世界への新しい挑み方、勝ち方を見せてくれた渋野日向子の全英AIG女子オープン制覇【舩越園子コラム】

世界への新しい挑み方、勝ち方を見せてくれた渋野日向子の全英AIG女子オープン制覇【舩越園子コラム】

これまでとは違う、世界への新しい挑み方を示した渋野日向子(撮影:村上航)

全英女子オープンを制し、42年ぶりの日本人によるメジャー優勝を遂げた渋野日向子の笑顔を眺めながら、私の頭の中に走馬灯のように次々に浮かんできたのは、これまでメジャー大会という大舞台で勝てそうで勝てなかった日本人選手たちの悲痛な面持ちだった。


男子なら丸山茂樹、女子なら宮里藍が過去にメジャー優勝に幾度か迫ったが、勝利を手に入れることは、ついに叶わなかった。

2017年の全米プロで松山英樹が最終日に単独首位に立ちながら後半に崩れた出来事は記憶に新しい。ホールアウト後、しゃがみ込んで悔し涙を流した松山の背中を見守りながら、日本人選手が世界の舞台で頂点に立つ難しさを、ひしひしと感じさせられた。

メジャー優勝のみならず、米ツアーのレギュラー大会でも、勝利に手を伸ばしてはそこにぎりぎり届かず、そうやって痛恨の敗北を噛み締めているうちに、心が疲れ、不調に陥り、結局、志半ばで米ツアーから去っていった日本人選手は過去にどれほどいたことか。

だが、伸び伸びと笑顔でプレーする渋野の姿は、これまで日本人選手が通ってきたそういう日々、そういう出来事とは、まったく無縁で無関係のように感じられた。

メジャー初挑戦にして最終日を首位で迎えたというシチュエーションは、イコール、緊張で身も心も硬直し、大崩れする危険性や可能性と背中合わせだったと言っていい。序盤で4パットのダブルボギーを喫したシチュエーションは、負の連鎖の始まりになりがちな躓きだった。首位の座から陥落し、2位、3位と後退していったシチュエーションは、焦りや苛立ちで、それまでの笑顔が強張った表情に一変しても不思議ではない窮状だった。

だが、渋野はそうしたシチュエーションを上手く逆手に取り、自身のパワーに転換していったところが見事だった。4パットのダブルボギーは「怒るというより笑えてきちゃった」。首位から陥落しても「追われるより追う方が楽」。

そして後半は「あまり緊張していなかった。コーチとペラペラしゃべりながらできた。バーディパットも『入らなくていいや』と思って打ったら入ったりした」。

言うまでもなく、渋野にまったく緊張が無かったはずはなく、勝利への意欲だって無かったはずはない。アスリートである以上、プロゴルファーとして試合に挑んでいる以上、無欲であるはずはないのだが、しかし彼女は無心で戦っていた。だからこそ、自分というものを見失うことなく、力を発揮できたのだろう。

メジャー大会で勝ちかけて勝てなかったこれまでの日本人選手たちの多くは、幼いころからメジャー優勝を究極の目標、人生の目標に掲げながら必死で腕を磨き、その目標に近づくために米ツアーに挑み、そしてついにメジャーの舞台で夢の実現のチャンスを掴み、そしてそのチャンスを掴みそこなった。

それはきっと、そこに至るまでの長い歳月やプロセス、そこに込めた自身の想いがあまりにも重く強くのしかかってきたからこそ、何かが狂い、何かが起こり、勝利を逃したのだと私は思う。それほど、勝ちかけて勝てなかった彼らは、そのとき「いつもとは異なる彼ら」になってしまっていた。

しかし、今回の渋野には、そもそも「米ツアーにフル参戦したい」「世界の舞台でやってやるぞ」といった意志や希望が無く、優勝したあとでさえ、きっぱり「日本がいい」と言い切っている。

「まだ日本で十分に成績も出せていないのに海外でやる資格はないと思っています。日本での経験も浅いです。日本が好きというのもあります」

もっと強くなりたい、もっと上手くなりたい、もっと勝ちたいという向上心はもちろんあるが、彼女は世界の遥か彼方に視線を向ける代わりに、まず足元から見つめてきた。野望は抱かず、強欲にならず、謙虚な前進と笑顔を心掛けてきた。そうしたら、大きな大きな勝利を手に入れることができた。

日本人選手の世界への新しい挑み方、新しい勝ち方を見せてもらった。これからも日本で磨いた腕を、海外の大舞台でときどき試し、笑顔とともに披露し、さらなる勝利を重ねてほしいと願う。

文・舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

<ゴルフ情報ALBA.Net>