“ゴルフ”と“音楽” 相反する2つを共存させたトーナメントの目指す先【記者の目】

“ゴルフ”と“音楽” 相反する2つを共存させたトーナメントの目指す先【記者の目】

優勝を決めた瞬間 もちろんこのときも音楽がかかっていた(撮影:佐々木啓)

<RIZAP KBCオーガスタゴルフトーナメント 最終日◇26日◇芥屋ゴルフ倶楽部(7,151ヤード・パー72)>

芥屋ゴルフ倶楽部はこの4日間まるでパーティ会場のようだった。コースの一番端まで聞こえるほどの音楽が終始鳴り響き、選手は思い思いの選曲でスタートホールに登場する。8番ホールはDJフェスエリアとしてDJがホールインワンをあおる。3日目にはご当地アイドルのHKT48がスペシャルステージを行い、選手たちはアプローチコンテストで大会を盛り上げた。


特に各ホールに響き渡る音楽は強烈で、マイケル・ジャクソンやコールドプレイ、マイリー・サイラスといった洋楽をメインに、安室奈美恵や星野源、DA PUMPといった邦楽のアーティストも流れている。風向きにもよるが、コースの端である4番でもどこかしらの音楽が聴こえてくることもあった。

その様相はいわゆる“普通”のゴルフトーナメントとは異なるものだ。多数のアーティストやお笑い芸人が登場、モデルオーディションまで行われる女子ツアー「サマンサタバサ ガールズコレクション・レディーストーナメント」でも、さすがに選手のプレー中に音楽をかけることはない。

人がプレーしているときは静かにする。ゴルフを最初に覚えるときに教わるルールで、まさにゴルフの“基本のき”だ。集中している中で音楽がかかっているという状況は幼少の頃からクラブを握ってきた選手たちもあまり経験していない状況だろう。だが、選手たちからは好評の声が聞かれた。

優勝した出水田大二郎は勝負のかかった18番グリーンで音楽がきこえてきても「やりづらさはなかったですね。むしろ口ずさんでいてテンションが上がっていました」と話す。「去年よりも音量が大きくなっていますよね?(笑)」と話すのは上井邦裕。「18番のパターを打つとき結構、聴こえてきます。でも、盛り上がるならいいことですよね」。初日の18番ではノリノリの動きを見せるなど自身も楽しんだ様子だった。

1980年のナンバー・五輪真弓の『恋人よ』を登場曲に選んで会場をざわつかせたキム・ヒョンソン(韓国)は、「こういう試合は面白いですね。もっとこういう感じが増えていいと思います。楽しくできますからね」という感想とともにこんな効果も話してくれた。「このくらい音楽がかかっていると、小さな物音は気にならない。アメリカツアーのような感じでいいのではないでしょうか」と意外なメリットも感じたとか。

昨年から始まったゴルフと音楽の融合。大会事務局長の大保(だいぼ)一さんは、新たな取り組みを始めた理由についてこう話している。

「以前、ウェイスト・マネージメント・フェニックス・オープン(※編集部注:例年50万人以上のギャラリーを集める米国男子ツアーのトーナメント)を関係者の方々と観に行ったときに、会場の雰囲気に圧倒されました。一部で音楽もかかっていて、みんなで“この雰囲気いいよね”となりました。盛り上がるのは食べ物と飲み物と音楽じゃないかというところからスタートしました」(大保氏)。

また、福岡で開催ということで地元・福岡ソフトバンクホークスのエッセンスも取り入れた。「ホークスみたいに勝ちウタ(選手が選んだ打席に入るときやマウンドに上がるときにかかる曲)で登場するのもあったらいいよね、など、去年から手探りでやってみました」。さらに今年はブラッシュアップする。「去年の反省も踏まえて何かテーマを決めようということで今年は音楽とコラボして“夏フェス”というテーマでやってみました」。全選手ホールアウト後の特別ステージにはHKT48の他にもフラダンスやベリーダンスなど、地元の団体の発表の場を設けたり、エイベックスのダンスグループといった地元の団体とも協力し合いながら大会を盛り上げた。

とはいえ、トーナメント会場で音楽をかけるというのは今までに無かったこと。選手や関係者からの抵抗はなかったのか。

「全くありませんでした。芥屋ゴルフ倶楽部さんも説明したら理解していただいて。日本ゴルフツアー機構(JGTO)さんにも“ギャラリーを楽しませることが目的です”と説明したら了承を得ました。また、取り組みを始めるときに選手会にも相談をしました。昨年は宮里優作プロが選手会長で、相談したところ“それいいよね”といっていただけて。先輩方にも聞いてみようということになり、歴代の選手会長の宮本勝昌プロ、深堀圭一郎プロ、横田真一プロに集まっていただいて、大会関係者と意見交換をしました。その結果、“いいよね”と。逆に“もっとこうした方がいいよね”という意見をもらったりすることもあって、今の形になりました」(大保氏)。

第一は“ギャラリーのため”だが、「ギャラリーに楽しんでほしいのですが、選手にも楽しんでほしい」という思いもある。「気分を上げてプレーしてほしいですし、選手登場曲も個性が出て、選手自身が話題になるきっかけになったらいいなという思いもあります」。前述のヒョンソンをはじめ、ホークスの応援歌『いざゆけ若鷹軍団』を使用した秋吉翔太、必殺仕事人と渋いチョイスをした平本穏ら思い思いの選曲にギャラリーも選手も楽しんだ。

大保氏は来年以降について「今年も手探りでやっているのでもうちょっとコンセプト的なものを入れられたらいいなと。夏の曲限定にするとか」と、より夏祭りのようなイメージも考えている。また、「フェニックスも10何年前はギャラリーが5000人もいなかったと聞いています。それなら私たちも可能性があるなと思っています」。ゆくゆくはモンスタートーナメントとなる未来予想図を描いている。

静かで厳粛な雰囲気の中、選手の奏でるインパクト音を楽しむのがゴルフ場。そういう意見はもちろんあっていいし、そういうトーナメントは多い。逆にいえば今回のトーナメントのように音楽をかけ続けていることに意見があることも分かる。

だが、明らかにHKT48を観に来たファンが、スペシャルステージが始まるまでの間、18番のスタンドで真剣に選手のプレーを観る。また、他のトーナメントでは中々見られないような若いグループがお酒を飲みながらお祭り感覚で観戦していたりと、普段ゴルフに触れないような人々がゴルフと触れ合う機会となったのもまた事実。それを踏まえれば、男子ツアーだけでなく新たなゴルフファンの拡大という意味でも、こういったトーナメントも必要なのではないだろうか。(文・秋田義和)

<ゴルフ情報ALBA.Net>

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