“引っ込み思案な男”木下裕太の自分のゴルフを信じる力 自らに課したプレッシャーを力に変えた優勝劇【ツアーの深層】

“引っ込み思案な男”木下裕太の自分のゴルフを信じる力 自らに課したプレッシャーを力に変えた優勝劇【ツアーの深層】

堅実でメリハリのきいたゴルフで頂点に立った木下裕太(撮影:鈴木祥)

苦節11年。木下裕太のツアー初優勝で幕を閉じた「マイナビABCチャンピオンシップ」。川村昌弘が執念の追い上げを見せ最終18番でトップに並ぶ展開や、木下がイーグルで勝利を確定させたプレーオフなど、手に汗握る場面が続いた激戦はいかにして作り上げられたのか?JGTOのコースセッティング・アドバイザーを務め、選手の強化をコース攻略面から支える田島創志が今大会を振り返る。


■海外メジャーに匹敵…大会名物の超高速グリーン
「マイナビABCチャンピオンシップ」の名物の一つが、“超”という言葉がつけられるほど高速のグリーン。2日目の競技後には雨に見舞われたものの、プレー中は4日間快晴に恵まれ、最終日のグリーンはスティンプメーターが平均14フィートを記録。コンパクションも23.5mmと海外メジャーにも匹敵する仕上がりとなった。その状況でも優勝スコアは15アンダーまで伸びる展開となったが、これに関して田島はこう見解を話す。

「素晴らしく仕上がったグリーンに傾斜があまり強くないこともあって、ツアープロにとっては良いパッティングをすると気持ちよくラインを描いてカップインする最高の状態。良いショット、パッティングをすれば、そこに結果が出てしっかりとスコアになってくれるコースコンディションという印象でした」

優勝した木下は、平均パット数「1.6923回」で、これは全体2位。優勝を決めたプレーオフの奥4mのイーグルパットも「ラインは真っ直ぐと読んで、しっかりと打つことだけ考えました」と覚悟を決めてボールを打ち出し、そして歓喜の瞬間を迎えた。

■優勝する準備は整っていた
そんな木下が、今大会で口にしていた言葉が「メンタルが弱い」、「ひっそりと目立ちたくない」、「気弱」といった“ネガティブ”ともとれる自己評価の数々。これについて田島は「そう言って、自分自身にプレッシャーをかけている部分もあるのでは?」と心中を察し、こう言葉を続けた。

「(レギュラーツアーに)出た試合で上位に入り、トップ杯東海クラシックでは優勝争いも経験(最終成績は6位タイ)した。自分のなかで優勝する準備はできていたと思う」

実際、木下は「自分は追い込まないと、すぐに緩むタイプ」と話し、今季も都度「シード権獲得」、「最終戦(日本シリーズJTカップ)出場」と、目標を上方修正しながら、このプレッシャーを力に変えてきたと話していた。

そしてそういう性格もあってか、きちんと自分のゴルフを理解。「派手さがない堅実なゴルフなので、見ていてもあまり面白くないと思います」と笑ったプレースタイルを崩さず4日間を戦った。ここまでプレーを見ていた田島は、今大会の2日目にトップに立った際、「木下選手の優勝もあるかもしれない」と感じていたという。

「秋シーズンに入り、タフなコンディションの試合が続く。そのなかでは、うまくマネジメントをして、メリハリをつけることが大事になってくる。自分のゴルフに徹し、パフォーマンスを最大限に出し切れるか。そういうものは場慣れも大事になってくる」

16年のファイナルQTを18位で通過し、昨年はレギュラー17試合に出場した木下。本格参戦2年目となった今年は、その経験も生かして、初シード確定、そして初優勝と大きく飛躍するシーズンとなった。

■日本ツアーがより魅力的になるために
また木下は2007年のプロ転向以降、長年下部ツアーを主戦場とした。その間には「試合に出て赤字という選手がプロと言えるのか?胸を張ってプロと言えないのがつらかった」という日々を送ったが、それでも「チャレンジツアー(Abema TVツアー)に出られて、試合はあったから、ゴルフを続けることができた」という本音も明かした。

「下部ツアーでパフォ−マンスを発揮できれば、それをツアーに来た時も生かせる土壌ができてきました。これは今季から冠(Abema TV.)がついた意味を感じます。下部で戦っていた木下選手がいい試合を続けているし、今季3試合に出場している比嘉(一貴)選手も同様。下部からしっかりと選手が育つ流れが、これからさらにできてくるのではないか」

2019年シーズンからはチャレンジの賞金ランク上位20人に、レギュラーツアー前半戦への出場資格が与えられる(1位は年間シード)などその規模は拡大。試合はすべて3日間大会となり、賞金総額は前年比5200万円プラスの1億8300万円となった。加えて、19年からは同ツアーが世界ランクの対象となることも決まったため、選手にとってさらにレベルアップを図れる場所となる。

さらに、田島は今大会2位となった川村や、現在賞金ランク1位の今平周吾ら若手選手の名を挙げ、「若い選手たちは、今しっかりと世界を見据え、自分の世界でのポジションを確認し、そのうえで日本ツアーを戦っている。こういう選手が、しっかりと結果を残すことで、日本がもっと魅力あるツアーになると思う」と、その言葉に力を込めた。男子ツアーが、よりレベルの高い戦いの場となることに田島は期待する。

解説・田島創志(たじま・そうし)/1976年9月25日生まれ。ツアー通算1勝。2000年にプロ転向し、03年『久光製薬KBCオーガスタ』で初日から首位を守り、完全優勝。青木功JGTO(日本ゴルフツアー機構)体制では、トーナメント管理委員会 コースセッティング・アドバイザーを務める。

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