マー君が語った「アメリカでやり残したこと」――ワールドシリーズ制覇の“難易度”を探る〈SLUGGER〉

マー君が語った「アメリカでやり残したこと」――ワールドシリーズ制覇の“難易度”を探る〈SLUGGER〉

今後も世界一を目指そうとしている田中(写真右)だが、ワールドシリーズへ出場した日本人選手は松井(左上)や上原&田澤(左下)ほか、数えるほどしかいない。写真:金子拓弥(THE DIGEST写真部/田中)、Getty Images(松井、田澤、上原)

8年ぶりに楽天へ復帰した田中将大は、30日の会見で力強くこう語っていた。

「アメリカでやり残したことがあると思っている」

 やり残したこととは当然、「ワールドシリーズ制覇」だろう。7年前のヤンキース入団会見で「世界一になるためにここに来た」と語っていたし、2017年にオプトアウトせず残留を選択したのも、それを果たすためだった。

 しかし、ヤンキースは田中が在籍していた7年間でポストシーズンに5回進出をしながらも、ワールドシリーズ制覇はおろかリーグ優勝もできなかった。もっとも、田中自身はポストシーズンで何度も神がかり的なピッチングを見せていた。ただそれでも、チームを頂上決戦に導けなかったことには、忸怩たる思いがあるはずだ。

 とはいえ、そもそもワールドシリーズ進出自体がかなりの難業であるのも確かだ。これまでにメジャーでプレーした62人の日本人選手のうち、ワールドシリーズの大舞台でプレーできたのは14人しかいない。ワールドチャンピオンにまで上り詰めた選手はさらに少なく、05年の井口資仁(当時シカゴ・ホワイトソックス)を皮切りに、田口壮(06年/セントルイス・カーディナルス)、松坂大輔、岡島秀樹(ともに07年/ボストン・レッドソックス)、松井秀喜(09年/ニューヨーク・ヤンキース)、田澤純一、上原浩治(ともに13年/レッドソックス)の7人だけである。
  この中で最も鮮烈な印象を残したのは、やはり目下ヤンキース最後のワールドシリーズ出場、そして最後の世界一の立役者となった松井だろう。松井は渡米1年目の03年にもワールドシリーズへ出場したが、この時はフロリダ・マーリンズ(現マイアミ・マーリンズ)に敗れて苦杯を舐めた。

 そして、09年に2度目のシリーズ出場を果たした際は、そのうっぷんを晴らすかのように、2連覇を目指すフェイラデルフィア・フィリーズ相手に6試合で打率.615、3本塁打8打点と大暴れ。ヤンキースを9年ぶりの世界一へ導くとともに、アジア人初のワールドシリーズMVPを受賞した。

 松井に次ぐ活躍でチームを世界一に導いたのが、13年にレッドソックスで世界一メンバーとなった上原浩治と田澤純一の日本人リリーバーコンビだ。カーディナルスとのワールドシリーズで、2人は揃って5試合ずつに登板して無失点と好投。田澤は勝利の方程式の一角として2ホールド、上原はクローザーとして2セーブを挙げた上に、“胴上げ投手”という栄誉も味わっている。
  日本人選手で唯一、2回も世界一メンバーになっているのが田口壮だ。1回目はカーディナルス時代の06年。レギュラーシーズンでは控え外野手ながらも、野球IQに裏付けられた小技を名将トニー・ラルーサから評価されて134試合に出場。リーグ優勝決定シリーズまでは代打で4打数4安打、2本塁打と大活躍した。

 ワールドシリーズでは11打数1安打と調子は落としたものの、第4戦では7回に代打バントを見事に決め、さらにこれがエラーとなって出塁。逆転のホームを踏むなど持ち味の小技で存在感を発揮。田口は第5戦の最後のアウトを取る瞬間にもライトを守っており、世界一が決まった瞬間にフィールドに立っていた初の日本人選手となった(前年の井口は世界一の瞬間はベンチに下がっていた)。

 2度目は08年のフィリーズ在籍時で、この時は岩村明憲のいたタンパベイ・レイズとの“日本人対決”が期待されたが、出場機会がなかった。なお、田口は04年にもワールドシリーズ出場を果たしており(レッドソックスに0勝4敗で敗退)、進出3度は日本人最多である。また、ワールドシリーズで対戦した両チームに日本人選手が出場した例は、07年の松坂&岡島(レッドソックス)vs松井稼頭央(ロッキーズ)がある。
  逆に世界一まであと一歩のところで敗退したのが、02年の新庄剛志(当時サンフランシスコ・ジャイアンツ)と14年の青木宣親(当時カンザスシティ・ロイヤルズ)、そして17年のダルビッシュ有(当時ロサンゼルス・ドジャース)の3人。

 新庄が日本人初出場を果たした02年のワールドシリーズは、ジャイアンツがロサンゼルス・エンジェルスを第5戦までに3勝2敗と追い詰めたが、そこから2連敗でまさかの敗退。青木は14年のワールドシリーズで主に2番ライトを務めたが、14打数で1安打のみと大ブレーキ。チームも3勝3敗で迎えた第7戦でジャイアンツに2対3で惜敗し、世界一を逃している。

 ある意味で最も惜しかったのはダルビッシュだろう。世界一への最後のピースとして、シーズン途中にテキサス・レンジャーズからドジャースへトレード移籍した右腕は、ポストシーズン2勝を挙げてワールドシリーズの舞台に挑むも、第3戦で1.2回を4失点と炎上。3勝3敗で迎えた第7戦の先発マウンドにも上がったがこの時も2回持たずに5失点を喫し、V逸の決め手になってしまった。

 失意の投球に、当時はドジャースファンから「戦犯」と大バッシングを受けたが、2年後に対戦相手だったヒューストン・アストロズのサイン盗みスキャンダルが発覚。「戦犯」から一転して「被害者」として扱われる壮大な"手のひら返し"を受けた。

 なお、日本人メジャーリーガーで文句なしに史上最高と言える存在のイチローは、19年間でワールドシリーズ進出は一度もなし。ポストシーズン出場も01年のマリナーズと12年のヤンキースの2度だけで、16年には『Yahoo!スポーツ』の「世界一に無縁な10人のスーパースター」のうちの一人に選出されている。

 チームスポーツである野球において、自分の実力だけでは頂点に立つことはできないという好例だが、田中はこの先、悲願のワールドシリーズの舞台に立つことはできるのだろうか。

文●筒居一孝(SLUGGER編集部)

【PHOTO】”マー君”の8年ぶり楽天復帰が電撃決定!笑顔で入団会見に臨む田中将大を特集!

関連記事(外部サイト)