロンは、今から47年前にベーブ・ルースが持っていた通算714本塁打の最多記録を塗り替えた。この偉業は日本でも広く知られているが、アーロンの大記録や逸話は他にいくつもある。今回はその中から6つを紹介しよう。

▼差別に立ち向かった生涯
 アーロンが生まれ育ったアラバマ州モービルは深南部で黒人差別が激しい地域だった。アーロンが住む地域にも夜な夜なクー・クラックス・クラン(KKK。アメリカの白人至上主義団体)が現れ、母親に「ベッドの下に隠れていなさい」と言われたことがあったと回想している。メジャーデビューした頃は遠征で白人選手と同じホテルに宿泊できず、数少ない黒人のチームメイトと粗末な黒人用の宿や黒人家庭に泊まったこともあった。

 ルースの記録に迫りつつある時も「出場するな。さもなければお前を撃つ」「子供を誘拐するぞ」といった脅迫状が届き、アーロンと家族には護衛が付けられたほどだった。通算713号でシーズンを終えた73年のオフは、記録へのプレッシャーと脅迫の中で、さぞ長い日々だったに違いない。アーロンが715本目の本塁打を打った試合を実況したビン・スカリーは、「いつもはポーカーフェイスのアーロンが、ようやく安堵の表情を見せました」と伝えている。
 ▼通算本塁打が1位でなくなっても…
 通算本塁打記録は2007年にバリー・ボンズが塗り替えたが、アーロンは他にも史上最多記録を保持している。1477長打と6856塁打、2297打点は歴代1位。現役1位のアルバート・プーホルス(エンジェルス)は歴代5位の1347長打と5923塁打、3位の2100打点を残しているが、すでに41歳。あと数年プレーできたとしても、アーロンの記録には届かない可能性が高い。20代の現役選手の最多はマイク・トラウト(エンジェルス)が持つ610長打、2642塁打、798打点だが、いずれもまだアーロンの半分にも達していない。

▼21年連続でオールスター出場
 これほどの数字を積み上げるには、長年にわたって一線級の活躍を続ける必要がある。アーロンはメジャー2年目の55年から、シーズン20本塁打以上を20年にわたって続けた。それだけでなく、ルーキーイヤーとラストイヤーを除く55〜75年は、何と21年連続でオールスターに選出されている。この2つはともに歴代最長のストリークだ。54〜61年にチームメイトだったジョニー・ローガンは、アーロンの衰えを知らない活躍ぶりを、「アーロンはミシシッピ河のようだ。途絶えることがない」と評した。
 ▼史上最強のホームラン・デュオ
 アーロンと同時代のブレーブスには、通算512本塁打のスラッガー、エディ・マシューズもいた。彼とアーロンは54年〜66年の13年にわたってデュオを形成。この期間に2人が放った計863本塁打(アーロン442本/マシューズ421本)は、歴史上のどのコンビよりも多い。ルースと“鉄馬”ルー・ゲーリッグですら、コンビでは計859本塁打(23〜34年=511本/348本)。当時はこの記録が話題になることはなかったが、アーロンはこちらでもルースを抜いたことになる。

▼唯一の心残りは…
 アーロンはパワーだけの打者ではない。首位打者も2度獲得しており、通算打率も3割を超えている。70年に通算3000安打に到達した時には「ルースの記録に追いつければすごいこと。でも、打撃の確実さという点では3000安打の方が重要」と語っている。引退後は「三冠王になれなかったことが唯一やり残したこと」と何度も口にしていたように、打撃三冠すべてでトップ5入りすること4度。もっとも惜しかったのが63年で、44本塁打が1位タイ、130打点が1位、打率.319は7厘差の3位タイだった。
 ▼すべてに優れた“5ツール・プレーヤー”
 相棒のマシューズは「すべてにおいて、彼は他の選手に勝るとも劣らなかった。多くの人がアーロンよりウィリー・メイズ(ジャイアンツなどで通算660本塁打を放った名外野手)の方が上だと言う。でも、アーロンはミルウォーキーという田舎で、メイズは大都会のニューヨークでプレーしていた。アーロンがニューヨークにいれば、人々は彼の方が優れた選手だと気づいたはずさ」と語っている。

 元チームメイトの証言という点を差し引いても、実際、アーロンは優れた5ツール・プレーヤーだった。シーズン20盗塁以上を6度記録し、63年には史上3人目(4度目)の30-30(44本塁打&31盗塁)を達成した。ライトの守備でも強肩を武器に、毎年のように2ケタ補殺を記録。通算179補殺は右翼手歴代8位の数字だ。

 しばしば「クワイエット・マン(静かなる男)」と形容されたように、アーロンにルースのような破天荒さは見当たらず、メイズほど華やかな選手でもなかった(もちろん、ボンズのような傲慢さとも無縁だった)。だが、こうして駆け足でキャリアを振り返っただけでも、その偉大さは明らかだ。昨今、「レジェンド」という言葉は乱発されている感もあるが、アーロンが真に「レジェンド」と呼ぶに値する数少ない存在であることに異論の余地はないだろう。

文●宇根夏樹

【著者プロフィール】
うね・なつき/1968年生まれ。三重県出身。『スラッガー』元編集長。現在はフリーライターとして『スラッガー』やYahoo! 個人ニュースなどに寄稿。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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