ヤクルトの弱点を補う「5番・内川聖一」の可能性。背番号7の“影響力“は今季最大の補強になるか

ヤクルトの弱点を補う「5番・内川聖一」の可能性。背番号7の“影響力“は今季最大の補強になるか

臨時コーチを務めた若松勉氏も、内川は5番で通用すると高く評価している。写真:田中研治

「さぁいこー!!」

 浦添のメイングラウンドで、内川聖一は声を張り上げていた。初日から大きな声を出していた内川の喉は2日目にはもう嗄れていたが、円陣では元気に声を張った。2月28日、キャンプ最終日にも、その声と明るさは途切れなかった。

 ソフトバンクを戦力外になり、ヤクルトに入団を決めた。プロ入り21年目の新天地で、ワクワクも緊張もすると言っていたキャンプ。若手打者にはさっそくアドバイスをする姿もあり、コミュニケーションは問題ないようだ。青木宣親や山田哲人は侍ジャパンで一緒にプレーした仲だし、球団公式の動画でいう「ウッチーグッチー」、坂口智隆とのコンビはキャンプを通じて見られた。

 シートノックでは、若手からも「ウッチー!」と声がかかる。外国人投手が通りかかれば、「スアちゃんスアちゃん!」と笑顔で呼ぶ。試合中一塁で守備についている時には、制球を乱す投手にも「大丈夫だ!」「いい球いい球!」と声を掛け続けていた。

 ヤクルトのユニフォームにはもう違和感はない。背番号「7」もきっとすぐに自分のものにするだろう。

 今年39歳になる内川は、キャンプメニューでは「ベテラン組」だった。ランチ特打と呼ばれる、他の選手より早い時間のバッティング練習がある。そこには青木、山田、坂口とともに内川の名前があった。ランチを終えた選手が長い長いバッティング練習に入る頃、内川らはランチに入り、その後個人メニューとなる。
  キャンプ中継では室内練習場の様子が映し出されることがある。これは現地では到底見ることのできない内側なので、中継ならではだ。ある時には、山田が青木とバッティングについて話しているところが映った。やがてその場に内川が加わる。豪華すぎる打撃談義。特に山田と内川は右打者同士。他の選手では分からないような部分の気付きもあるだろう。

 内川が高い技術を持っているのは誰もが知るところだ。右打者最高打率の記録保持者は、昨年の一軍実績は無くとも、ウェスタン・リーグでは高い打率をキープした。勘は鈍っていない。キャンプが始まってすぐ、そのバッティングを久しぶりに見た杉村繁コーチは、「全然問題ない。ミート力は群を抜いている」と太鼓判を押した。臨時コーチを務めた若松勉氏も、内川は5番で通用すると高く評価している。

 ゆるいボールを続けて打つ。ポイントを手前に置き、しっかりした自分の形で芯を捉え打ち続ける。

 キャンプ中継で解説をした谷繁元信氏は、「ずっと見てたら眠くなりますよね」と冗談交じりに内川の打撃練習を評した。「ずっと同じ打ち方で、芯を食ういい音ばかり」というのは、その安定したフォームとミート力に対する賛辞だ。谷繁氏が日本シリーズで対戦した時は「どうやって内川を崩すかそればかり考えていた」という。敵に回すと嫌な打者は、ヤクルトにとって最高の味方となった。
  キャンプ中の対外試合で、内川の出場は2試合。4打数2安打1打点の成績だった。4番村上の後を打つ5番は、昨年固定できなかった弱点でもある。5番に強打者を置かなければ、村上が歩かせられるからだ。実際昨年の村上は、四球と故意四球が格段に多かった。外国人選手がいつ入国できるか分からない状態で、今そこに座る可能性が一番高いのは内川だ。

 3月3日。東京ドームでのオープン戦初戦。巨人に移籍した井納翔一から、5番内川が本塁打を放った。チームのムードを一気に変える一発。控え目に「アゴタッチ」をしてくる若手を逆にどやしつける姿は生き生きしていた。

 1番塩見、2番青木、3番山田、4番村上、5番内川、6番坂口……。個々の能力を十二分に発揮すれば、相手にとっては実に嫌な打線となるはずだ。守備面でも、2019年に一塁手として守備率10割を記録し、ゴールデングラブ賞も獲った内川の安定した守備は、チームにとって心強い。
  内川は、ヤクルトを選んだ理由の一つに「杉村繁コーチの存在」を挙げた。自身の年齢もあり、やがて指導者になる時のため、という考えもある。杉村コーチの指導に触れ、自分のプラスにすることと、他選手のプラスを考えること、両方を求めていくシーズンになる。ヤクルトは若手の育成は当然だが、中堅どころが今一つ伸びていない面があり、ベテランの力がまだ必要だ。青木・坂口とともに、一年中出場し続けることは難しいだろうことからも、その存在をプラスにし、彼らの立場を脅かす中堅・若手が一人でも多く出て来なくてはいけない。

 「勝ち方を知っているというより、強いチームにいただけ」と謙遜する内川だが、強いソフトバンクの四番も務め、両リーグ首位打者も達成した。二軍暮らしも経験し、自分がいなくても優勝する強いチームを、外から客観的にも見てきた。「経験だけはたくさんしてきているから、それを伝えたい」という内川が、後で振り返ってみて今季最大の補強である可能性は、意外と高いのかもしれない。

文●井上尚子

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